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白百合の夢  作者: ロティア・エレライ
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かぐや姫

私はいろんな事を知り、いろんなものを食べて、働くことも覚えたある日、拓さんの「違いますよー」という声を聞き、盗み聞きなんて悪いと思いながら壁越しにただ私は立っていた。

声からすると、拓さんと話しているのは拓さんのバイト先の先輩であるオオサキさん、かな?

「違わないだろー?あんな美人が毎日そばにいて手も出してないって?」

「確かに白百合は美人ですよ……裸で家にいたときは女神降臨かと思いましたよ、いろんな意味で。」

「で、相手はお前に興味があるんだろ?本当にエロゲみたいだよな。」

「わ、かりませんよ……白百合が僕をどう思っていようと、僕には……。」

「関係なくないだろ、早くモノにしちまえよ、このヘタレめー。」

「僕は、僕はっ!白百合と友達でいたいんです。白百合だって、記憶が戻ったら、今みたいにずっと、なんていられないと思うし、それなら、友達でいたいんです……。」

「ふーん?でもお前、その考えじゃいつか白百合ちゃん失ったとき絶対後悔するぞ。」

「どっち道、後悔するなら……同じ事です。」

私はただ、立ち尽くしていた。急に足元が砂のように崩れていく感覚に陥った。

私はもう長い時間をもらった。白百合の花は、枯れることもつぼむ事も、新たに花を咲かせることもなく、時がとまったかのように咲続けている。

その花びらは白というよりクリーム色のように黄ばんできている。いったい、私はあとどれくらいもつのだろう?それまでに拓さんが私を好きになって付き合ってくれなければ、私は……。






―――消滅する―――






私は、あなたといたい。いつからか、とても欲張りになった。一瞬でも、と思っていた時期は遥か遠くに感じる。叶うなら、もっとと望むようになった。

これが、魔女の言っていた汚れを知るって事……?

ああ、なんて欲張りな……今でも十分すぎるほどありがたくて幸せなはずなのにどうしてこんなに苦しいの……誰か、私に教えて下さい……。


「え、あれ!?白百合ちゃん!?何してんの!?あ、まさか話……」

「白百合!?」

オオサキさんが先に出てきてから拓さんが続いて出てきた。

手を貸してもらってから、二人の顔を見た。気まずそうな顔をしている。

あ……どうしよう、どうしたら……困らせちゃいけない……。

「ありがとうございます、ついさっきここでつまづいてしまって、大したことはないんですけど……。」と私は笑った。

「え?話聞いたんじゃ……?」

「話?何か、お二人でお話でもされてました?私、きちゃいけませんでしたか?」

私は嘘を吐く。ただただ、嘘を吐く。

体の中にどす黒い何かが、流れ込んで形をなしていく。

――― コ レ ハ 、 何 ?

「いや、なんでもないならいいんだ、な。拓。ほら、お前はさっさとあがれ!白百合ちゃん待たせる気か?」

「え、あ、お疲れさまです!先あがります!」

拓さんが弾かれたようにそう言うと、オオサキさんは、「おう!」と言って手を上げた。

「白百合?」

「はい?」

「敬語に戻ってる。」

「すみません……じゃなくて、ごめん……なんでだかたまに……。」

「本当は聞いてたんじゃないの?」

「何を?」

「何も聞いてない?」

「だから、何を?拓さん……じゃなくて、拓君変だよ?」

「白百合、無理してない?」

「してないよ?」

「そう、なら、いいんだ。」

家に帰ってから私は思い切って聞いてみた。

「ねぇ、もし、私が消えるとしたら、拓君は、どうする?」

「……どうもしないよ、白百合が帰るべき場所に帰ったってだけだろ?白百合が幸せなら僕はそれでいいよ。」

「帰るべき場所じゃなくて……そう、“人魚姫”みたいに消えたりしたら?」

私は人魚姫をあまり知らないけれど、魔女は確かに人魚姫みたいだと言った。

あれ?でも、人魚姫って、消えたのかな?間違えたかもしれない。私が言い直そうとしたとき、拓さんはちょっと笑った。

「何で人魚姫。あれは王子様と結ばれなかったからじゃないか。僕らは人間同士なんだからあんなこと起こらないよ。」

私は机の上に頬杖をつくと、じっと拓さんを見た。

「非科学的な事は、信じない?」

「そうは言わないけど……どっちかっていうと君は羽衣天女やかぐや姫だ。いつかは僕の元を離れてしまう。記憶が戻ったら。」

「どこにもいかない、だから傍にいさせて、そう……頼んでも?」

「君には本来帰るべき場所がある。いや、あるはずなんだ。だから、そこへ行かなくてはダメだよ。かぐや姫だって最後の最後までその場所を惜しんだ。でも……。」

「かぐや姫なんて関係ない……!私は、私の王子様は……」

拓君なの、そう続けようとしたらさえぎられた。

「ごめん、聞きたくない。」

「……どうして?言うだけ言わせてくれたっていいでしょう?私が勝手に言っているだけなのだから……。」

「ごめん……。」

そう言って拓さんは私に背を向けた。

「わか、り……ました。しばらく外で頭冷やしてきます。」

「白百合!」

外へ出た私を追い掛けてきたのは声だけで、私は外に出て数歩歩くとベランダに咲くもはや白百合ではなくなった何かを見た。

百合は黒い筋が入り、クリームともオレンジとも見える色をしていた。

どんどん白百合の原型から離れていく。これがきっと、魔女の言っていた汚れがたまっていくってことなんだろう。鮮やかなオレンジではない。枯れてるような、それに灰色を混ぜたようなそんな濁った色をしている。

今まで特に望みもしなかった。一緒にいられるならそれでいいと思っていた。だけど今は違う。一緒にいたい。私を見てほしい。私を、好きになってほしい。望みだしたらとまることを知らない欲望は、私を蝕み続ける。

まるで坂を転がっていくように弾け膨らんでしまった欲望。このまま加速すれば、私の寿命は、あと何日?

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