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ロリな勇者と全身凶器  作者: V1アームロック
第1章 勇者、出発
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第8話、野営準備

 サクサクという草を踏み分ける音が青空に溶けてゆく。狼の群れを退けた一行は、結構な戦利品を手に入れたため、上機嫌で進軍を開始していた。

 エルオールを出発してから寄り道や怪我の治療をしていたため、当初の予定よりも進軍は遅れているのだが、彼女たちはそれを気にする様子はないようだ。もとより、最近は魔物の活動も数年前、魔王が出現したときよりは穏やかになっている。いや、もはやこちらから手を出さない限りはほとんど害はないといっても良いだろう。極端な話、行軍の時間は有り余っているのだ。

「っていうか、勇者ちゃんはどういうルートで魔王退治しようか考えてるの?」

 体に似合わない鉄製のハルバードを肩に担いだ小柄な女性は、横を歩く少女に尋ねる。その少女はわずかに言葉を詰まらせた後、言葉をつなぐ。

「一応、この先の『ヒューゲント』の町を経由した後に『ヴァルコラキ帝国』の領内に入る予定です。その後のことはまだ――」

 少女は申し訳なさそうに言う。年齢はまだ十四、五歳といったところで、年齢特有の幼さは見え隠れしている。腰に差した剣はまだ真新しく、彼女の戦闘経験のなさをあらわしているようだった。

「そこまで分かっているならば十分だ。今日中にヒューゲントに行くには少々距離があるな」

 二人の女性の少し前を歩く男は、穏やかな声で言葉を投げた。両の拳にバンテージを巻いた男は、まるでゴツゴツとした岩のような雰囲気を前方に投げ続けている。だが、その声は優しさを含むような、安心をさせるような声色であった。

「そんならまあ、最悪野宿だよねー」

 あーあ、やだやだ。と言葉をつなぎ、女性はわずかに笑みを浮かべる。この三人、なんとも異様な組み合わせであるが、戦力的に言えば、きわめて強靭な部類であろう。

「野営できるような場所があれば良いのだかな。さすがに寝ずにヒューゲントまでは移動したくない」

「ん、それは同感。だから今日は野営地点を見つけてあとは腰をすえるかな」

 ハルバードの女性、エストと岩のような男、アルベルトは、歴戦の戦士のような口ぶりで言葉を交わす。一人会話から取り残された少女、シャーロットは、手持ち無沙汰そうに指をいじっていた。

「そうと決まれば早めに場所を見つけるとしよう。できるだけ開けた場所が良い。川が近くにあればなお良いが、贅沢は言えまい」

 変わらぬ歩調で、アルベルトは歩き続ける。エストはその思考と言動にわずかにあきれを帯びた笑みを浮かべ、シャーロットは地図を見つめて場所を探していた。


――――


 日の暮れかけた夕方、林を抜けた一行はそろって息を吐いた。林を抜けた一行が眼にしたのは、自然を豊かにたたえた湖であった。湖はかろうじて端が見える程度であり、池の周囲には草花や木々が生い茂っていた。

「……すごい、こんなところがあったなんて」

「ここだけは昔から、平和なままなのかもね」

 二人の女性は思い思いの感想を口にする。だがアルベルトは何かが引っかかっていた。これはあまりにも、きれい過ぎる。

「さて、それじゃあさっさと準備しようか。テントキットは私が持ってるから安心してね」

 エストは自らのリュックの中から鉄製の棒を取り出すと、それらを伸ばし始める。どうやら、野営慣れしているらしい。

「……私は食料をとってくる。勇者、君はエストの手伝いをしてくれ」

「へ? は、はい! お気をつけて!」

 シャーロットは弾けるように返事をすると、鉄の棒を地面に刺し終えたエストに指示を仰ぐ。アルベルトは一人、林の中へと体を進めた。

 一歩林の中に踏み出すだけで、日光が届かなくなるのか、暗さがアルベルトを包む。あまり遠くへはいけないな、と一人考えながら、アルベルトはがさがさと音を立てながら、林を進む。その音につられたのか、一体の魔物がアルベルトの前に躍り出た。

 一見、猪にも見えるその魔物は、体長が1メートルほどであろうか、普通の猪に比べれば大して大きさは変わらないが、口元から突き出た真っ白な二本の牙が、その凶暴性を物語っている。それはまるで研ぎ澄まされた刃のようであり、触れるだけで切れてしまいそうな暴力性を秘めていた。

 猪はアルベルトを見ると、牙を突き出して突進を繰り出す。いくつかの細い枝が猪とアルベルトをさえぎっていたが、猪はそれを気にする様子はなく、枝を折りながらまっすぐにアルベルトへと向かう。

 対するアルベルトは、猪の突進を見るなり、腰を低く落とす。そして、肉をたたく音が林に響く。

 普通ならば、対峙した人間は吹き飛ばされてもおかしくはないのだが、アルベルトは立っていた。その眼前には、眉間に拳の形の跡が残された猪が、痙攣をしながら地面に横たわっていた。

「まだ息があるが、仕方ないか」

 それだけを小さくつぶやくと、アルベルトは軽々と猪を担ぎ上げ、二人の女性の元へと向かった。

 

 

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