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王子だが女だ! 第2話 赤色の短冊

 自称世界のお姉ちゃんと分かれて国馬公園前のコンビニに入る。

 ここはメガネ丸のバイト先である。

 しかし現在当人は絵に描いた様なアキバ系の男とモデル系の派手目の線の細い女性の組合せと談話している。仕事しろよこら!


「いらっさー………あっ王子よく来たな。ちょうど良かった」


 私はメガネ丸の近くまで寄る。


「この方が例の先輩?」

「先輩。こっちが例の幼馴染の王子です」

「わぁお!キミが王子くん噂に違わぬ美形だね」


 アキバ系の男の先輩は面白くなさそうな顔をしていたけど彼女さんは面白いものを見るように興味を示している。


「メガネくんもこんなウエポンあるなら早く教えてよ!今度の飲み会に連れてきてよ彼freeなんでしょ?」

「サチさん悪いけどコイツ戸籍上は女っすよ」


 メガネ丸め戸籍上とはなんだ!身長179.9の正真正銘女だ!


「メガネ丸から噂は聞いてましたが、お二人は付き合っているんですよね?」


 私が女と聞いてアキバ系先輩は少しガードを下げたのか、付き合った経緯を話してくれることになった。


「メガネ丸今、事務所空いてる?」

「店長なら大分前に帰りましたよ」

「少しの間借りるぞ」


 好都合とばかりにメガネ丸を残して奥の事務所に私を含めて三人で向かった。


 店内の奥にはソファーとローテーブルのセットが用意されている。

 多分休憩とかで使うのだろう。


 私は恋人達の対面に座る。

 口火を切ったのはアキバ系先輩だ。


「メガネ丸から大体の話は聞いている。用件を8ビットで話してくれないか?」


 8ビット?

 8ビットって何文字?

 半角カタカナなら8文字よね………確か。


「ツキアッタイキサツ」


 ツボに填まったのかアキバ系先輩は腹を抱えて笑う。


「うひっひょ♪一文字多いけど努力は認めるよ。去年の夏に駅前の池谷水産に仲間三人で行ったんだよね」

「サチさんも一緒だったんですか?」


 アキバ先輩は猪首を横に振る。


「当然だけど当時からはサチとは住む世界も違うし接点すら無かったよ。ほらサチは当時から仕事でモデルやってるし………俺はアニオタやってるからさ」

「やぁだダーリンモデルっても読モよ♪」


 なんでサチさんこんなに嬉しそうなんだろう。

 私も小鳥ちゃんの前では…………って小鳥ちゃんは女の子!

 女の子が女の子の事考えて幸せになってるって………


「大和さんだっけ?………大丈夫?」

「…………あっすみません。それでお二人は趣味も違うのに付き合ったのは?」

「そんな事聞いてどうするんだ?」

「ダーリン話してあげようよ………私達の奇跡の出逢いってヤツ」


 アキバ系先輩はこの話はしたくなさそうだったが、彼女さんに甘えた声に絆されたのか重い口をようやく開けた。


「こんなオカルト信じてくれとは言わないけど………池谷水産の七夕まつりには魔術めいた何かがあるんだよ」

「…………魔術めいた?」


 日常的には魔術なんてテレビや小説の世界でしか見る機会は無い。


「魔術じゃ無いよ奇跡だよぅ」

「サチはこう言うけど…………」


 アキバ系先輩は雄志三人で今後のアニメとエロゲを熱く語る為に交通の便も考えて池谷水産に夕方集まった。


 池谷水産は国馬駅から徒歩で5分の立地の昼間はランチも提供する居酒屋でお互い懐事情も分かってはいるがただ安いだけの店は御免だと納得して入った場所だった。

 しかし、楽しくなるはずの語らいの場は『本日七夕day』の貼り紙効果でリア充どもに占拠されていた。


「リア充爆発しろ!」


 何とも痛すぎる発言が連呼する中全身黒ずくめの白老の紳士がオタク三人のテーブルの前に立った。


「何だ貴様は!」

「私はここの店長をやってる者ですが折角七夕dayにご来店戴いたのですから書いてみませんか?」


 店長を名乗る男は赤の短冊三枚とフェルトマジックを一本置いた。


 オタク三人は口々に「ガキじゃあるまいし」とか「七夕とは本来……」とか「唐揚げうまぁ」など言いながら互いに牽制しあって………『彼女が欲しい』と書いてトイレに行くと見せかけて入口にある竹に願いを括り付けた。


 翌日の朝アキバ系先輩の枕元に居酒屋の竹に括り付けたはずの短冊が置いてあった。

 それはまるでプリリズチケットの様にだ!


「………なんだ短冊か」


 プリリズチケットならローラちゃんに会えるのに!アキバ系先輩の落胆ぶりは誰かに視られたら滑稽だったろう。


「…………山本 サチ………って誰?」


 怖くなって捨てようとするが、短冊は手から離れないし丸めようにもシワひとつ作れずにいた。


 ならばと、破ろうにも破る意思すら抜け落ちる始末。

 結局身体に任せるまま財布の札入れに『山本 サチ』は収まった。


 お昼の池谷水産の日替わりランチメニューが『唐揚げカレーライス』だった事と隣の吹き出しに『おかわり自由』と明記されていなければアキバ系先輩は店に入ろうとは思わなかったという。


 時間はお昼。

 店内は混雑しており普段なら廻れ右をして一目散に店外に逃げるのだけど何故か待つことに苦痛を感じなかった。

 それに店員の『一名様相席でも宜しいですか?』も首を縦に振る始末だ。

 自分でもどうかしていると思うほど今日は変だった。


 案内された席には自分とは正反対の痩せた肢体。

 それにオシャレな服。

 一緒に居て僕が直視しただけで彼女を汚してしまうのでは?

 そう思えてもオカシクナイ美しさであまりにも眩しすぎた。


「少しお話よろしくて?」


 鈴の音の様に荒れた心に染み入る彼女の声。

 そして一枚の赤色の紙。


「………短冊」

「今朝テキストの間に挟まっていたの」


 短冊に書かれていたのは、間違いなく僕の名前だった。


「僕は彼女が欲しいとは書いたけど名前は書いて無い……」


 目の前の女性の目は糸のように細くなり嬉しそうに笑った。


「キミで良かった」


 僕もまさかと思い財布から短冊を取り出した。


「僕は今朝枕元に……」

「山本 サチは私だよ」


 そして僕達の前に唐揚げカレーライスが置かれた。



「なっ?オカルトだろ」

「因みにその短冊は今もあるのですか?」


 二人は首を横に振る。


「不思議な事に短冊は忽然と消えたんだ………まるでサチに引き合わせる目的を果たしたみたいに」

「ダーリンはそう言うけど私は運命を信じるわ」


 これ以上の話は聞けそうにもない。


「ありがとうございました」


 お辞儀をして立ち上がろうとした私をサチさんは引き留めた。


「貴女も短冊に願いを書いたのよね?」

「………ええ」

「素敵な出逢いだと良いわね」


 コンビニのカウンターにはメガネ丸が青い顔をして立っていた。


「メガネ丸どうした?」

「………サルが短冊を残して失踪した」

「短冊?」

「池谷水産の七夕まつりの短冊だ」

「また短冊か」

「またって?………あぁあれか先輩の話だよな」



 アキバ系先輩に合わせてくれてありがとうと伝えると家路についた。

 七夕まつりと短冊。

 そしてサルの失踪。

 分からない事ばかりだけど走って気分転換をしたかった。


 自室に戻り枕をひっくり返した。


「…………あった」


 赤色の短冊が二枚並んで置いてあった。



去年の七夕企画を未だに引っ張ってます。


何度かりテイクを繰り返して何とか形になりました。


気長にやりますが宜しくお付き合いのほどを。



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