Ep1 「殺戮・暴れ狂う嵐」 A
書き終えた第一話の前半部分を投稿して、今日は終了(さすがに眠いし明日も朝から講義あるし)。
っていうかたぶん本来プロローグに位置するのはこっちな気が・・・・・・。
『Et arma et verba vulnerant -武器も言葉も人を傷つける- 』
「それではこれより、この地区のエルヴィニア人の掃討作戦を開始する」
他のものより仰々しい軍服を着た中年男性の声が、辺り一帯に響き渡った。
「例え相手が女子供であろうと、エルヴィニアの民達だ。気にする必要はない。存分に殺し尽くせ」
その言葉に疑問を持つものは、この場にはいなかった。当然だ。相手は自分達を今までさんざん痛めつけ、苦しめてきたエルヴィニア人。そんな奴らを殺すのに、なぜ疑問を持たなければならないのだろう。
あいつらが先にやったのだから、自分達もやり返す。これは当然の権利だ。
だから、殺したっていい。
悪いのは自分達ではない、先に仕掛けてきたあいつ等の方なのだから。
「さぁ諸君、それでは始めるとしよう・・・・・・皆殺しだ!」
部隊長のその言葉に、その場にいた者達――反エルヴィニアのテロリスト達は雄叫びを上げ、一斉に殺戮の徒となった。
俺は落ちる。墜ちる。堕ちていく。
上空から真っ直ぐに、地表へと向けて、天から放たれた雷のように。
目下で繰り広げられている、その行いに介入するため。
己が渇きを、刹那的にでも満たすため。
俺は落ちて。墜ちて。墜ちていく――
少女は逃げていた。
恐怖に震える足を必死に動かし、街の路地を駆け抜けて逃げ回っていた。
なぜ逃げている?
死にたくないからだ。
なぜ死にたくない?
生きていたいからだ。
理由はわからないが、それでも自分は生きていたいのだ。こんなところで、死にたくはないのだ。
故に彼女は、その生存本能のままに、銃弾飛び交う戦場を、必死の思いで逃げ回っていた。
みんな死んだ。
父も母も兄も友達も近所のおばさんも他の人達も――みんな死んでしまった。
みんなみんな、殺されてしまった。
あのテロリスト達に、ろくな抵抗もできずに殺された。
どうして?
駆け抜けつつ、少女は思う。
どうして自分達にこんなことが起きたのだろう?
あの反エルヴィニアのテロリスト達は、なぜ突然やってきて、街をめちゃくちゃに壊して、自分達を殺そうとするのだろう。
十年ほど前、当時のエルヴィニア皇国が、この星に元々あった国に侵略戦争を仕掛け、土地も財産も国も奪い、現地の人達に酷いことをしていたのは学校の授業で習ったから知っている。
あの人達がその亡国の民で、その時の恨みを晴らしに来たというのなら理解はできる。
でも、どうして自分達が死ななければならないのだろう?
そんな大昔のこと、今の自分達に言われたって、どうしようもないのに。関係ないのに。
こんな不条理な目に遭うようなことなど、自分達は何一つしていないはずなのに。
お父さんもお母さんもいつもまじめに働いていて、悪い事なんて一つもしてなかった。お兄ちゃんは私とよく遊んでくれて、偶に意地悪をされた時もあったけど、大好きなお兄ちゃんだった。
おばさんや他の殺された人達だって、こんな理不尽に殺されるような真似はしていないはずだ。
なのに、どうして!?
少女が強く疑問を抱いた瞬間、その背後で爆発が起きた。爆風が一瞬にして彼女の体を宙へ舞い上げる。少女は紙切れのように吹き飛ばされ、背中から地面に強く叩きつけられた。その後も勢い余って地面を転がり、瓦礫にぶつかってやっと止まる。
「げほっ、がほっ・・・・・・」
背中を打ったせいか、上手く息ができない。また疲労と体のあちこちの痛みで、すぐに動くことはできなかった。
やっとの思いで立ち上がって、また走り出そうとしたところで、動きが止まる。
自分の目の前に、殺戮者が現れた。
恐る恐る視線を上げる。
基調となる色は灰色。兜の意匠を受ける丸い頭部、少しばかりずんぐりとしているボディ、曲線で構成された肩部装甲と脚部。まるで神話に出てくる巨人が騎士の甲冑を纏ったようだ。しかし、この巨人は生き物ではない。人の形をした金属や電子部品の塊――金属製の骨格にオイルの流れる血管、各種電送系という名の神経と筋肉である駆動系、鋼鉄の皮膚を持つ人工物だ。
自分の目の前に立っているのは、エクス・マキナ。ある星で見つかったオーバーテクノロジーを元に、人類が生み出した巨大人型戦闘兵器。
そしてこの機体の名は、確かゲイラボル。かつて同年代の男の子達が英雄のように憧れたその姿は、少女の目には死神のそれにしか映らなかった。
ゲイラボルの赤い目が、自分を見据えている。こめかみにつけられた対人機銃が、狙いを定め始めた。
「・・・・・・嫌・・・・・・」
怯えて、恐れて、尻餅をつき、後退る。しかし巨人は自分を見逃してはくれない。むしろそんな自分を見て、楽しんでいるように見えた。
「・・・・・・嫌だよ、こんなの・・・・・・」
おかしい。
こんなの、絶対におかしい。
何もしていないのに、勝手な都合で殺される。終わらせられる。
こんなのは絶対におかしい。間違ってる。
「誰か・・・・・・」
誰か。誰か。誰か。
「・・・・・・・・・・・・お願い」
――誰か、助けて――
殺戮者の砲口が火を噴こうとし、少女が心の奥底からそう渇望したその時だった。
とてつもない衝撃が生まれ、鼓膜を破るような大轟音が響き渡った。だが、それは砲声ではない。空が落ちてきたとさえ形容できる、埒外なまでの存在感を持つ何かが顕れた音だった。
空気が震え、土砂の粉塵が舞い上がり、周囲を包み込む。
『一体何が落ちてきた?』。そう言いたげにゲイラボルが首を回し、何かが落ちてきた方向を見つめた。少女も同じように、やや前のめりになってゲイラボルの後ろを見つめる。
そして――やがて砂塵が風に流され消えていくと、彼女の晴れた視界の真ん中で、歪んでいたソレが像を成して顕現する。
「・・・・・・・・・・・・何、あれ・・・・・・?」
呆然とした表情で呟かれた少女の言葉は、今この場にいるもの全ての代弁だった。
天空から顕れたのも、ゲイラボルと同じ人型の機械。しかしその姿はさながら魔人じみていて、全く別の存在と言っていいほど異なる。
強壮としか言いようのない白い体躯。ゲイラボルよりずっとすらりとしていて、余分な部分などまるでない理想的なボディライン。肩・前腕・脚部に重厚感ある外骨格を身につけたその姿は鞭のようにしなやかで、鋼のように頑健で、美しさと武が完全の域で融合した、まさに神が創り上げた芸術品としか思えなかった。
場にいる者全てがぽかんと見つめる中、白いエクス・マキナは纏った黒いボロ外套を風になびかせ、その光を発さない暗い瞳――堂々たる体躯と身に纏う破滅的な重圧にそぐわない、まるで死魚のような目で皆を睥睨する。
その時、少女と白いエクス・マキナの目があった。
「・・・・・・っ!」
ゾクリと、何かが背筋を駆け上がる感覚。瞳が大きく見開かれ、身体が痙攣のように跳ねる。それは恐怖に似ていて、しかし恐怖とは根本的に異なるナニカ。少なくとも、そんな言葉で片付けていいものではない。さっきゲイラボルから感じていたものと、同じレベルでくくっていいものではない。
あえて言うのなら・・・・・・畏怖。
人ならざる彼に対する畏れが、思考よりも先んじて体に反応させたのだ。
そう、畏ろしいのだ。
その自殺衝動を覚えかねない佇まいも、桁外れというのもおこがましい視線の暴力も、全身から発散される氷結地獄のように冷たい殺気も――体を震わせ、目を奪わせ、虜にさせる。
自分の今までの人生が、この出逢いのためだけにあったのだと思わせるほど。魂にこの巡り逢いに歓喜させるほど。
彼は、強く、美しく、どうしようもなく畏ろしい。
そう、彼こそまさしく畏怖の体現者。もしこの世に神が実在するのだとしたら、その隣に並び立つことをただ一人許される、真性の怪物――
少女が畏敬の瞳で魅入る中、白のエクス・マキナは両手を広げ、全身を細かく震えさせ、歯軋りを鳴らす。
バリバリと、バリバリと。
嚇怒のように赤い瞳を半眼に細め、鬼気迫る視線でテロリストの乗ったゲイラボルを睨み据える。
ギラギラと、ギラギラと。
――そして。
『 ッ!!!』
天を仰ぎ、総てに牙を剥くような戦意を発露させ、その漲る覇気で大気を震わせると、一番近くにいたゲイラボルに向かって、暴風となって駆け出した。
少女の恐怖感や魔人の埒外さが上手く描写できているか心配。
そしてこれが皆様に読んでいただくことのできる作品になっているかもとてつもなく心配・・・・・・。
感想及び評価、待っております。