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ロリな勇者と全身凶器  作者: V1アームロック
第1章 勇者、出発
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第4話、地図に示されし物

「いったいあなたは何をしてたんですか!?」

 若い男の怒鳴り声が治療院の待合室に響き渡る。

「見ればわかるだろう? グリーンゼリーをサンドバッグにしていたんだ」

 しれっ、といった様子でアルベルトが答えると、若い男はわなわなと肩を震わせた。

「あ……あなた……! 下手をすれば四肢切断でもおかしくないんですよ!!?」

「だが私は『ついている』。この通り両手両足は動くし、ツキにも見放されてはいない」

 緑色のゼリー(後の情報によってグリーンゼリーという名前だということが分かった)を討伐した二人は、一旦エルオールまで戻り、治療を受けることにしたのだ。

 幸いシャーロットは軽い打撲程度であるため、特に治療は必要なかったのだが、アルベルトはそうはいかなかったらしい。何せ、怪我を見なれているはずの受け付けの男性が大声でうろたえているからだ。

「と、とにかくこっちに来てください!! ドクター! 緊急治療室に!」

「大げさすぎるんじゃないか?」

 やれやれ、といった様子でアルベルトがうなづくと、受け付けの奥から一人の看護婦が出で、アルベルトの体を手早く拘束すると担架にくくりつける。

 アルベルトは力強い眼差しのまま、看護婦の後へ運ばれていった。シャーロットもまた、アルベルトの後ろに続いた。


――――


 アルベルトは手術台の上に寝かされ、周囲を多数の医師に囲まれていた。何とも仰々しい様相である。

「これより治療を開始します。外傷は四肢の糜爛、潰瘍のみ。レベル3」

 早口で一人がそれだけを説明すると、医師団は両手を傷のある箇所に向け、なにやらボソボソとつぶやく。

 向けられたアルベルトの四肢が光り輝き、肉の焼けるような音が響く。だが、アルベルトは顔色一つ変えずに、目を閉じて終わるのを待っていた。

「……集中治療第一段階終了。現時点で潰瘍治癒完了。第二段階開始まで30秒」

 無数の吐息と汗をふく音が部屋に溶けていく。そしてきっかり30秒後、また同じようなやり取りが行われた。

「……第二段階終了。糜爛の治癒を確認。外傷治癒完了」 

 その声に、またもや息が漏れた。医師団の中には床に倒れこむものさえもいる。アルベルトは目を開けると、起き上がる。そして自らの手で治療室の扉を押しあけると、自らを待っているであろう少女をきょろきょろと探した。

 少女と瞳のあったアルベルトはぱっくりと割れたような笑みを浮かべる。シャーロットがほっと胸をなでおろしているところであった。


――――


 夕暮れが二人を照らしている。

「でも、良かったです。無事で」

「おおげさすぎるんだ、治療院は。自分の体は自分が一番わかっているのだからね」

 細長く伸びた影を見つめながらシャーロットがいうと、何でもない、というようにアルベルトが応える。

「さて、宿を取るか……100Ergもあれば十分だろう」

 話題を変えながら、アルベルトはつぶやく。

「……ごめんなさい。私、もっと早く動けていれば――」

 申し訳なさそうに言葉を切り出すシャーロットの頭に、力強い掌が優しく載せられた。

 アルベルトの掌であった。

「人生とはこういうものだ。1度は必ず間違える。2度目からは間違えないようにすれば良い」

 シャーロットが驚いたように顔を見上げるが、逆光になっているために表情まではうかがえない。

 ただ、アルベルトの放つオーラは、穏やかなものであった。

「あ……! ありがとうございます!!」

 勢いよく頭を下げたシャーロットに対して、アルベルトの影はポリポリと頬を掻いた。

「……急がなくては、野宿かもしれないぞ?」

 ふい、と背を向け、アルベルトは足早に宿へと向かう。ふっと笑みを浮かべ、シャーロットは後に続いた。


――――


 夜の8時。

 結局空きが一部屋しかなかったため、二人は一緒の部屋である。

 とはいえ、現在アルベルトは「修行」のため、部屋にはいない。

 部屋の中では、ベッドに寝転んでノートに日記をつけているシャーロットがいるだけである。

 丸みを帯びた、いかにも女性らしい整った字をノートに並べながら、シャーロットは今日の出来事を思い起こす。

 初めて、魔物とであった日。初めて、戦利品を得た日。初めて、初めて。ぺろっと唇を舐め、シャーロットは日記のタイトルを記入する。「初めて、の日」と銘打たれたその日の日記には、ありのまま、シャーロットが感じたことが記されているのだ。

 第一印象でとっつきづらいと感じたアルベルトが、意外と話しやすいこと。アルベルトの強さと比べた、自らの弱さ。そして、今後。

 彼女の目標は魔王の討伐――とまではいかなくても、魔物の鎮静化である。ふうと息を吐いて自らに活を入れると、シャーロットは自らの剣を見つめる。1メートル程の刃がついたその剣は、勇者となった時に両親から贈られたものである。魔力灯の光を浴びて淡く銀色に輝くその刃は、ただ傷つけるだけの武器ではない。守り、育て、切り開くものだ。

 シャーロットの腕が震えてきたところで、剣は鞘にしまわれる。少女の筋肉では、それほどの長時間の戦闘はできないだろう。

「……もっと、強くならなきゃ」

 アルベルトが帰ってくる前に睡魔に負けてしまいそうな彼女は、光を消すと一人布団を被り、意識を夢へと預けた。真っ暗な闇が、彼女の脳を溶かしていった。


――――


 翌日、午前10時。

「さて! 今日は新しい街に行けるといいですね!」

「ああ、そのように頑張ろうか」

 二人はもろもろの身支度を整え、計画を立てていた。アルベルトは床に胡坐をかき、シャーロットはベッドに腰かけている。さすがに、二人仲良く一緒のベッドで、とはいかなかったようだ。

「ええっと……地図、地図――」

 ひらり、と、シャーロットの服のポケットから一枚の紙切れが床に落ちる。アルベルトが拾い上げたそれは、周辺の地図のようだった。

「あ、そうだ、すっかり忘れてた。昨日、あのゴブリンから落ちたんです。その黒い線、お墓みたいですけど、どういうことですかね?」

 シャーロットがそれだけを説明すると、アルベルトは笑みを浮かべる。

「今日は新しい街にはいけないかもしれないよ」

 紙切れ、地図をシャーロットに渡し、アルベルトは言う。

「へ? どういうことですか?」

「この地図は、先駆者が残したものだ。この記号の場所を探せば、何かがある」

 その言葉に、シャーロットは嘆息を漏らす。

「まあ、それがどのようなものかはわからないけれどね」

 アルベルトはリュックサックを持ち上げ、立ち上がった。

「どうするのかは君に任せるよ。無視をしてもいいし、ここを探っても良い。どうする?」

 その問いに、ぎしっとベッドをきしませながらシャーロットは立ち上がる。

「気になりますから、行きましょう」

「わかった。征くとしよう」

 にぃ、と口元を釣り上げ、アルベルトは笑う。

 彼は敏感に、戦いの気配を察知しているのだ。アルベルトが歩くと、まるで長年の習わしであるかのように、数歩ほどの距離を開けてシャーロットが続いた。 

 

――――


「地図だとここらへんなんですけど……」

 シャーロットは荒野を指さし、そう言う。

 地面が露出した、文字通りの荒野である。だが、草原との境界は極めて不自然であった。まるで人為的にそっくり草が刈り取られたように、ぶっつりと境目が出来上がっていた。アルベルトは足元を軽くつま先で叩くと、口元を釣り上げた。

「下に、空洞がある」

 シャーロットがその意味を理解しないうちに、アルベルトは地面をみおろしながら歩き始めた。まるで何かを探すかのように、例えるならば、小銭を探すのに近いだろう。

 やがてアルベルトは目当てのものが見つかったのか、ぱっくりと笑みを浮かべた。アルベルトが地面にある何かをつかみ、持ち上げると、地面が隆起した。いや、地面ではなく、板であった。

「入口だ。地下道への、な」

「すごい……こんな場所にこんなものがあるなんて」

 シャーロットの嘆息を余所に、アルベルトは自らの腕に巻いてあるバンテージをほどき、一本の紐に直すと、片方の端をシャーロットに渡した。

「私が先に降りる。安全を確認したら紐を二度引っ張るから、降りてきてくれ」

「はい! お気をつけて!」

 アルベルトも片端をもつと、穴へ向かって体を滑り込ませた。大人が一人入れるかどうかというほどの狭さの穴に、アルベルトは器用にももぐりこんでいく。

 数秒後、紐が二度、軽く引っ張られた。それを合図にシャーロットが体を滑り込ませ、地下へと降りる。

「うわぁー!」

「ふむ……」

 二人を出迎えたのは、奇妙な光景だった。

 地下には身長180はあろうというアルベルトが背を伸ばしても頭をぶつけないほどの高さの地下道が掘られており、その両脇にはろうそくが等間隔で並んでいる。

 どのろうそくにも融けた痕跡はなく、何らかの魔法具(マジックアイテム)であることを暗に知らせていた。

「すごい場所……こんな場所があるなんて……おとぎ話の世界みたい」

 シャーロットが嘆息を漏らす間、アルベルトは腕にバンテージを巻き、周囲を見渡していた。何かが、彼の頭の中で引っ掛かっているのだ。

「アルベルトさん! すごいですよ! この場所!! もっと見てみませんか!?」

 きらきらと瞳を輝かせ、シャーロットはアルベルトの顔を見上げる。

 それと同時に、シャーロットの背後側の通路から、何か金属の触れ合うガチャガチャという音が響いてきた。

 アルベルトは眉間にしわを寄せ、構えを取っている。その表情に気付いたシャーロットは、背後を振りむく。ろうそくの淡い光に照らされて、一つの人影が二人に歩み寄っていたのだ。

 誰かの首を自らの左手で持ち上げ、さびた甲冑に身を包んだ、首の無い騎士の姿の人影が。

 

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