友達の言葉
「……っ!?き、キリ・・・!」
迷っている差者に声をかけたのはキリだった。
虚を突かれたのかサシャは一瞬固まってしまったが、すぐにハッとした顔をした。
「そんな、けど、あたしのせいで負けたら…」
「大丈夫よ、そうしたらまたみんなでなんとかすればいいだけ」
キリは自信満々に言葉を繋ぐ。
「けど、玉だぞ?あたしたちの今後を左右するもんだぞ?」
サシャ自身、とても不安なんだろう。俺に勝手に信用されて賭けられても、実際負けたら自分のせいには違いないのだから。
声も震え、握っている手も小刻みに震えていた。
「うん、全然大丈夫よ」
「な、なんで!」
ついに限界を迎えたのだろう、下を向いてしまった。
目は固く閉じ、目尻には涙が溢れていた。
しかしキリの言葉は明るく、そして温かくサシャを包んだ。
「そんな野暮なこと聞かないでよ、私たち友達じゃない」
「……!」
キリの言葉を聞いてサシャは目を見開いた。
「あ、たった2日だけしかとかくだらないこと考えないでね?」
「け、けど…」
「日数なんて関係ないわよ、友達ってのはそんな日付で決めるもんじゃないんだよ?」
「……」
「自分が心から信じられたら、それが友達なのよ?」
「…っ!?」
驚いた。サシャのことはただのお嬢様かと思ったら、心の強い女の子だった。
「だから、頑張ってサシャ。夕御飯楽しみにしてるね?」
笑顔でサシャを見るキリは誰よりも大人に見えた。周りのみんなも口を出さず、ただ見守ってた。
そこには誰も邪魔できない、二人の信頼関係が確かにあった。
「……い?」
「え?」
サシャは小さな声で何かをつぶやいた。キリも聞こえなかったのかキョトンとした顔で首をかしげていた。
「ゆ、夕飯なにがいいって聞いたの!」
「え、あ、わ、私はお魚がいい・・・です」
「魚ね、わかった。最高級なのを用意してあげるから、ちゃんと待っててね、サシャ!」
そういい顔を上げたサシャは、瞳から大粒の涙を流してはいたが、俺が見たことのないとびきりの笑顔で笑っていた。
自信に満ち溢れた、そんな顔で。
もはや誰もサシャの敗北なんてことを不安には思ってはいなかった。そして期待の目でもなかった。
サシャの勝利を信じて待つ。そういう目だった。
俺の言葉はこれ以上必要ない。そう感じ俺はサシャの肩を叩き「行くぞ」と声をかけたらサシャは「おう、行くぞ!」といい返事で返してきた。
もう、勝つ気しかしない。その気持ちは俺の中で確信へと変わっていた。
もう行く、そんな時にサタンが「ちょっと待て」と声をかけてきた。
「なんだよ…。空気読めよ…」
「サタンまじ使えねーな」
今いい感じの出発シーンだろうが…。コイツ本当にそういうところあるよな。
「うるせーよ!ちげーーよ!」
そういい耳から大きめのピアスを外し俺たちの前に出した。
「俺、ピアスの穴開けてないよ?」
「おめぇじゃねぇよ!」
「え、あたしはあんたがつけていたピアスなんかつけたくない」
「おめぇでもねぇよ!つかてめぇ燃やされてぇのか!」
声を荒らげ否定してくるサタン。
じゃあいったい誰に…。と俺が言う前にサタンは「コイツも金の足しにしろ」と言い俺の手に掴ませた。
受け取ったピアスをまじまじと見てみると、それは親指の第一関節ほどの大きさの半透明の結晶体だった。
そして、俺はこの宝石に見覚えがあった。
「…見たところ宝石だけど、なんの宝石?」
「コイツは人間界で言うダイアモンドで出来てる。少しは金になるだろ」
…やっぱりそうだったか。
「あぁ、まぁマイナーな宝石だしそんな価値にならないだろうけどよ、俺からの選別だ」
え、いや、ダイヤ?あのダイヤ?こんなに大きな?
「サタンさん、ダイヤはそんなにお金になりませんよ?」
「そうだよサタンさん、その指にはめている金の指輪の方が価値が高いに決まってるじゃないか」
「そんな物、わしの炭鉱にはいくらでも出てきたぞ。石ころ当然じゃ」
周りもサタンの贈り物にえーっと批判の声を出している。だがサタンは「うるせぇ!」と突っぱねた。
「こういうもんはなぁ!気持ちが肝心なんだよ!なぁ、ククル!」
サタンはよっぽど恥ずかしいんだろう。耳まで真っ赤にさせながら口から炎が漏れ出していた。
「…ありがたくもらっていくよ。じゃあこれを預かってて」
そう言い、俺は玉をサタンに渡した。
「あ?なんで玉渡すんだよ、これは担保にすんだろ?」
とても不思議そうな顔をし、サタンはたまを突き返そうとしてくるが、俺は「いや、いらない」と突っぱねた。
「……もういらなくなったから」
「……???」
魔族界では石ころみたいなそんなに価値のないものかもしれないけど、人間界では玉より間違いなくこっちのほうが価値あるんだよ。
俺とサシャはサタンのダイヤだけを持って街へと転移した。




