2人のフウネ ~幕間~
「・・・お前はどう思う?」
書簡を見ながら、青年は傍らで紅茶を啜る少女に声を投げる。
「・・・ちょっと甘さが足りなかった?」
「茶の話じゃねぇよ。あの人間達のことだ」
「あらやだ、お口が悪いんじゃありませんこと?」
「茶化すなよ、フウネ。お前が連れてきたんだろ?」
「国境越えてきたから捕まえただけですよ~?」
フウネの飄々とした受け答えに、青年は眉間の皺を深くした。
「わざわざお前が出向いて捕まえた理由は何だって聞いてんだよ」
黄金の瞳に鋭い光を湛え始めて、フウネはやりすぎたか、と肩をすくめる。
「特に意味はないんだよね。理由をつけるなら、見えちゃったから」
ふわふわとした回答に、青年は頭を抱えた。
裁定を下すのは自分なのに、問題を持ち込んだ当人がこれでは決定打にかける。
確かに入り込んだ人間が世界を騒がしているのは間違いない。
世界中が注目していた内容だったが、正直ヒュウ族としては傍観者側だったのだ。
人間の言う過去の遺産など珍しいものではない。人間にとって100年は古く感じるかも知れないが、長命の者から見たらつい最近のレベルだ。
『はいはい、で何百年前の物ですか?』それが一般的なヒュウ族の反応だった。
「フウはどう思う?わざわざ会いに行って話しを聞いたのにも理由はあるの?」
フウと呼ばれて青年フウネは顔をあげる。
特に理由など無いが、フウネが出向いて対応するくらいには重要なのだろうと思った。
感覚がずれまくっているフウネだが、理にかなわない事をするような奴で無いくらい知っている。
自分の右腕として信用もしている。ただ言葉が足りなく何を考えているかわかりにくいからこそ、その行動について考え軌道修正が必要なのだ。その点だけ面倒くさい。
「・・・人間を見てみたかったからな・・・」
窮地に陥れば本質が見れるというもの。悪人なら助ける余地など無くすでに処刑している。
メサイアの歴史的にも人間とは相容れないのが現実だ。未だ国境付近では人間とヒュウ族の血が流れ続けている。
「フウ的には大丈夫な類?」
「第一印象は最悪だな。よく国境を越えられたなって所だ。魔女に関しては戦闘経験なさそうだし・・・」
余裕がなく必死に助力を請うている、という印象が強く残った。
フウネが意味ありげに差し出してきた記憶媒体の中身が原因だろうが、ヒュウ族にそれを開ける術はなかった。魔法を使えない人間が、独自に発展させた技術だ。
「お望みなら頭を覗こうか?」
思案に耽っているとフウネが覗きこんできた。瞳に好奇心の色を浮かべて口元に弧を描く。
「ちょこっと彼の経験を見ちゃえばいいじゃん?フウは相手を尊重してあげるんだね」
「・・・お前には倫理観ってものが無いんだ。誰彼構わずそんなことしてないだろうな?」
「しないよ~壊れちゃうでしょ?それに国際的にも駄目だって知ってますよ~」
言ってみただけです~、と軽く流してフウネは再び茶を啜った。
丁寧に口元に茶器を運ぶのを見てフウは軽く息を吐く。言い付けどおり最近では物を壊していないようだ。
「本人もお望みのようだからな、直接話して決めるしかないな」
フウネが何を思ってあの人間を助けたのか。今後何かあるなら処刑する訳にもいかない。
国際手配もされていると聞いているから対応が面倒だ。痕跡もろとも消してしまえば早いが、そんな単純なものではないのだろう。
「・・・お前はあの人間達のこと気に入ったのか?」
甲斐甲斐しく世話を焼いていると小耳に挟んだ。
「そうだねぇ、凶星とでもいおうか・・・まだ吉星になりそうでもあるけれど」
「・・・占星か・・・凶星なら早めに壊す許可を出す羽目になりそうだな」
「そうなってもいい様にちょっと見させてもらいたいなぁ~」
「明日あいつらを俺の所に連れてこい」
フウはその星がどう転ぶのか、少し興味が湧いた。