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Ocean Blue  作者: 満月おばけ
9/14

目的地へⅡ

遅筆で更新中。

魔女の魔力は、空腹と関係があるらしい。

いざ出発と飛び立ったはいいものの、数分も立たず落下した。

何度か味わった嫌な浮遊感に、有韭は悲鳴をあげる事しかできない。元より、ジェットコースター等の過激な乗り物は苦手だ。

命綱がある分、ジェットコースターの方がマシだな、と後になって思う。


「あれで気を失うとか・・・この先大丈夫なの?」


マロンが呆れながら濡れタオルを渡す。

どうやら落下にたえられず、有韭は意識を飛ばしたらしい。

フウネに落とされた時の方が酷い落下具合だったはずなのにな、

と1人溜息をつく。


「ごめんなさい・・・私が不甲斐ないばかりに・・・」


「いや、俺もユンに頼りきりだったから」


申し訳なさそうにしながら、ユンが心配そうに有韭の顔を覗き込む。少し気まずい間が流れた。


「魔女の魔力はご飯パワーとは思わなかったなぁ」


そんな雰囲気とはお構い無しに、フウネが笑いながら有韭の前に水を差し出す。次いで、机の上にパンやらサラダやら食べ物を見知らぬ男に運ばせた。割腹のいい男性(店主だろうか)が、フウネと仲良さげに話していた。


『ここは・・・食堂か・・・?』


有韭はようやく体を起こして、周りを見回した。

食堂にしては閑散としている気がする。有韭達以外に客はいないようだ。

フウネが2、3ほど言葉を交わして有韭達の所に戻ってきた。


「食べやすそうなものを選んだつもりだけど、食べられそう?」


「・・・今の人は?」


「あぁ、ここの店長だよ。準備中なのを無理言ったんだよね~」


ほら、お尋ね者でしょ?君、と笑いながら続ける。

確かに、と有韭は苦々しく笑った。

机に目を向ければ、モーニングセットと言える素晴らしい料理が所狭しと並べられていた。パン、サラダ、フルーツにスープ。

思い返せば、亜人種だというのに人間に近い食生活だ。

正直な所、肉の塊にナイフを突き立てて「食え」と言われるのかと思っていた。

フウネがそんな有韭の心を読んだのか、失礼だよと笑う。

ユンは我慢ができないとばかりに食事に手を伸ばす。美味しい美味しいと無くなって行く様子に、有韭も慌てて手をつけた。

素材の味を大切にする優しい味だ。これも意外な発見だった。


「食欲あるなら大丈夫だね。私はちょっと席を外すよ」


ゆっくり食べて、とフウネは店を後にする。


「監視役じゃないのか・・・?」


こんなに緩くていいのかと思ったが、マロンはそんな様子も気にしていなかった。元より、案内役でもある。彼女がいなければ、依頼された調査もできない。


「あの子は監視と案内役を命じられてるだけで、貴方たちの面倒を見るわけじゃないからね・・・落ちた時も何もしなかったわ・・・」


生きてるのは、ユンと私のおかげよ感謝しなさい、とマロンは静かにお茶を啜った。

落ちた時、ユンは寸での所で軌道修正をして墜落は免れた。しかし、気を失った有韭はバランスが取れずに振り落とされてしまったらしい。そこをマロンが拾ってくれたようだ。

フウネはその様子をニコニコと眺めていたらしい。


「今更怒るのも馬鹿らしいけど・・・あれがあの子なのよねぇ・・・」


出会った頃から変わっていない、とマロンは溜息を漏らした。


「フウネは助けてくれたりするのかな?」


ユンがふと食べる手を止め、マロンに投げかける。

マロンがそうね・・・と思案しながら答えた。


「・・・意外だと思うけど・・・助けてくれたことの方が多いわね・・・」


最初はニコニコと見ているだけだが、本当に危ない時は手を貸してくれたことが多い。

彼女の気まぐれなのかもしれない。それか同族としてか・・・。


「本質は分からないわね・・・私はどちらかと言うと人間に近い方だから・・・」


「・・・人間に?」


「あ、勘違いしないで。倫理観って概念の話よ。半分人間なら化け物(ユエ族)と呼ばれていないわ」


それもそうか、と有韭はパンを齧った。

ユエ族は未知なことが多い。正直、2人に出会う前は恐怖と嫌悪を抱いていたのだ。護衛を買って出てくれたのはいいが、寝首をかかれるんじゃないかと疑心が無いわけじゃない。


「ユエ族について・・・よければ教えてくれないか?」


「・・・別にいいけど、何を知りたいの?私も全て知っているわではないわよ?」


私は若い方だから、とつけ足す。

確かにマロンの見た目は若い。ユンと同じかそれ以下だと思う。

しかし、人間以外なら見た目と年齢がイコールでないぐらい知識として持っていた。それ故に、人間は不老不死と言う夢を見る。

誰だって若いままで居たいものだ。


「・・・俺よりも・・・下・・・だよな??」


女性に年齢を聞くのは失礼だが、これぐらいなら許されるだろう・・・なにより彼女の婚約者は19歳だ、年上だとは聞かなかった。


「大丈夫・・・私は見た目のままよ。今のところは・・・」


マロンは何かを感じ取ったようで、くすりと微笑んだ。

語尾につけた言葉が気にかかる。


「フウネは私よりも上よ。出会った頃から変わらないから・・・他の面々もそうね・・・私は四神衆の中で一番下よ」


「待った・・・四神衆ってなんだ?」


聞き慣れない言葉に、有韭が聞き返す。


「あ~・・・ユエ族で力が強い4人って今は覚えればいいわ・・・長くなるの」


「・・・それフウネも入るのか・・・?」


「勿論よ・・・言ったでしょ異質(イレギュラー)って。あの子を抑えられのは1人しか知らないわ」



「・・・もし・・・もしも敵になった場合、その1人に味方になってもらう必要があるってことか・・・??」


最悪の場合を想定した方が良い。何よりこの旅が安全でないと知っているから余計に、と有韭は拳を握る。

マロンは少し考えて、首を横に振った。


「もう1人が味方についてくれるかは、残念ながら分からないわ。あの人はフウネに近い」


倫理感が?と問えば、それにも首を横に振る。


「会う機会があれば、そう感じると思う。人間が認識出来る倫理観からは外にいるってイメージね」


世界を1つの球体にするなら、それを外から見ているような、とマロンが自信なさげに付け足した。


「・・・それより、貴方の事は何かないの?」


「俺か・・・?」


有韭自信の事を問われれば、特に何も話すことがないなと頭を抱える。特に普通に生きてきたと自負している。

敢えて言うなら、今の方が全力で生きていると言えた。


「特に何も・・・ないな・・・?」


「そんなことありません!!」


今まで夢中でご飯を食べていたユンが、ガチャりっと大きな音を立てて立ちあがる。


「高槻博士はすごいんですよ!!なんて言ったて、魔道工学の第一人者なんですから!!神の遺産(ブルー・ノート)を解析したのも頷けます!!」


「・・・魔道工学の第一人者?」


マロンが初耳だと言わんばかりに有韭に目を向ける。


「あれはたまたま・・・たまたまだったんだ・・・」


勿体ない精神だけの偶然の産物だった、と有韭が弁明する。


「使えなくなったものとか、部品交換して再利用するって話はよくあるだろ?それを魔術回路が必要な道具にやっただけなんだ・・・」


正直に言うと、中学生が患う病に近い。こうしたらカッコイイ、を実際に試作してみたら出来てしまっただけなのだ。有韭からしたら、黒歴史になりかねない。


「そんな謙遜なさらないでください!魔道工学って地味くさいなって思っていたんですが、高槻博士のおかげで注目されるようになったんですよ??魔女の学校でも学科作られたんですから~」


「・・・地味くさかったのか?」


何気ないユンの言葉がささる。


「魔女にとっては、機械使うのは半端物ってイメージが強くて・・・確かに便利なんですけど、・・・重いとか整備が面倒とか・・・」


技術者達も陰気な感じでしたしね、と笑った。


「そうか・・・ジャポンじゃ当たり前だったけど、他の国は違うよな・・・」


魔法の有り無しで使用する生活用品も違うのは面白い。

そう言えば、ヒュウ族はどうなのだろうかと食器に目を向ける。

基本的に木製なんだな、と手にしたスプーンをくるくると回した。


「食事は終わったかな~?」


話が一段落したのを見計らったように、フウネが戻ってきた。

出てきた時と変わらず、ニコニコと笑みを浮かべている。


「元気になった所で、君達に有益な情報をあげよう~」


空いた食器をどけて、フウネがいくつかの紙の束を取り出した。


「・・・これは?」


「新聞だよ?一応集められるだけかき集めてきたけど」


これがメサイア、これがクロノス、これがジャポンね、と一つ一つ指さす。

見慣れたジャポンの新聞には、『セカンドで大規模爆発、テロか!?』の文字と共に、燃え上がる街並みの写真が載せられていた。思わず手を取り、その記事を見つめる。


「・・・セカンドはテロなのかしらね?」


あそこは中立だったはずだわ、とマロンがため息をついた。


「世界各国大騒ぎだったよ~。だからメサイアもちょっと気がたってる」


「・・・まさか・・・な・・・」


タイミングと言い、協力してくれた2人のどちらかがやったのだろうか、と有韭は冷や汗を流した。

記事には被害にあった人や壊れた街並みまで、鮮明に記録されていた。その末尾には岩崎の名前が記されている。


「・・・今だから言うけど、本当はメサイアに会う前、セカンドで貴方に合流するはずだったのよ」


マロンがそんな有韭を見て、言葉を続けた。


「メサイアにはフウネが居たから、国境を越える便宜を図る為にも、一緒にいた方が都合が良かった・・・でもこんな大騒ぎでそんな余裕なかったわ・・・」


「マロンはセカンドにいたのか?」


「そうよ、岩崎も一緒にいたわ・・・顔合わせのためにね」


それどころじゃなかったけど、とマロンが疲れたように息をついた。


「消火活動して、岩崎は避難民の誘導しつつ取材・・・で、落ち着いた頃にフウネから連絡が来たってわけ」


「フウネから・・・?」


「君の関係者みたいなの、処していい?ってね」


「処して・・・??」


越境がメサイアにとってそんな重罪なのだろうか・・・。

有韭はゴクリと固唾を呑んだ。


「あれは冗談だよ~」


訳が分からなかったし・・・ジャポンだからマロンかなって安易に呼んだんだよね~と、事も無げに笑う。

こんなノリで処刑とか、冗談ではない。


「フウネは・・・その・・・私達が来るのは知っていたのよね?どうしてその場で殺さなかったの?」


それが彼女には出来た。その一言に尽きる。


「一緒に怪しい奴いたでしょ?それが予想外だったから」


その人物は()()()()、とはっきりと口にした。


「見なかったってことは()()()()、だから対応を変えた、それだけ」


ふふっと微笑して、さらに続けた。


「別に私が見る事象が全部当たるわけじゃない。サイコロを転がすように結果はコロコロ変わっていく・・・それが、(フウネ)にとってどうかってだけだよ」


じゃあ行こうか、とフウネが店主に挨拶に向かった。


(フウネ)にとって


その一言がどちらを指すのか気になる。

有韭にとっては与えられた条件をクリアして、次の段階に進めるのが最良の未来だ。そこがスタートラインだと思っている。

しかし、その先は明確にはなっていない。今だ模索している最中だ。

目的に向かうまでに、具体的に考えねばと気持ちを新たにした。





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