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幕間 〜それぞれの思惑 イン 東町商店街〜

 この商店街で、人垣が出来、怒号が乱れ飛ぼうとそれを喧嘩だと思う人は少ない。

 実際はもっと非常識な遣り取りがそこでは行われているのだが、夕飯前のこの時間、その事で足を止める地元主婦の数は少ない。

 その場にいるのはこの時間には体の空いている下校中の学生や、この商店街の話しを聞きつけて集まってきた観光客、イベントを求めるカップル、そして、忙しい時間にも拘らず、それが始まると店をほっぽり出して飛び出してきてしまう商店街のおっさん連中(しっかりしてないほう)

 奥さん方(しっかりしてるほう)で今更この騒ぎをジッと見ていられるほど暇を感じている人は少ない。

 もう、何十年も繰り返されてきた日常。

代替わりがあったらしく、ヒーローは中身が明らかに女から男に。

悪玉の方も、表に出てくるのが、研究者風の男から、露出度の高い女へと替わっていったが、昔から総じて緊迫感は少なかった。




 野次馬の中から、張り詰めた声が聞こえてくる。

「ね、ねえ、止めた方がいいんじゃない?」

「…つうか、どうやってだよ」

 ふらふらになりながら立ち上がるヒーローに、蜘蛛男の拳が飛ぶ。

ヘルメットが破損し細かい破片が宙に舞った。

どういった仕組みでか、破損部分は直ぐに補填リカバーされるが、ダメージはそうもいかないらしい。

膝をつき、うずくまった所に容赦なく蹴りを入れられている。

 視線の先で繰り広げられる暴力・・にギャラリーは一様に息を呑んでいた。

「……いや、誰か止めろよ」




 耳元で誰かが呟いた。

 目の前で繰り広げられる光景に玲子は歯噛みする思いだった。

 踵を返し、野次馬の輪から抜けた。

最終的にどちらが勝つにしろ、自分が最後まで見ている意味はない。

 商店街の出口を目指しながら、忌々しさから舌打ちをする。

……昨日、いや今朝までの彼らとは明らかに様子が違っていた。

(…ちんどん屋みたいな呑気な連中だと思ってたのに)

 だからこそ、干渉しない事に決めた。

それが、昨日の今日だと言うならまだしも、同じ日に失敗ミスだったと分かるなんて…。

(これじゃあ全然話が変わってくるじゃない)

 肩を怒らせながらずんずんと歩く。

不機嫌を隠すことなく歩いている玲子を、通りすがる人が怪訝そうに振り返る。

(……こうなったら、もう、形振なりふり構ってられないわ、あの子もこっちに巻き込んでやる)

「ふふふ、ふふ、ふふふふふふふ」

 ヤケクソ気味に笑いながら、玲子は足を速めていった。




〜ずっと、ずっと、見つめていたい  もっと、もっと、強く抱きしめて〜

 アイドルの新譜を携帯でダウンロードしながらあゆむは歩いていた。

イヤホンに耳を傾けディスプレイに目を遣りながらも、視界の片隅に映った人物に足を止めて振り返る。

「…千葉ちゃん?」

 その人物は直ぐに人波に呑まれていった。

しかし、波間から見えた後姿には確かに見覚えがあったような気がする。

(なんか面白い顔してたけど…)

 引きつったような笑顔に見えた。

眉根を寄せて不本意そうに、それでも笑うしかないとその顔が言っていた。

 首を傾げながら歩いていくと少し先に人だかりが出来ているのが見えた。

……歩も地の人間である。

いつものあれか、となんとなく通り過ぎようとしたが何か様子が違っている。

 気になって、イヤホンをはずしつつ、いつもより静かな人の輪に加わった。

 人ごみを掻き分け、輪の中心へと進んでいく途中、にわかに歓声が起こった。

 何事かと思うまもなく、二つの影が人の輪を飛び出していった。

「???」

 要領を得ないまま、背伸びをして歓声の送られている中心を見越す。

 そこには、満身創痍のヒーローの姿があった。

……今にも倒れそうにふらふらしている。

(うあ、ぼろぼろだ)

 ヒーローがギャラリーに揉みくちゃにされそうになった一瞬、誰かが彼に歩み寄っていったように見えた。

……微かにだが、歩の目に映都東のスカートが翻るのが写った。




 ヒーローに群がるようにしながら、その実、誰も近づけないようガードしている集団の隙間を少女はすり抜けていった。

 彼女の到着を待っていたかのように、ヒーローが前のめりに倒れてきた。

彼女の肩に頭を預け、だらりと体から力が抜けていく。

「ぼろぼろ」

 気だるげにそれでも微かな親しみを孕んだ声で、体を支えた。

「…よくやったね」

 背中に手を廻し、抱えた頭を優しく撫でてやる。

良く見ると直りきっていない傷がマスクには無数にあった。

それ以外にも、おそらくたくさんの打ち身や捻挫を負っている事だろう。

「…重いわ、誰か早く代わって、とっとと自宅に連れて行きなさい。それから、直ぐに薫様に連絡して」

 てきぱきと指示を出しつつ、近づいてきた男に、慎重にヒーローを預ける。

なるだけ人目につかないように去っていくその姿を見送ってから、散っていく仲間とともに自然に人ごみにまぎれていく。

「…ご苦労様、アキナ君」

そう、疲れたような声で呟いた。




「分かりました」

 受話器を置き、秋名あきなかおるは相好を崩した。

 この日を待ち焦がれていた。……それはもう長いこと。

惜しむらくは、その場に立つのが自分ではないという事だ。

現在の自分の体調を思うと、そんな事をしていられないのは、分かってはいるのだが。

「随分、待たせてくれましたね…」

 万感の思いを胸に、自然にこぼれた言葉だった。

「それにしても…」

 もう直ぐここに運ばれてくる孫のことを思う。

「こんな事くらいで、自分で帰って来られなくなるなんて、鍛え方が足りなかったでしょうか?」

 二人を良く知る人が聞けば、真っ青になって倒れてしまい兼ねない事を呟きながら、薫は受話器を持ち上げる。

「やっぱり樹ちゃんも呼んでおいた方がいいでしょうね」

 長いコール音が、薫の耳に響いていた。




「……何だ?」

「…薫様だった」

「……何だと?」

「…助太刀がいるそうだ」

「……誰だ?」

「…樹を」

 二人は頷いた。




 ベッドに横たわった蜘蛛男を見て、男は溜息をついた。

「また派手にやられおって」

 白髪頭を掻きつつ、破損箇所をチェックする。

顔、右手と来て、殴られた左腕を見た時、息を呑むように声を上げた。

「これは……」

 そこには今までにないダメージが見て取れた。

取り敢えず、肘から先が、煙になってしまったかのように消え失せていた。

「何があった?何か普段と違う事があったはずじゃが?」

「さあ?…クモちゃんが顔をかばった時のでしょ?」

 プルームが大袈裟に肩を竦めて見せる。

一応悩むようなそぶりで口を開いた。

「…んと、いつもと違う事って言ったら……あ、そうそう、パンチした時、手が青く光ってたかしら、いつも赤なのに」

「ふむ…」

 男が顎を撫でる。

「自己防衛装置の一種かの。危機に際して発動するのかも知れんな」

 もっともらしくそう言い、直ぐに頭の痛そうな顔をした。

「しかし、こいつはもう無理じゃな、骨格に無理をさせすぎとる」

「あら、でも一緒に走って逃げて来れたわよ」

 プルームが不満そうに呟く。

「それが止めになったんじゃな…。まあ、頭の方は無事じゃし、収穫もあったようじゃからな」

 先程プルームが口にした事だった。

―――クモちゃんが顔をかばった時のでしょう?

 それは男が期待していた反応だった。

「後は、こいつの人工知能をアレに適合させれば」

「完成ね」

 プルームが嬉しそうに笑う。

「言ったとおり体のほうはもう既に出来上がっとるからな」

「んー、そう言えば、まだ見てなかったわね、彼女・・の事」

「見たいか?」

 男が顔を輝かせた。

「言っておくが自信作じゃぞ、そりゃあ、ありとあらゆる資料を見ては、改修に改修を重ね、そして……」

『ただいまー』

 男の言葉を遮るように玄関を映すモニターに少女の姿が現れた。

「お帰りいいいいいいイ、まあちゅわーーーーーん」

 プルームが一目散にエレベーターへと駆けて行く。

乗り込んでから三十秒もたたない内にモニターに彼女の姿が現れた。

『まあちゃあーん』

『ただい…って、うわあ、抱きつかないでっ、ちゅうはやめてっ』

 玄関で何やってんだって光景が映る。

「……はあ」

 溜息をつきつつ、男がスイッチを押す。

部屋の壁がスライドして、巨大な筒状の水槽が現れた。

「どうやら、お披露目はまだ先のようじゃな」

 水槽の表面を撫でると、栄養液が返事をするように、ボコッと泡を立てた。

クライマックスに向けての前フリです。

取り敢えず一部が終り、位のつもりで読んでください。

この話自体このペースでいくと、二部とちょっと位で終わりそうですので、宜しければもう少しお付き合い下さいませ。

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