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Ep1 「殺戮・暴れ狂う嵐」 B

この話から、ようやく主人公とその搭乗機が登場・・・・・・いやまぁ機体自体は前の話で登場はしてましたけど、本格的な登場がこの話からってことです。

 今回の敵勢力の使用機種はゲイラボル。エルヴィニアが造った世界で一番の最初の人型機動兵器で、全てのエクス・マキナの父祖とも呼ばれる機体だ。まず最も近くにいたゲイラボル――コンピューターによる識別名はE1――に狙いを定め、全速力で駆け抜ける。混乱しているのか、ライフルも向けず馬鹿みたいに突っ立っているソイツに急接近すると、そのままの勢いで頭部を鷲掴みにして遠投。上空に、真上に思いっきり放り投げる。

「・・・・・・」

 右手をゆっくりと握り拳を作った。腰だめに構え、上昇の限界に達し、落下し始めて来たE1を待ち受ける。ギリギリまでたわめられた機体の筋肉が、力の解放を求めるように極限まで膨れ上がっているのを感じた。

「――ッ」

 操縦桿を前に押し、振り上げた拳を敵機の腹部めがけて叩き込んだ。E1がとっさに腕を交差して防御したが何の意味もなさず、こちらの拳はその防御を力尽くで突き壊し、中のジェネレーターごと土手っ腹を撃ち貫く。腕を引き抜き一拍置くと、敵機は腹から炎の噴流を吹き上げ、爆散した。

 その様を確認すると、白い魔人のようなエクス・マキナ――NEMO-01Xヴァルスロードのコックピットの中で、天道歩は独りごちた。

「・・・・・・まずは一匹」

 鬱屈した声――常に激烈な苦痛に耐え続けているような、軋る声で呟くと、乗機と同じ暗い赤の瞳が新たな獲物を探し求めた。

 六時方向から接近警報。視線を後ろに。メインモニターに映るのは、黒光りするライフルを構えて向かってくる二機のゲイラボル。呆け状態からやっと立ち直ったのか、仲間を殺された怒りか、或いは両方か、その姿には殺気がありありと見て取れた。

「――あぁ、そうだ、その調子だよ」

 縦に細長い瞳孔が微かに揺らめき、口許が吊り上がる。呻くように、噛み殺すように、地鳴りめいた笑みを交えながら歩は嗤う。嘲嗤う。

 目・耳・心で感じる、心地よい殺気と気勢のベクトル。その総てを全身で受け止め。

「向かってこい」

 そう言って、歩は機体の向きを敵に合わせた。

 次の獲物は向かってくる二機、識別名E2とE3。

 両機の持つライフルはASS-64。人間用の突撃銃をそのままサイズアップさせたような形の、エクス・マキナの携行火器としては標準的な射撃兵装。口径は四十五ミリ。

 E2とE3が銃口を向ける。それを見ても、歩は回避運動を取らなかった。ただじっとして、相手の動きを見つめる。濁りに濁ったその目に、ある種の親愛とも呼べる情を込めながら。

 そして直後、二機が放ったありったけの砲撃が――たった一発で装甲車を粉々にできる徹甲弾の軍勢が襲いかかる。ヴァルスロードのいた場所が一瞬淡い光を放つと、次の瞬間、大爆発を起こした。巨大な業火が辺りを包み、もうもうとした黒煙が幾つもたなびいていく。

 E2とE3のコックピットの中で、パイロット達が「よし!」「やった!」とそれぞれ叫んだ。

 その直後。

 吹き荒れる紅蓮の渦をかき分けて、魔人が現れる。瞳をらんらんと光らせ、鋼鉄の双腕をダラリと下げ、幽鬼のようにゆっくりと歩きながら。あれだけの攻撃を喰らったというのに、その白い身体には傷一つついていない。

「・・・・・・やっぱり死ねないよなぁ、この程度じゃ。コイツ、色々と規格外だし」

 ヴァルスロードの装甲材であるオリハルコン合金。最高レベルの硬度を誇るこの金属で造られたコイツは極めて堅牢だ。この程度の火力では、かすり傷しかつけられない。

「じゃあ、今度はこっちの番だ」

 歩の宣告と同時、大地を蹴ってヴァルスロードが宙を舞う。遙か上空まで飛び上がり、背中のメインスラスターを最大噴射。自由落下速度に更なる加速を与え、次に全身に備えられたスラスターと姿勢制御ノズルを使って回転。竜巻のように大回転しつつ高速で突進し――轟風を纏った鋼鉄の一撃が、唸りを上げて二機に直撃した。魔人の蹴りが両機の胸を轢断し、頭部を砕いて、最後は残った部位を消し飛ばす。ぶちまけられたケーブルや金属製のはらわたが、燃え盛る炎が、周囲で踊り回った。

 ただ少しスピードを上げ過ぎたのか、敵を血煙に変えても機体が止まらない。ドリルもかくやな螺旋運動を続行しながら、ヴァルスロードは進む。進む進む進む。しまいにはE2達を蹴り殺した位置から大きく距離が開いてしまった。当然、この突発的に発生したトルネードは未だに沈静の兆しを見せていない。

「――チッ」

 右足を高く振り上げ、次に思いっきり地面に突き立ててブレーキをかける。すると回転は止まったが、爆走そのものはなかなか止まらなかった。盛大に抉れる地面、舞い散る土埃。そしてそれから余計な直線軌道を半キロ以上描いてから、やっとこの暴走特急は停止した。

 些か面倒を強いられたが、何はともあれ、これで三機。

「さて残りは――ッ」

 続く言葉が出てこなかった。横から飛び出してきた新たな機影が、腹にタックルするように絡みついてきたからだ。猛烈な衝撃が押し寄せ、視界が揺れる。世界も揺れる。内臓は乱暴にシェイクされ、今日食ったものが胃液と一緒に全て吐き出された。

 ぐらつく視界。遠のいていこうとする意識を手繰り寄せ、状況把握に専念する――さっきタックルしてきた相手が自分に組み敷いており、右手に持った青白い刃の剣を振り上げているのがわかった。

 プラズマブレード。特殊合金製の刀身をプラズマで覆うことで切断能力を高めた、エクス・マキナ専用の近接兵装だ。あれの前では、ほとんど全ての物質は為す術なく両断される――それは、『最強金属』の異名を持つオリハルコン合金を採用したヴァルスロードの装甲も例外ではない。

 死の刃が、光の飛沫を散らしながら落ちてきた。狙いはコックピットのある胸部一直線。こちらは仰向けに倒れたままで、防御の構えも取っていない。回避などこの体勢では当然不可能。

 正面から放たれる殺意の波が、俺の視界を赤く赤く染め上げる。

 死ぬ。

 脳裏にちらつくのは、死の瞬間。

 迫り来るは致死の凶刃。これを喰らえば機体は一瞬で両断され、自分の体は原子の一つも残らず消え去るだろう。

 ――だが、それはこの攻撃が『当たるという前提』での話だ。

 俺を殺す? この程度で? 無駄なことだ。俺を殺すというのなら、せめてヴァルスロード(コイツ)の両腕を潰すか、もっと上等な策を用意してからにしろ。

「つまりさ、甘いんだよ、お前」

 体に染みついた習性が、無意識の内に四肢を動かし機体を操作する。

 俺はヴァルスロードの上体を急いで起こすと、左手を突き出してE4のプラズマブレードを持つ手を掴み止め、そのままぐいっと引き寄せた。互いの機体の目――メインカメラが間近でぶつかり合う。気のせいだろうが、相手の目に少しの驚きと恐怖があった気がした。

 自由な方の右手で、ヴァルスロードに拳を作らせる。とはいえ殴りつけるつもりはない。さすがにこの距離と体勢では、いくらコイツの桁外れな膂力でも突き破れない。

 だから。

 拳の方に、勝手に飛んでいってもらうことにした。

 右拳を、敵機の腹部に押しつける。この距離だ。照準など必要ない。

「クラッシャーナックル」

 武器名を呟いてトリガーを引くと、ヴァルスロードの右肘から噴射炎が生まれた。内蔵されたロケットが肘から先を飛ばし、鉄拳を叩き込む。必殺の一撃が敵の腹を深く抉り、そのまま奥へと入り込んでいき・・・・・・コックピットを圧砕し、フレームをへし折り、背中の装甲も突き破って飛んでいった。

 E4は一瞬だけ激しく体を震わせると沈黙し、自分にもたれかかるような姿勢で動かなくなる。自分に死をもたらそうとしたプラズマブレードも、光を失ってただの鉄塊になった。腹に開いた風穴から赤黒い液体がぼたぼたと漏れ出て、ヴァルスロードの装甲を汚す。

「・・・・・・やっぱり戻ってくるまでがまどろっこしいな、これ」

 いや、割とロマンチックだし気に入ってはいるんだがな、一応。

 Uターンして戻ってきた右拳を装着し、未だにのしかかっているE4の頭を掴み、持ち上げてぶん投げようとした。すると力が入り過ぎたのか、ヴァルスロードの手が掴んでいた機体の頭部を握り潰した。鋭く尖った指先が頭甲にめり込んで中身ごと砕き、人間で言う首から溢れ出したオイルや部品がそのまま零れて、ヴァルスロードの角や顔を伝って全身を濡らしていく。

「・・・・・・きったな」

 結局蹴ってどかし、身を起こし、立ち上がる。

 まぁとりあえず。

 これで敵性反応は消滅。戦闘終了というわけだ。

これにて芝居は終了アクタ・エスト・ファーブラ・・・・・・とでも言うのかねぇ? こういう場合」

 まぁ拍手はいらないけど。

 にしても・・・・・・。

「俺、結局抜けなかったな」

 残念そうな声で呟き、歩は乗機の左腰に備わったプラズマブレードに目をやる。徒手空拳による近接戦も嫌いではないが、やはり自分としては剣を使っての戦闘が一番そそる。だというのに、こちらの剣は抜けず終いとは何とも残念でならない。

「っていうか、足りないよな・・・・・・」

 歩の瞳に映るのは、寂しげな輝き。それはどこか、祭りの終わりを悲しむ子供のようだった。

 まだまだだ。こんなものじゃ俺の渇きは満たされない。決して満たされない。

 だから、もっと戦わせて欲しい。あぁ、そうだ、もっとだ。もっと、もっともっともっともっともっと――

「なぁ、お前もそう思うだろう? ヴァルスロード」

 そう歩は機体に語りかけた。しかし、当然、それに返ってくる答えなどなく、ただ沈黙のみが場に流れる。

「・・・・・・何を言ってるんだかな、俺は」歩は自虐的な笑みを浮かべると、辺り一帯を――荒廃した街並みを見渡した。自分が屠った旧世代のエクス・マキナの残骸が、戦闘の余波で壊された建物の破片が、テロリストに殺された民間人の死体が、そこら中に転がっている。

 何というか・・・・・・うん。

「合掌・・・・・・みたいな?」

 まぁ思うだけでしないけどな、俺は。

 だって関係ないし。やったって意味ないし。そもそも面倒だし。

 その時、正面にあるメインモニターに変化が現れた。

 少女だ。まだ幼い、十歳になるかならないかぐらいの女の子の姿が、メインモニターに映し出される。

 少女は自分を見つめていた。忘我の表情で、その目から大粒の涙をポロポロと零しながら。

 その瞳には、崇高と畏敬の念が宿っていて。

 まるで自分を、神として信仰しているようで・・・・・・

 ――!

 その目を見た瞬間、歩の脳裏にある記憶が蘇る。それはかつての、在りし日の記憶。栄光の記憶が――屈辱の記憶が――渇望の記憶が――絶望の記憶が――黄昏の記憶がフラッシュバックする。

 同時に、歩の表情が変わった。眉間の皺が増え、視線が鋭く冷たい光を宿し、口が真一文字に引き結ばれる。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何だ、その目は。

 俺を、神か何かと勘違いしているのか。自分を助けにきてくれたとでも思っているのか。

 馬鹿馬鹿しい。

 俺がここに来たのは気紛れで、暇潰しで、前の任務での憂さ晴らし。お前のための要素なんか一つもないし、お前が生きているのは単なる偶然の産物でしかない。

 だと言うのに、何を、そんな目で・・・・・・・・・・・・!

「・・・・・・・・・・・・・気持ち悪いんだよ、その目」

 歩の奥歯がギリっと鳴った。操縦桿を握る両手に知らずの内に力が入り、その端正な顔が祟り神の如き形相に染まっていく。

 ――苛つく。

 その目が苛つく。その態度が苛つく。その想いが苛つく。何もかもが苛つく。

 このガキの全てが、俺を激しく苛立たせていく。体が打ち震えるほどに苛立たせていく。脳が狂おしいほどに苛立たせていく。

「・・・・・・殺すか」

 歩は呟いた。低く低く重苦しい、憤激の情のみを孕んだ声で怒りを綴り、憎悪を綴る。

 戦闘終了してすぐに確認したところ、ここら一帯の生体反応は一つのみ。つまりこの少女が唯一の生き残りということだ。

 親も兄弟もなしに一人で生きていけるほど、この世界は甘くない。優しくない。

 だったら、ここで殺してやった方が、いっそこの少女にとっては幸せだ。

 そうだ。そうに違いない。

 ――それに、だ。

 少女を見つめる歩の瞳が、その対象を焼き殺さんばかりに燃え上がった。

「――女郎が」

 何も知らないだろう。何もわかっていないだろう。今貴様が、俺にどんな感情を抱かせているのかを。おぞまし過ぎるその態度が、限りなき下種を垂れ流していることを。

 赦しはしない――

 今歩の中を支配するは、憤激一色。彼の精神が、少女の瞳に込められた敬慕と尊崇の念を嫌悪し、否定し、受け入れることを是としない。

 魔人の体が蠢く。神殺しの覇気が(あぎと)を開き、鎌首を起こす。

 ヴァルスロードの右腕を前に突き出し、少女に向ける。人差し指から順に折りたたみ、最後に親指を畳んで拳を作る。そうやって込めていく。自分の憤激を。怨恨を。少しずつ、全て、この一撃で発散するべく込めていく。

 そして、クラッシャーナックルの発射姿勢が整う。

 歩はトリガーに指をかけた。

「死ね」

 あぁ、そうだ、はっきり言ってやろう。お前など要らん。その存在はもはや目障りでしかなく、よって生かしもせん。

 死ね、終われ、壊れろ、薄汚い女郎めが。無間地獄へと落ち、涅槃寂静の壞塵と化せ。

 そうして我が憤怒を少しでも払拭させることが、貴様に残された唯一にして最大の使命であり義務。

 故に、今この時を以て、滅び去――「あ、目にゴミが」

 歩は操縦桿から手を離し、右目を押さえた。

「・・・・・・ヤバい、コレ痛い、地味に痛い、マジで痛い、涙出そう、っていうか出てきた、凄く出てきた、泣いちゃった、俺泣いちゃった、いい歳して泣いちゃった・・・・・・」

 割と本気で泣いてそうな声で愚痴り、右目を何度もグシグシと擦ること数秒間。

 ようやくゴミが取れ、痛みがある程度退いて涙も出なくなると、歩は二・三回ほどまばたきをして視界の調子を確認し「あーもー全く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、もういいや、面倒くさい」と呟いた。

 そして結局、引き金が引かれることはなかった。

 歩は大きくあくびをし、体を伸ばす。先ほどまでの怒りと憎悪に満ちた顔が、もう既にだらしなく緩み、瞳も表情も無のそれに戻っていた。

 よくよく考えれば、それこそ俺がこんなガキの幸せ云々のために、わざわざ殺してやらなければならない理由がない。必然性もない。メリットもない。ではやったところで無駄の一言ではないか。止めだ止め。

「それに、こんな子どもを殺すのは、さすがの俺も気分が悪いしな」

 まぁ嘘だが。

 実際は、ただの気まぐれだ。

 この戦場に介入する時も、最初は通り過ぎるつもりだったが、数秒後に気が変わって結局介入した。それと同じことが、今も起こっただけの話。それ以上も以下も以外もない。

「――帰るか」

 歩がコンソールの中央左下にあるボタンを押す。直後、ガシャンと音を立てて、ヴァルスロードの背部の外装が変形していった。内部に格納されていたパーツが展開されて六枚の垂直羽根と化し、また露出していた一部の装甲が今度は収納され、空気抵抗を和らげる形へと変貌を遂げる。

 『飛翔態』と開発者が命名したこの状態は、長時間の飛行と空中での高機動戦闘に特化した、ヴァルスロードのもう一つの姿だった。

 翼を生やした魔人が地面を蹴った。同時に推進剤を撒き散らし稼働する羽が、彼の身体を空中へ押し留める。

 では少女よ、せいぜい頑張って、この世界を生き延びなさい。ご家族はあの世から、そして俺は陰からそんな君を応援しているよ。

「まぁこれこそ嘘だがな。四百パーセント越えで」

 そして天高く舞い上がったヴァルスロードは、次の瞬間、白い光芒となって空の彼方へと飛び立っていった。

 その最中に、街の方を振り返ることはなかった。

 当然、少女のことを考えることなど、あるはずがなかった。

これで一話が終了となります。

小説を書き始めて、やっぱり凄いよなぁ作家さんって。

――なんて改めて思った今日この頃です。

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