試練
硬い床に足元から忍び寄る冷気。
ウトウトとしたかと思うと、足先から冷気が入り込み目が覚める地獄だ。
体は休んでいるのに、頭ははっきりと起きているチグハグな感覚で
有韭はとても寝た気にならなかった。
おはよう、と十分休んだユンに声をかけられれば、酷い顔色で返すしかない。
「・・・眠れませんでしたか・・・」
ユンは吞気に寝てしまって、と後ろめたそうに有韭を見やった。
「・・・デスクワーカーには無い体験だったからな・・・」
キャンプなんかも実は幼少期以来したことが無い。
よく言えば仕事に一途、悪く言えば引篭もり気味だった。休日もダラダラと寝てすごしていたな、と独り言つ。予期せず強制サバイバルになった今では哀しい反省である。
「暗くて感覚が解らないな・・・今は何時なんだ?」
「たぶん8時か9時くらいだと思います。私の国より時差は進んでるはずなので・・・」
ユンは懐中時計を指して有韭に時間を教えるが、窓のない牢では確かめる術は無い。
朝ならまた食事を持ってきてくれるだろうか。それか、罪状を問われるのが先か。
拷問は無いよな、と最悪の想像をしている最中に誰かが牢にやって来るのが分かった。
ただし、金属が擦れる音から今まで会った二人とは違うことも予測できる。
規則正しい足音、恐らくは兵士だろう。それも数人はいる。
「★△○◎■・・・」
やはりというか、聞きなれない言語で話しかけられる。
ヒュウ族の言語はどこか音楽のような抑揚があるな、とぼんやりと思った。
言葉が通じないのが分かったのか、兵士達は牢を開け両手を差し出すような仕草をした。
「・・・えっと?」
分からず彼らの真似をして応えてみると、兵士はうんうんと首を振ってその両手を縛り上げる。
「は?」
きちりと縛られた両腕は振りほどくことが出来なく、次いで同じように縛られたユンと体を首で繋がれる。有韭の首とユンの体、ユンの首と有韭の体というような具合で、どちらが逃げ出そうとしたらお互いの首が絞まるような最悪な状態だ。
うんうん、と伝わってほっとしている兵士に親近感を湧いた自分を殴ってほしい。
最悪だ、と有韭は青ざめた。
「ちょっと待って!何これ!?どういう事よ???」
ユンが思わず叫んだが、相手には言語が通じない。
わーわー騒いでいるのを見て兵士達は困惑した表情を見せたものの、兵士のうちの一人が歩くように促す。
ぐいっと縛られた手をひっぱられて蹈鞴を踏む。下手に転べばユンの首が絞まるだろう。
有韭はぞっとして兵士の促すまま歩くしかなかった。
薄暗い回廊を抜けて、初めて扉を潜る。見張りの兵士の待機場所なのだろう部屋を抜け先へ進めば、
足元に灯りが灯る螺旋階段を上る。湿っていて滑りやすく、階段の横には水が滴っていた。
出来るだけ道順や様子を覚えておこう、と有韭は行き先までの道に目を配る。
上っている事から、やはり地下牢だったのだろう。逃げ出すにも広い水路は無かった。
空気穴も狭く人が通れるようなものでもない。また同じ牢に戻っても逃げ出せないことは確かだ。
階段を上り終わればようやく明るい光が見える。暗闇に慣れた目には酷く光が突き刺さった。
慣れない光に目をしばたかせていたが、急に兵士達に緊張が走ったのを感じた。
「■□△○◎!!」
護衛のように有韭とユンの横を歩いていた兵士が、1人の女に近づく。
話しかけられた女はにこやかに有韭達のもとにやってきた。
「おはよう~、よく眠れたかなぁ?」
「・・・フウネか・・・」
低く唸るように返す。寝不足と今置かれている状況で、気の抜けたような軽口を叩かれれば
苛ついてしまうのは仕方ない。有韭とて、聖人君子では無いのだ。
「顔怖いよ?・・・上司が君に会ってお話するってさ~」
フウネはそんな有韭を見てふふふっと微笑み、次いで兵士達にあれこれと話しかける。
そういえば明るいところでフウネを見るのはこれで二回目だな、と有韭はまじまじと見つめた。
最初は観察どころではなかったから、特徴ある部分だけだったが良く見るとフウネも整った顔立ちだ。
昨日とは違いかっちりとした服を着ている。軍服なのだろうか。群青色の詰襟に露草色のスカーフをしている。スカーフ止めが七色の光を湛えててとても綺麗に輝いていた。刺し色の白も主張が控えめで、肩章と飾緒は全て銀で統一され洗練された印象を抱く。動きやすいように体に合わせてあるのか、体のラインが丸分かりだが、長めの上着で短いスカートでも下品さを感じさせない。月のベルトも元々そういうデザインだといった感じでうまく嵌っていた。顔も男顔よりなので、軍服と相まって麗人という言葉が似合う。
フウネは話がついたのか、兵士を先導役で1人だけ残らせ後は解散させた。それじゃあ行こうか、と先導役に有韭たちを引っ張らせ、自身はユンの後ろにつく。
「・・・もしかしてフウネって偉い人?」
ユンがコソリとフウネに話しかければ、フウネはにこりと笑みを返した。
「下っ端が差し入れとかすると思う?」
「そっそういえば・・・」
失念していたとユンはそれ以来黙り込んだ。話が通じるから気さくに話しかけすぎたかもしれない。
フウネの白緑色の髪が楽しそうに揺れた。
先導役は、牢から有韭達を連れ立った時よりも遥かに神経を尖らせていた。
ヒュウ族としてもユエ族は怖いものなのだろうか。当の本人はふんふん、と鼻歌を歌っているのだが・・・。
気まずい雰囲気の中、足音だけを響かせて回廊を進む。幾度となく角を曲がり、花の咲き乱れる中庭を横目に城にしては狭い階段を上れば、扉の前で兵士がピタリと止まる。フウネがにこりと兵士に制すると、優しく扉をノックする。
『いつ見てもフウネの所作が神経質そうに見えて違和感を抱く』
有韭はフウネの立ち居振る舞いがチグハグな気がしていた。軽口や態度から、少々雑さがあるほうがしっくりと来る。
程よい間が空いて、中から「入れ」とぶっきら棒な声が返ってきた。フウネが頷くと、兵士が扉を開け有韭達を引っ張る。
「・・・よく眠れたみたいだな?」
入って早々嫌味を投げられる。聞き覚えのある声に、慌てて顔を上げれば面白そうに細めている金と目がかち合った。昨日と同じように足を組んで座っている。
『・・・想像できたはずだ・・・馬鹿か俺は・・・』
血の気が一気に引くのが分かる。心なしか膝も笑い出してきた。
青年が名前をあげた以上フウネよりも地位は高い、と話を聞いた段階で予測しなければいけなかった。
一度地雷を踏んでしまった男が、有韭達の前で笑っている。
恐らく、一度姿を現した時は様子見だったのだろう。ラフさなど無く、髪を横に流し軍服のような礼服に左肩にかけるようにマントを羽織っていた。
呆然とする有韭に構わず、フウネは兵士を下がらせ男の横に並ぶ。
「言われたとおり、昨日捕まえた二人を連れて着ましたよ、殿下」
フウネが意地悪そうに笑って有韭達に追い討ちをかけた。
「・・・で・・・殿下?」
「・・・っあ!!」
ユンが思いついたように声をあげた。
「名前・・・そうか・・・第三王子・・・・・・・・」
「・・・おぅ・・・何だって??」
もっと早めに思い出してくれ、と言ったところでもう遅い。
何で王族が直接牢屋に来るんだ、という恨み言を飲み込んで有韭はじっと見てくる金目の声を待った。
「・・・フウネ・ヴァン・ミスティル。メサイアの第三王子だ。後、お前が会いたがってた外交の窓口だな」
運が良かったな、と面白くなさそうに男が返す。有韭の胃が小さく悲鳴をあげた。
「こいつがフウネ。俺の側近だ。あぁ、お前の国の言葉で懐刀って言った方が分かるか?」
「・・・えっと・・・名前はうかっ・・・うかがってます」
有韭は思わず言葉に詰まる。交渉前から出鼻を挫かれて頭の中は真っ白だ。
その応えにフウネ王子は片眉を上げる。次いでフウネに向かって、不貞腐れて何か言葉を投げた。
二人のやり取りから、気心の知れた仲なのが伺える。
王族と言われれば納得しかない。多言語を扱えることも、どこか高圧的だったのも。
「さて、外交の窓口には会えたわけだ。で、その交渉内容ってのを聞こうか?」
そういってフウネ王子は腕を組んだ。よく上司がプレゼンでやるポーズに、心なしか聞く気がなくて寝る光景が浮かぶ。せめて手を組んで聞く気を出してほしい。
「・・・内容はあまり公表をしたくな・・・ありません。せめて二人だけで話させて頂けませんか?」
「却下だ。フウネは俺の護衛だからな。そこの魔女の退出ならさせるが?」
え?と返したユンに有韭は目を向ける。巻き込んでしまったのだから、ユンの解放も交渉するべきだろう。しかし今更解放をお願いしたところで、ユンには別の心配があがる。主に会社側がユンに接触する、という内容の。
「そこの魔女の解放をしたところで、お前と無関係にはならないだろうな」
「・・・え?」
思わず口に出していただろうか、と有韭は目を丸くした。フウネ王子の言葉が的確すぎて、焦りの色が出る。
「口には出てなかったぞ?そこは心配ないな?」
「・・・ま、まさか・・・心を・・・・」
「ヒュウ族は風の加護を強く受けているからな。そんなことなら造作も無い」
フウネ王子はにっこりと綺麗な微笑を浮かべた。
外交上手のからくりはそういう事か、と有韭は内心悪態をつく。恐らくこれも相手には知られているのだろうが、毒をはかないわけにいかない。
そしてそれと同時に、【交渉決裂】の文字がちらつく。敗北だ。手の内を明かすどころか、すでに読まれている。
「心を読まれない方法もあるんだぜ?こんなので外交上手とは言われないさ」
初歩だ、とフウネ王子が返す。
小手先の小細工も持たない、考えても相手に読まれる。こんな地獄のようなポーカーがあるだろうか。
有韭は腹を括った。もう配られたカードで役を作るしかないのだ。
「・・・自分の役目を果たしたい。どうか護衛をお借りできませんか?」
「・・・役目?何だそれ」
「このメモリ・・中はご覧になりましたか?」
大事にしまっていたメモリを縛られた手で懸命にポケットから取り出す。小さいせいで手から滑り落ちそうだ。この中に世界全体の脅威になりうるものが詰まっている。ユンは話を聞いてもいいものか、と視線をさまよわせてそわそわしていたが、フウネは話を聞く気がないのか、壁に寄りかかって外を眺めていた。フウネ王子は少し思案して「・・・それが?」と返した。
『それが、と返してきたか・・・という事は見た上で試されている』
有韭は自分自身を落ち着かせるため、一つ息を吐いた。
「これは一部にしか過ぎません。必ず完成させるには他のパーツが存在する。それを会社側に渡さないために自分で妨害をしたいのです」
「それがお前の役目、と来たか・・・本当にそうか?」
フウネ王子が揺さ振りをかける。
「お前は解析をしただけであり、それを使用できるかまで確認はしていないよな?ならば妨害をする必要はあるのか?止めたいなら俺自身お前を止めはしないが、ヒュウ族が手を貸してまでする必要性を感じないな」
それともヒュウ族が手伝うメリットがあるのか?と分かりやすく誘導してくれる。
これは踊らされているのか、と疑いたくなるが、フウネ王子は一貫として国のメリットの事しか言っていないのを有韭は覚えている。個でなく全。国の窓口なのだから当たり前だ。
「ヒュウ族にとっては過去の遺産になるのかもしれませんが、これを起動する核に【光の宝】が使用されています。計測したところ、現代で見る【光の宝】よりも強力な魔力反応を感知しました」
そう来たか、とフウネ王子は眉根を顰めた。
「【光の宝】ですか?・・・あの?」
おずおずとユンが口を挟むと、フウネがそれはね、と返した。
「【光の宝】とは、ヒュウ族の第二の心臓だね。体内で結晶化される魔力の塊。私のスカーフ留もフウ・・・フウネ殿下のマント留もそれだよ」
これね、とフウネが自分の首もとの石を指差す。光を閉じ込めたように七色に輝く石。
「これ目当てでヒュウ族は惨殺にあっている。それが人間を嫌いな理由だからな。密猟者は後を絶たない」
フウネ王子が低い声でフウネに補足する。有韭は空気が一気に冷えるのが分かった。
「回収した【光の宝】はメサイアにお返しします。だから、回収役と護衛役をヒュウ族にお願いしたいんです」
有韭が物心ついたときには、メサイアは他国とすでに交流があった。そんな事実も飲み込んで他国、人間と交流を持つようになったのはどれほどの月日を必要としただろう。
生物学者が太鼓判を押したのは歴史背景と、【光の宝】の知識があったからだろう。
ヒュウ族は積極的に市場に流れている【光の宝】の回収を進めていた。博物館に収蔵されているものには手を出していないが、代わりに管理体制には厳しく口を出しているらしい。
「・・・成る程な・・・」
傭兵ではなくヒュウ族で無ければいけない理由か、とフウネ王子は組んでいた腕をほどいた。
確かに国として【光の宝】の回収は進めている。遺産、と有韭は言ったがヒュウ族としては遺体の一部の回収だ。遺族に返してやりたい。
ただし、有韭の言う護衛には危険が付きまとうだろう。
「確かにヒュウ族は傭兵稼業もやっているし都合はいいだろうな。お前の友人はヒュウ族に関して、よく調べているようだ」
「では・・・」
「現代の【光の宝】よりも強い魔力反応なら、王族の物かもしれない・・・こちらとしても回収したいのはやまやま・・・なんだが・・・」
フウネ王子は歯切れ悪く言葉を詰まらせた。
「・・・護衛を引き受けてはくださいませんか?」
直ぐに返事を聞きたい、と有韭が畳み掛ける。
「・・・お前自身が世界で捜索されているのを知っているか?」
「・・・それは・・・・」
死体が出ない以上、捜索の手はなくならないだろう。会社としても、死体ならともかく生きているのならば確保しないわけにも行かない。
「そんなお前を護衛するとなると、人員が限られる。必然的に隠密行動になるから、多人数はつけない」
少人数でそれをこなせるのには、と言ったところでフウネ王子が嫌そうに顔を顰めた。
1人だけそれが可能な奴がいる。
あぁ、と頭を抱える。秘蔵の虎の子を割り当てるのか。
逆にこの案件を断れば、と思案したところでフウネと眼が合う。次いで、だから捕まえて城までつれてきたのか、と納得した。フウネが見たのはこの事だ。
この案件を断り有韭を解放したとすれば、直ぐに彼等は会社とやらに捕まるだろう。そして、【光の宝】はその装置として使われる。自分の命を懸けて公表を拒んだものだ。市場に出ない代わりに、表社会にもその【光の宝】はでない。強力な魔力反応、メサイアが総力を挙げて探している古の宝なのかもしれない。
「・・・一つ条件がある」
一頻り考えたところで、フウネ王子が有韭に向き合う。虎の子を当てるだけの確証を得たい。
「何でしょうか?」と有韭が返したところで、コンコンと扉が叩かれた。
フウネがフウネ王子を目で制し扉を開ける。扉の隙間から盗み見れば、有韭達を先導したあの兵士が慌てて何かをフウネに伝えた。フウネはあいも変わらず飄々と返して扉を閉めれば、フウネ王子にニコニコと耳打ちする。フウネ王子はフウネの話にちらり、と有韭をみた。
「・・・な、何か?」
有韭にとっての悪いニュースだろうか。
「お前の身元引受人だ、と名乗るものがきた。聞き覚えはあるか?」
「ま・・・まさか・・・メサイアに居ることを知っているのは・・・あ?」
メサイア行きを知っているのは、ジャーナリストと生物学者。まさか、どちらかがメサイアに乗り込んできたのだろうか。恐る恐るフウネ王子を見上げれば、代わりにフウネがその人物を答えた。
「残念ながら、女だよ。それもユエ族のね~」
「ユエ族に・・・知り合いは・・・」
「うん。私の知り合いになるね」
フウネはにっこりと返した。フウネの知り合いが有韭の身元引受人になるのはおかしい。
「彼女自身は、考古学者だよ?聞き覚えは?」
「考古・・・学者?・・そんな知り合い居たかな?・・・・っあああああ!!!」
生物学者の彼女が、確か考古学者だったはずだ。だがしかし、ユエ族とは聞いてない。
有韭が合点がいった様子をみて、フウネがフウネ王子を促す。
「知ってるみたいだよ?通していい?」
「▼△・・・★◎○□」
フウネ王子がジトリとフウネを睨んだ。言葉のニュアンスから悪態をついているのは間違いない。
フウネはお構いなしだといわんばかりに扉に向かって叫んだ。すると、カチャリと控えめに扉が開けられる。フウネとは真逆な、凛とした少女が入ってきた。
「突然の来訪にもかかわらず、会っていただけて光栄です。フウネ殿下」
まるで漫画やゲームで見るような貴族的な挨拶をして、少女は微笑んだ。
そして、横目で有韭とユンを盗み見る。
「・・・フウネ、代わりに説明しろ・・・」
フウネ王子が白緑色の髪を引っ張る。完全にユエ族がもう1人出てきたのは知らなかったらしい。
フウネは事前に知らされていたのだろうか。
「彼女はマロン・セリュウ。ユエ族でも南方朱雀、祝融の写し身です。まぁばれてるから言うと、手引きしました~」
てへっ、という効果音が似合いそうな程清清しくフウネが笑う。
「実際、殿下揺れてたでしょう?条件を出すにしてもハンデくらい与えないと死んじゃいますからね~」
そういえば、と有韭は思い出した。フウネは未来を見れるんだった、と。
それが地雷の起爆剤となったわけだが、フウネ王子が想定していないことを知った上で彼女は独自に動いていたのだろう。どこまで見えているかは知らないが、フウネは有韭に味方してくれているのかもしれない。
「私からも有韭博士には接触したかったので、win-winでした。彼らの護衛でしたら私が引き受けます」
フウネもマロンという少女も、にこりと微笑んだ。
同じ立場の少女が二人。何かを企んでいるのかもしれない、と不安が募る。
「・・・ならば、先程言いそびれた条件を伝える」
フウネ王子は有韭を睨むように見据える。
「メサイアの北東に死の都という村がある。そこにある【光の宝】の欠片が測定されたものと同じか調べてもらいたい」
「それを調べたら協力してくださる、と?」
有韭は注意深くフウネ王子の言葉を待った。
マロンが護衛役を買った以上、ヒュウ族としての協力はなくなってしまうかもしれない。
それでは万が一何かあった際に、【光の宝】をどうすればいいのか解決に至らない。
「結果次第だな」とフウネ王子がため息を漏らした。
「護衛役のマロンも同行を許す。こちらからは道案内と監視役としてフウネを出そう」
直ぐに出て行けとばかりに、しっしと手を振る。フウネが兵士を呼び、有韭とユンの退出を促した。
縄を解かれること無く、また引っ張られるままに部屋を後にする。
フウネ王子がフウネに話しかける。恐らく部屋に残るように行ったのだろう。感じる雰囲気からは、お説教な気がする。
マロンも連れ立って退出し、メサイアの言葉で兵士に話しかけた。
『さすが考古学者・・・言語習得しているのか』
と関心していたところで、マロンが有韭に話しかける。
「安心しなさい。釈放だそうよ。門までは繋がられたままだけど、そこから先は自由にしてくれるみたい・・・フウネとは門で待ち合わせになるわね」
「そうか・・・・一先ずスタートラインが見えてきたかな・・・」
有韭は未だ震える足に力を込めなおした。そして、改めてマロンと名乗った少女に目を向ける。
保証人で護衛役。自らそう買って出た以上、彼女は味方なのだろう。
ただし、彼女にも何かしら目的があるように感じられる。『彼氏に言われたから』では、明らかに危険度が高すぎる。彼女の真意を知るまでは気を抜けないな、とため息をついた。
連行していた兵士が大広間に着いたところで足を止めた。次いで手を差し出せ、というような仕草を見せる。つられて真似をすると、兵士は小刀で縄をプツリと断ち切った。
ようやく自由になった手首をさすれば、兵士がヒュウ族の言葉で何か言っている。にこやかな表情から罵詈雑言を行っているわけではなさそうだがまったく分からない。首をひねっていればマロンが小声で通訳をしてくれた。
「この階段を下りれば門だ。門番には話が行っているから外に出れる、ですって」
「成る程・・・外に出れるのか・・・ありがとう」
マロンがヒュウ族の言葉でお礼を言ってくれたようで、兵士はにこりと笑みすぐに踵を返していった。
やっと外か、と有韭たちはやけに広い階段を下った。
門番に話しかけ外に出れば、晴れ渡った蒼が心地いい。今まで生きた心地がしなかったので、ようやく落ち着いて呼吸ができた気がした。
さて、とマロンが有韭に話しかけた。
「一先ず自己紹介ね。マロン・セリュウ、貴方と同じジャポンの出身よ」
よろしく、と握手を求める。
「高槻 有韭だ。事情は知っているみたいだな?」
こちらこそと差し出された手を握った。
「私はユン。ユン・S・エリート、出身はイリシアよ」
よろしくね、とぶんぶんと握手をする。ようやくユンが年相応に見えた気がした。