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僕は9ボルト  作者: 大友 鎬
Season of New Green Leaves
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青葉の頃(6)


 翌朝。目覚めは最悪。気分がどんよりしていた。低血圧の次郎花にとって朝は最悪の時間だ。目覚まし時計の針は午前六時、いつもより二時間も早い目覚め。最近はいつもこうだ。暑さで目が覚めてしまう。畳に引いた敷布団は汗を吸収していて汗臭く、少し薄汚れたタオルケットは蹴飛ばして足元にあった。

 黒いタンクトップと布地のホットパンツが寝間着の次郎花はそれでも起き上がって、うーんと呻きながら腕を伸ばすとあくびを出た。口元を隠しながらあくびを終え、再び布団に倒れて、さてもう一眠りといったところで

「大変だ、次郎花」

 太郎丸が慌てて次郎花の部屋に駆け込んでくる。太郎丸はすでに保育園の準備をしていたのか、今日もお気に入りのめたぼりっくエプロンをしていた。

 次郎花の部屋も前述した理由でものがほとんどない。前は友人からもらった俳優のポスターを貼っていたりしたが、イタズラする園児たちの手によって破かれていた。とはいえ思い入れのあるポスターではなかったので友人には申し訳ないとは思ったもののあまり気に病んだりしなかった。

 次郎花は太郎丸の声が聞こえていたが、無視して二度寝していた。

 太郎丸はずかずかと次郎花の部屋の奥へと向かって障子を開ける。障子によって遮られていた柔らかな光が、急激に明るさを強め、次郎花の露出する艶めかしい二の腕や太ももを温める。

 さらには寝返りをうつ次郎花の目をその明るさで刺激し、次郎花は眩しさからいやおうがなしに覚醒させられる。

「う、うーん」ともう一伸び。障子を開けた太郎丸に気づいて「もうちょっと寝かせてよ」と眠たげな眼で次郎花は睨みつける。

「大変だ、って言っただろう。お前の出番だよ」

「ボクの出番ってどういうこと?」

「頼明くんが行方不明だそうだ」

 その言葉で次郎花の意識は完全に覚醒する。

「どういうことっ!?」

 太郎丸の胸倉をつかんで問いただす。太郎丸は次郎花の手を振り解こうとしたが、休みがちとはいえ、ヒーローである次郎花の力は強い。

「待て、待て、落ち着け」

 次郎花から解放された太郎丸は軽く咳き込んで、

「電話があったのはさっきだ」

 よれたエプロンをもとに戻しながら次郎花に伝える。

「お前も知ってのとおり、頼明の家は夜遅くまで両親が帰ってこないんだよ。保育園の送り迎えはいつも頼明くんのおばあちゃんだけど、おばあちゃんは頼明くんを甘やかしていてね、家に帰ったあとは大抵、頼明くんを好き勝手させていたようだね。スーパーにヒーローショーを見に行くという頼明くんをひとりで行かせてしまった、とさっき電話口で十分も嘆かれたよ。しかもおばあちゃんはうっかり寝てしまってね、いないと分かったのが朝ってわけだ。これも十分に嘆かれたよ。参るね、まったく」

「じゃあ、家に帰ってからヒーローショーに行くさなかに頼明は行方不明になったってこと?」

「いや。ヒーローショーに行ったということはわかっているよ」

「どうしてそんなことわかったのさ」

「頼明くんのboyaitterの最終更新が『チャレンジャーさいこうなう』だからだよ」

「……」

 頼明が保育園児にしてboyaitterをやっていたことに驚きながらも、それが確かなら、頼明が行方不明になったのはそのヒーローショーが終わったあとだろう。

「兄貴、そのヒーローショーってどこでやっていたの?」

「ここらへんでヒーローショーって言ったら、ホープしかないよ」

 ホープというのはここら一帯の人がよく利用する老舗の大型スーパーのことだ。

「わかった。なら、ボクはまずそこに行ってみるよ」

 そう言ったあと、次郎花は思いついたように「兄貴って<i-am>の探索機能ってわかる?」

「……なんだよ、それ?」

「わからないならいいんだ」

 頼明が<i-am>を持っているのを次郎花は知っている。ならば、昨日、光輝が自分を見つけるのに使ったように、その機能を使えば、頼明を見つかるかもしれない。

 太郎丸が知っているかもと淡い希望を抱いたが、太郎丸も<i-am>を連絡程度にしか使わないため、どうやら知らないようだった。この様子だと三郎太も両親も知らないだろう。

 昨日のことがあってあまり頼りたくはないが、探索機能を使うには光輝を頼るしかない。

 それでもすぐに頼明が見つけられるならいい。

 連絡を取るのはスーパーに行きながら、と決めて次郎花は自分の部屋を出る。

「次郎花」

 それを太郎丸は呼びとめる。

「なんだよ、バカ兄貴」

「こっちのセリフだよ。身だしなみぐらい整えていけ。カッケーヒーローがお前の理想だろう?」

 そう言われて次郎花は自分の姿が寝間着だと気づく。太郎丸は言うだけ言って、次郎花の部屋を出て行く。

「カッコつけるなよ、バカ兄貴」

 顔を真っ赤にした次郎花は出て行く太郎丸に目覚まし時計を投げて、部屋の引き戸を閉めた。

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