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七夕祭りの短冊に願う者達。

「なっ頼むよ!合コンの人数が足りなくてさ、助けると思って」


 私はよく人から頼まれることが多いほうだ。

 今も目の前で合コンの人数合わせに誘われてる最中だ。


「いや、しかし私は……」

「それは承知で、王子は黙ってワインを飲んでてくれるだけで良いから!それに王子の代金はこっちで持つからさっお願い!」

「料金よりも……なんで私が男子枠に含まれるのか?ってはなしよ!」


 私の名前は『柊 大和』(20)学生。不本意ながら幼少期からの渾名は『王子』で一貫されている。だが女だ!!


「王子よ、聞くが女子とはなんだ?」

「可愛いくて、柔らかくて、弱々しくて守りたくなる存在かな」


 目の前のこの男幼稚園からの腐れ縁で根は悪い奴では無いのだが私を女と認識していない。


「わかった。王子の女の子像に当てはめたら王子は女子ではなくなるとね」

「なんでそうなる!」

「……身長はいくつだ?」

「……179.9」

「180という長身に……」

「179.8だもん!」

「然り気無くサバをよむなバカ者!その長身で銃剣道をやってる女がその年でいるか?自衛官にでもなるつもりか!」

「それでも私は女の子だし、それに王子と呼び続けるならキミは『メガネ丸』のままだ!」


 銃剣道は、長さ166cmの木銃を使い剣道でいう突きに特化した現代武術の一つだ。幼少から祖父が教官となって教えてもらって現在も続けている。


「そんなに嫌なら無理には誘わないよ」

「わかったわよ」

「えっ」

「行ってあげるわよ……合コン」

「マジ!ありがとう。本当は王子が来るならって女の子が居るから助かったよ」


 男は去り際にメモ用紙を渡して何処かへ行ってしまった。

 メモ用紙には、『本日19時より国馬駅前の池谷水産で合コン』なんとも簡単な文面だった。


 今日は3コマしか授業が無い。


「さて、どうしましょう」


 家に帰るにも時間は短いしかといってただ待つには長すぎる。

 現地集合だからと国馬駅近くで暇を潰すことにした。

 駅近くには多くの店があり大体のことはここで出来た。


「さて、どうしますかね」


 辺りを見渡すと目のはしに女性が路地に連れ込まれて行くのが見えた。

 途中の花屋の店先で竹箒で掃除をしてる人がいた。


「ごめんなさい箒を、お借りします」


 返事を待つ必要が無かった。悲鳴が聞こえたからだ。

 路地の広さは然程広くな無く人が並んで通るのがやっとで奥は何処かのビルの壁で塞がれていた。


 ――奥には三人、一人が女性。


 男女ペアで連れ込まれるのはあまりにも不自然な状況。それに町のヤンキー二人にお嬢様風の女性一人なら答えを出す必要が無い。

 捻る必要は無い、助けるのは一人!


「女の子に二人がかりとはモテナイのは辛いねぇ」

「なんだテメー?」


 やはりこのタイプは扱いが楽だ。

 私は左足を前に摺り出し、正面の相手に対して斜めの体制になる。

 箒の後方を右手で掴み腰の辺りに置く。左手は添えるように箒を持った。


「なんだ!やるのか?」


 男二人の内一人が私に向かって来る。

 タイミングを合わせて左足を踏み込み、箒を掴んだ右腕を突き出した。

『タァァァァァァッ!』

 掛け声と共に左手の中を滑る棒の感覚は男の左胸を捉えたと確信した。仰向けになり左胸を押さえる男を一瞥するともう一人に目を向ける。


「テメーは……何者だよ!」

「悪いけどその娘の関係者なんだよね」


 初対面だけどヤンキー一人潰してるから無関係じゃないよね?

 前へ。前へ。

 ズズっと摺り足で男までの距離を詰める。

 右手の薬指と小指がリズムを刻む。私のクセだ。

 こういった狭い場所での戦闘には銃剣道は向いている、本当にそう思う。

 男は女性を盾に取るつもりらしく羽交い締めにちかい形で左手一本で捉えていた。


「おかしな真似すんなよ!」

「……たす、けて」


 リズムを刻む指が止まる。


「しゃがんで!」


 私の声に反応して男の体が前に少し動いた。女性が屈む体制を取ってくれたからだ。

 男の顔面に床底を喰らわした!

 所詮は箒。

 竹箒は木銃じゃないから銃尾部分の床尾などあるはずも無い。

 有るのは竹箒の箒部分。


「うゎっぷ!」



 男は顔面に無数の箒を当てられ情けない声と共に女性を私の方に突き飛ばした。

 箒を落として女性を受け止めた隙に男は突っ込んで来た。


「しまった!」


 しかし予想に反して男は通りすぎて行ってしまった。

 もう一人も後を追って行ってしまった。捨て台詞を残して。


「……覚えてろよ!」

「……」


 深呼吸をすると、女性の顔をみる。


「大丈夫ですか?怪我とかはありませんか?」

「……は、はい、ですが貴方の手の方が……」


 確かに右手から血が出ていた。どうやら箒の止めている金具にでも引っ掻けたのだろう。


 女性はハンドバッグからハンカチを取り出すと私の手首に巻いてくれた。


「有り難いけどキミのハンカチを汚してしまった」

「いいえ、私にはこれくらいしか今は出来ません……改めてお礼をさせていただきませんでしょうか?」

「なら、このハンカチを洗って返すということで宜しいですか?」


 女性はコクリと頷いた。


「あの男達は知り合いでしたか?」

「いいえ、道を尋ねたらこんな場所に連れ込まれてしまい……」

「この辺りなら案内しますよ?」

「私、池谷水産ってお店を探してまして」


 時計をみると18時45分少し早いけどまぁいいか。


「用事が合って行く所ですからエスコートします」


 私は左手を出すと彼女はそれを掴んだ。

 忘れずに竹箒を持つと花屋に返しに行くと紺色のエプロンの女性がニヤニヤ笑って立っていた。


「箒ありがとうございました」

「怪我はなかった?」


 私は右腕のハンカチを見る。


「ヒーローの方じゃないわよ♪お姫様は……無事のようね」


 花屋の主人だと名乗る女性は私に薔薇を一輪こっそり渡してきた。


「上手くやりなよヒーロー♪」


 全く私はヒーローじゃないですよ。


「箒を返すだけでしたのに手間をとらせましたね、お詫びに……」


 薔薇には棘が無く短く茎を切られいたから彼女の胸ポケットに薔薇を飾った。


「じゃあ参りましょう」


 やっと着いた合コン場所には既にメンバーは揃っていた。

 こちらは、猿とカッパとメガネ丸に私だ。

 エスコートした彼女も含めて全員が揃ったらしい。


「もうPRタイムは遅れた王子達だけだからヨロシク」

「そうだよ、私たちに抜け駆けして王子とデートしてたんだからシッカリアピッちゃいなよ♪」


 彼女の方を見ると私の方を見ては紅くなってうつ向くのを繰り返している。

 仕方無い。私は立ち上がった。


「えっと、柊 大和。学生だ」

「渾名は、『王子』だよ~」

「黙れ!邪魔すんな『メガネ丸』」


 私の前に座る彼女が立ち上がると場静かになった。

 あちら側から『姫頑張ってね』と励まされてるこっちとえらい違いだ。


「わたしは、かんざし 小鳥 学生です」

「渾名は、『姫』だからね~王子さまぁ」


 小鳥ちゃんはアワアワしながらまるで轟沈するようにユラユラと着席していった。


「それじゃメンツがそろったところで、今回のメインイベント!」


 メガネ丸が意気揚々と取り出したのは、この時期には何処でも置いてある短冊だった。昼は定食夜は居酒屋をやってる池谷水産でも入り口には竹が飾ってあった。


「でもなんでワザワザ短冊の願い事がメインイベントなんだメガネ丸?」

「王子が知らなくても仕方無いから説明するよ」


 メガネ丸が話し出すと全員が注目した。

 話は噂の様なものだった。

 よくある都市伝説。

 メガネ丸が入学式の時に噂になっていたらしい。

『七夕の日に池谷水産の短冊に願い事をすると叶う。』

 彼も初めはただの噂話と軽視したのだけど、バイト先の先輩の彼女との馴れ初めを聞いて本物かもとおもったらしい。


「それってたまたまかも知れないし、その先輩の人徳かも知れないでしょ?」

「いやいや、その先輩は理想を現実にしたようなアキバ系男子なんだけど彼女さんがモデル級の美女なんだって」

「意外と美人さんってダメ男とくっつくらしいよ」

「まぁ兎に角皆で書いて真相究明しようぜ!」


 仕方無い。折角乗った舟だし協力しますか。

 次々に配られてくる短冊を一枚私も受け取った。


「男子は共通で『彼女が欲しい』で決定だからな!」


 猿とカッパは『ウェーイ』と返事はするが私は女だ!!


「王子も『彼女が欲しい』だからな!」

「なんだよそれ!」


 所詮は遊びの延長と思い高を括って私も倣って書き終えた。


「みんな書き終えたら順番に二人一組で入り口の竹に短冊を飾ってくること」


 結局各々短冊を飾りに行き最後は私と小鳥ちゃんの二人だった。


「じゃあ参りますか」

「……はい」


 私は小鳥の肩の辺りを抱くように彼女の歩調に合わせて歩いた。

 後ろからの冷やかしは男子だけではなくで女性サイドからも多かった。


「大和さんって本当に王子様なんだね」

「王子様はよしてくれないかな、王子って柄じゃ無いしね」

「そんなこと無いです。わたしを助けてくれた時は本当に王子様が来たと思ったから」


 隣を歩く彼女は私の理想をそのまま現した様な小さくて可愛いくて守りたい女の子だった。私が成りたくてもなれない存在。


「王子……いえ大和さんって強いですよね。何かやってるのですか?」

「あまり自慢出来ることでは無いのですが、子供の頃から銃剣道を嗜んでるです」

「……銃剣道?」


 普通はそう反応するよな。


「まぁ説明はさておき短冊を飾って戻ろうか。小鳥ちゃんのもつける?」

「自分でやります」


 私は簡単に上の方に付けたが小鳥は背伸びをしてる姿は愛らしくて……じゃない!

 竹を少し引っ張って倒してやる。


「ありがとうございます。大和さんの隣に付けられました」


 確かに私の短冊の隣に小鳥の短冊が並んで飾られていた。








思ったより筆の運びがよくていつもより長めです。


銃剣道を使ってる主人公って意外と少ないからやってみたかったんですよね。

今回、銃尾部分の床底での攻撃がありますが『銃剣道じゃないじゃん!』って思う方もいらっしゃるでしょうが、大和は祖父に銃剣格闘も習っていたと脳内保管してください。

大和は合わせて銃剣道と思ってますから。


因みにまだ大和はノーマルです。

では、また。

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