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女の執念  作者: 今田信義
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酒乱の父

埼玉県の山間に位置する田舎町は、辺りが田畑に囲まれ小川の流れのせせらぐ閑静な雰囲気を醸し出していた。

その田舎町に3番目の次女として生まれた奈々子は6歳になるまで父親の顔を知らなかった。日雇いの仕事をして母の手ひとつで家庭を支えていた当時の暮らしは困窮を極めており、3度の食事さえままならなかった。原因は父にあった。暴力団幹部である父は、菜々子が生まれてすぐに覚醒剤取締法違反で逮捕され、懲役6年の実刑判決で横浜刑務所に服役中だった。父の実弟である2人の叔父もまた共犯で逮捕されそれぞれ別の刑務所に服役中だった。

母には、


「お父さんは、遠くに出稼ぎに出ているんだよ」


と聞かされていたが、2歳年上の長男の義文からは、


「お父さんは悪いことして警察に捕まった」


と聞いていた。奈々子が5歳の時だった。


何でお兄さんがそんなことを知っているのか菜々子には分からなかったが、別にそんなことはどうでもよかった。


当時住んでいた長屋は、ネズミやゴキブリの巣窟と言っていいほど荒んでおり、窓の隙間からは風が吹き込み冬の寒い夜はまともに眠ることもできなかった。天井裏ではいつもネズミが走り回り、台所には何時もゴキブリの姿が見られた。

ご飯のオカズは卯の花や大根の煮付けが多く、たまにめざしなどの魚が食卓に並んだ。小学校に上がった菜々子は給食のオカズを家に持ち帰り、少ない量を家族みんなに分け与える心優しい少女だった。そのせいか菜々子の身体はやせ細り、いつも体調を拗らせていた。



菜々子が6歳になった時、服役を終えた父が家に帰ってきた。

初めて見る父親に、菜々子は子供ながらに恐怖心を感じた。父の全身には刺青が入っていた。1度だけ父と一緒にお風呂に入ったことがある。胸割で彫られた刺青はお湯に浸かるとより一層きらめきを増し、背中に彫られた上り鯉は今にも背中から飛び出し泳ぎ出しそうだった。

父は機嫌がいいとたまに小遣いをくれた。しかし、酒が入ると人間が変わり酒乱に変貌する。卓袱台をひっくり返し母の顔面を何度も何度も足蹴りにした。母は鼻血を流しながら私達を連れ毎晩裸足で家を飛び出した。真冬の寒い夜は寒風が吹き荒れるなか、農家の軒下に身を隠し抱き合って震えながら夜が明けるのを待った。



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