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女の執念  作者: 今田信義
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半端じゃねえ少女

菜々子が中学3年になったある日、話もしたこともない隣のクラスの男子生徒から告白された。

その男子生徒は不良とか非行少年と呼ばれるような部類ではなかった。


「なんで私なんか…」


奈々子は不思議で仕方がなかったが、奈々子はしつこく交際を求めてくる相手に別段嫌な気持ちはしなかった。奈々子も年頃の女の子。恋愛に対しては臆病でもあったが否定的ではなかった。


しかし男性に対しては決して積極的にはなれなかった。


男性というと父親を想像してしまう自分がいた。

覚醒剤に溺れ、若い女に狂い、母親を泣かせ子供たちに暴力を振るう父親の存在が、いつの間にか奈々子に男性対する対するイメージを植えつけてしまったからだ。


しかし執拗に交際を求めてくる相手に、菜々子の気持ちも揺らぎ始めていた。


(この子は本気で私のことが…)


と、考えるようになってきた反面、


(いや、騙されてる)


と、心の奥底で猜疑心を抱くもうひとりの自分がいた。


次第に、その男子生徒のことばかり考えるようになっていった。

ご飯を食べている時も、話しをしている時も、眠る時も男子生徒のことを考えるようになった。


胸が痛かった…



そんな最中、信じられない光景を目にした。

男子生徒が、同じクラスの女子生徒と手をつないで歩いていたのである。


友達の里見が、


「あの野郎ふざけやがって。菜々子のこと、好きだ好きだ。なんてさんざん抜かしやがって」


と、毒づいた。


「あのチンカス野郎」


菜々子はカバンに忍ばせていた剃刀を手に掴み、男子生徒と女子生徒の背後に近づいた。


「この野郎っ!」


奈々子は男子生徒の後頭部めがけて、手に掴んだ剃刀を思い切り振り下ろした。


「ぎゃっ!」


男子生徒の叫び声と共に鮮血が後頭部から噴き出た。


頭を抱えこみ転げ回る男子生徒の腹部に蹴りを叩き込んだ。


「げっ!」


奈々子は頭を蹴り、足を蹴り、顔面を蹴り上げた。


「この野郎、さんざん好きだなんだと抜かしやがってっ!」


「ひぃぃぃっっ!許してくださいっ、許して…」


「馬鹿野郎っ、謝って済むんならよ、警察はいらねぇえんだよっ」


男子生徒の鼻血が飛び散り、後頭部から噴きでる鮮血で菜々子の足元はもちろん辺りが血で塗れた。


里見と、男子生徒と手をつないでいた女子生徒は唖然とした。

恐怖心からか声を出すこともできずにいた。


その事件で奈々子は警察に逮捕された。しかし、刑事の取り調べに対し、一貫して黙秘を貫き通し刑事たちにも一目置かれる存在になった。


「あの娘は半端じゃねえな…」


「ああ、そこいらのチンピラとは全然違うな…」



奈々子は10日間の留置場生活を送ったあと、家庭裁判所に送致され千葉少年鑑別書に収監された。

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