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僕は9ボルト  作者: 大友 鎬
Radiant Hero
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光り輝くようなヒーロー(1)

「スッベースベスベェ!」

 不気味な笑い声を響かせながら、幼いこどもたちの前にゾウの顔をした怪人が現れる。顔からのびる長い鼻は滑り台のような造型。

 ゴリラのような毛むくじゃらの巨躯に、袖口に余裕のある裾の長いチェニックを着ており、コープと呼ばれる様々な刺繍の入った半円形のマントを羽織っている。

 ――例えるなら中世時代の司祭みたいな格好かな。

 幼いこどものなかに紛れている、どこか幼さを残した丸みを帯びた顔立ちの少年――吾妻光輝は一言、緊張感のない感想を漏らしながら唯一しっかりと怪人を見つめていた。

「オイラはデスアスレチックの将軍のひとり、ダ・滑リーダーだスベェ!」

 名乗り上げた怪人は自分の身長よりも長い巨大なハンマーを振り回し、仁王立ちしている。

 二三XX年。外宇宙にあるといわれる惑星オ・ユギーから地球を侵略しにやってきた悪の組織デスアスレチック。

 運動不足によって肥満体が増えつつある人間が多い地球ならば簡単に侵略できるのではないか。いやそれより何より運動しないなんてどういうことだ、許せないっ!

 憤慨したデスアスレチックの首領、邪ングル・グランドマスター(通称、邪ングルGM)は地球征服の第一歩として、日本に侵攻を始めた。

 目の前にいるこどもたちを見下すダ・滑リーダーは日本征服を邪・ングルGMから任された将軍のひとりだった。

「ここはたくさんのこどもがいるスベェ! ジャマーども、運動不足のこどもを誘拐してくるスベェ!」

「ジャジャア」

 ダ・滑リーダーの命令で五人の全身黒タイツの男たちが姿を現す。

 タコ踊りのように手足を無造作に動かし、目の前に座るこどもたちを見繕い始める。

「ジャマーども、運動不足っぽいこどもをつれてくるスベェ!」

「ジャジャア!」

 デスアスレチックの戦闘員であるジャマーは太っていたり、色白だったりといかにも運動できなさそうなこどもを選び出す。

 選ばれたこどもたちは抵抗できずそのままダ・滑リーダーの前へと連れ去られた。

 周りにいる他のこどもたちはジャマーを恐れるばかりで、何もできなかった。唯一、しっかりと怪人を見つめていた少年は恐れている様子はないにもかかわらずジャマーに対して何のアクションを起こさなかった。

「スッベースベスベェ! 今からお前たちにオイラのデスアトラクション『腕立て伏せ二十回』に挑んでもらうスベェ! クリアできるまで家には帰さないスベェ!」

 怪人が作り出すデスアトラクションは決められた課題をクリアするまで強制的に運動させる。こどもたちはジャマーの誘導で、あらかじめ敷いてあったマットの上につれていかれる。

「じゃあ、カウントに合わせて腕立て伏せをやるんスベェ! それ、いーち!」

 その合図に合わせてこどもたちは腕立て伏せを始める。選ばれなかったこどもたちからは「がんばれー」と声援が飛んだ。彼らは手伝うこともやめさせることもできない。

 声援のかいもあってか全員が一回目の腕立て伏せをクリアする。

 しかしデスアトラクションはそんなには甘くない。というよりもダ・滑リーダーが意地汚かった。

 こどもたちがクリアしたのを見て、「にー、さん、しご!」とカウントのリズムを早めたのだ。

 急激なペース変化に対応できず、こどもたちは全員失敗してしまう。

「残念スベェ! それでは最初からやり直しスベェ! お前たちはもう三時のおやつにありつくことはできないスベェ!」

 ダ・滑リーダーが高らかに宣言する。卑劣な罠で疲労が溜まれば二回目以降の難易度は格段にあがる。

 ゆえにデスアトラクションに捕まった人間は実質、解放されない。永遠に運動をさせられる。そしてそれは結果的にあらゆるものに支障をきたす。サラリーマンが捕まれば経済に、主婦が捕まれば家庭に、学生が捕まれば学力に、こどもたちが捕まれば明るい未来に。

 とそこにサンバイザーとポロシャツ、短パンという格好のお姉さんが現れる。

 ダ・滑リーダーたちの頭上のライトが消え、灯りがそのお姉さんに集まる。

 暗闇のなかで、ダ・滑リーダーたちは動きを止めていた。

「みんな、大変だー。このままではみんなのお友達がデスアトラクションから解放されないよー! こういうときみんなはどうするー?」

 お姉さんは左手に持つマイクを目の前の――ステージ前のこどもたちに向け、右手を右耳にあてる。するとちらほらと小さい声が聞こえてくるが、小さすぎてマイクが音声を拾えない。それでもお姉さんはまるでそれがシナリオ通りといった面持ちで

「そうだね。こういうときは挑戦戦隊チャレンジャーを呼べばいいんだよー! じゃあわたしが合図したら大きな声で『助けて、チャレンジャー』って言ってね!」

 お姉さんの息継ぎとステージ前のこどもたちのうなづきが重なる。

「せーの!」

「「「「「助けて、チャレンジャー!」」」」」

 デパートの屋上に響き渡る声。同時にチャレンジャーのオープニングテーマ『なんでもかんでも挑戦じゃ!』がBGMとして流れ出す。

 お姉さんが脇に消え、ステージのライトが灯る。瞬時に華麗な側転で現れる五人の戦士。

「チャレンジレッド!」「チャレンジグリーン!」「チャレンジブルー!」「チャレンジホワイト!」「チャレンジピンク!」

 各々が名乗り、ポーズを取っていく。

「「「「「五人そろって挑戦戦隊チャレンジャー!」」」」」

 「チャレンジャー」「かっこいい」

 そこかしこのこどもたちが声援を飛ばす。

 挑戦戦隊チャレンジャーはデスアスレチックに対抗すべく、体力自慢のなかから特に体力のある五人を選出して編成されたヒーローである。男三人女ふたりで構成されるチャレンジャーは強化スーツの力によってもともとあった体力を五倍、筋力を三倍、学力を有名大学卒業レベルまで引き上げてデスアスレチックと戦っているのだっ!

「スッベースベスベェ! また邪魔をしにきたスベェ、チャレンジャー! ジャマーども、デスアトラクションに割り込ませるなスベェ!」

「そうはさせるか」

 一瞬のうちに五人のチャレンジャーはジャマーを倒す。倒されたジャマーはステージ脇へと回転しながら消えていった。

「さあ、こっちへ」

 こどもたちを救出していく。

 本来、デスアトラクションに囚われた人々は課題を終えるまで解放されないのだが、チャンジャーはフェイタル・アクションという技を用いて囚われた人を解放することができた。

 ただしその代償としてデスアトラクションに挑戦しなければならないのだが、それも覚悟のうえ。それがチェレンジャーの使命なのだから。

 一方、救い出されたこどもたちはステージの脇にいるお姉さんからお菓子を貰い喜んでいた。

「クリアはさせんスベェ!」

 いーち、に! とダ・滑リーダーは怒り狂った声を発するが、チャレンジャーはどんなにリズムを狂わされようと腕立て伏せ二十回をクリアしていく。彼らにとって、腕立て伏せ二十回など、普段の日課の十分の一にも満たない。

 一瞬にしてデスアトラクションが崩壊していく。ステージ上に劇的な変化はないが。

「どうだ、ダ・滑リーダー!」

 チャレンジレッドが指し、言い放つ。

「やられたスベェ!」

 ダ・滑リーダーがその場に倒れた。

 何を隠そう、デスアトラクションを破られた怪人は一瞬で力尽きてしまうのだ!!

 同時に大きな爆発――音がスピーカーから鳴り響く。PTAやら商工会やら色々な影響で火薬を使えないため、見た目はどことなくしょぼい。

「みんなのピンチにはすぐに駆けつける。これからもチャレンジャーの応援をよろしく頼むよ!」

 レッドの言葉に拍手が巻き起こる。その拍手に応えるように手を振りながらステージ脇に去っていく五人のチャレンジャーと入れ替わりに再びあのお姉さんが登場する。

「みんなー、挑戦戦隊チャレンジャーのステージは楽しんでくれたかなー? このあと、トイレ休憩を挟んで、な、な、な、なんとチャレンジャーとの握手会がありまーす。握手したいってこどもたちは少しだけ待っていてくださいねー」

「ねえ、ママ。握手できるんだってー」「かーさん、おしっこー」

 後ろに控えてきた母親に駆け寄るこどもたちの無数の声が飛び交うなか少年は近くにいた係員へ急いで駆け寄る。

「すいません。チャレンジャーとの握手って何歳までできますか?」

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