今更必要ないです
今まで放置していたのに急に親馬鹿とかになって恋人を娘に付く虫扱いする家族ってたまにあるけど。あれって、ムカつきません?
まあ、よくある話。
王太子の婚約者になったので、日々王太子妃として相応しい女性として教育を受けていた。だけど、真実の愛というものが王太子の前に現れたので婚約を破棄された。
『使えない』
『なんの為に育ててきたのやら』
そう告げてきた家族の顔は思い出せない。ただ、自分が生きていては……息をしてはいけないのだと言われたような気がした。
「それで、両親は期待を裏切った娘に興味なくなったのよね。領地にある別荘で療養と言う名目で幽閉しようとしたのよ」
「で、幽閉される前に脱走したと」
わたくしの言葉に恋人が続きを言う。
「そうよ。――王太子妃教育の賜物で、常に最高の教育を受けられる環境だったのは数少ない利点だったわ」
与えられた教育を糧に、冒険者になるなんて親も思っていなかったのだろう。最強の講師が教えてくれた剣術。魔術。護身術の数々。世間の常識は学ぶ環境ではなかったが、それに関しては実地で覚えた。
冒険者になったのは誰にも必要にされていない自分が生きていい場所……野垂れ死んでも誰も気に留めない場所に行きたかったのだ。
だけど、実際に冒険者となって、最初は苦労したし、野垂れ死ねる場所ではないと感じ取った。ここは誰よりも生に渇望していないと生きていけず、立っていられない場所。そして、けして、一人では進めない領域。
生きたいという欲望が生まれ、そこでようやくわたくしは何で冒険者になろうと思ったのかという自分の心と向き合った。
(わたくしは、認めてほしかったのだ)
王太子の婚約者として、努力は当たり前。優秀でなくて完璧でいるのが至極当然。何かを欠けていては許されない。
褒めてもらえることなどなく、婚約を破棄された時に悲しんでいたのを慰めてもらいたかったのに掛けられた言葉は失望したという言葉だけ。
そして、行方不明になれば探してもらえるのかという僅かな期待。だけど、期待は裏切られる。家族は誰もわたくしを探しておらず。行方不明になっていても放置していた。
結局、わたくしは誰にも認められずにひっそりと消えるのだと。自暴自棄になって、わたくしのその当時の冒険者ランクでは足を踏み入れてはいけない場所にうっかり入り込み、わたくしの当時の実力では敵わない相手と対峙して、死に掛けた。
「大丈夫かっ!!」
わたくしが死を覚悟していた相手をそいつの討伐依頼を受けた冒険者パーティーが倒しに来てくれたから助かった命。
「危険を伴う仕事なんだぞ!! 油断するなっ!!」
叱る声はわたくしを案じているからこそのそれだと気付いた時には涙が出ていた。
王太子の婚約者になってから……いや、なる以前からも誰もわたくしを気に掛けてくれていなかった。心配してくれるような人はいなかった。
「何泣かせているのよ。フィリクス」
「いや、そんなつもりは……」
仲間に責められてたじたじになっているその人……フィリクスを慌てて庇い、
「彼は悪くありません。ただ、そんな優しい言葉を掛けられたのが凄く久しぶりで………」
「「「「優しい?」」」」
信じられない言葉を聞いたとばかりの反応に、気が付くと家族に褒められた記憶も心配された記憶もない。出来るのが当たり前で、出来ないと叱責されたと話をしてしまった。それで泣かれてしまったのはどうしようかと困ってしまったけど、それがあったからか気が付くと彼らはわたくしを気に掛けてくれるようになり、わたくしが実力を付けてきたら仲間にならないかと誘ってくれた。
わたくしの努力を認めてくれたのだと思ってまた泣いてしまった。
そんな日々の中で、数千年に一度発生する魔王という存在が現れて、その討伐にわたくし達も駆り出された。
本命の勇者たち一行が魔王を討伐するまで魔王配下から人々を守るために配属され、そこには魔王の発生によって活発になった大量のゴブリンが現れた。
「ルビア。氷の柱とかで敵の動きを封じられないか」
「任せてください」
わたくしを信じて頼んでくるフィリクスの言葉が嬉しかった。
空からたくさんの氷の槍を落として、大量のゴブリンの集団の動きを封じるが取りこぼしもある。かつてのわたくしなら動きを封じたゴブリンの数よりも取りこぼした数を気にして失敗したと思っただろう。
だけど、今はそんなことはない。
「よしっ、ナイスタイミングっ!!」
「後は任せろ!!」
わたくしが動きを封じ損ねた敵は仲間が倒してくれる。
「なア、ルビア。この戦いが終わったら結婚しないか」
「それ死亡フラグでしょ!!」
馬鹿なこと言わないでと叱責したら。
「だよな~。でも、言いたくなってな。ここまで努力して頑張って、強くなった可愛い女の子にさ」
「………………絶対に生き残ってください」
もちろん死なせやしない。王太子妃教育の諸々がわたくしを大事に思ってくれる仲間を……フィリクスを守るために身につけたものだと思えたらますます力が湧いた。
絶対に守ってみせる。そんな覚悟を改めて抱いて戦いを続けた。
やがて、こちらを攻めてくる敵が減ってきて、もしかして別動隊でもいるかと斥候をしていた仲間が問題ないと確認に戻ってくる。
「これでここら辺は大丈夫だな。ルビアのおかげだ」
よくやったと頭を撫でてくれるフィリクスのぬくもりが嬉しい。
「まだ。油断できませんよ」
「ああ、分かっている」
頭を撫でられたことが嬉しかったが、そんな場合じゃないと告げると頷かれる。実際にフェリクスは警戒を解いていないし、彼の軽口はダンジョンでよく聞いたこちらが警戒し過ぎの時に落ち着かせるための効果があるそれだ。
「他の地域は……?」
「そっちも大丈夫だろう。ほら」
信号弾が上がる。
退けたという連絡を教えてくれた信号弾にこちらも同じように信号弾を飛ばす。
長い戦いの果てに勇者たち一行が魔王を討伐したという報告が来た時には疲労感が激しかったが笑い合う元気が出てきた。
魔王討伐のパーティーが王城で行われる。勇者一行は当然だが、前線を維持していた騎士団。そして、わたくし達冒険者も招かれた。
無礼講だとは言っても貴族は冒険者を格下扱いをしている。それがたとえ、国を……世界を救うのに一役買っていたとしても。
貴族たちは魔王の発生時に金食い虫とか役に立たないと言われ続けてきた憂さを晴らしたくて冒険者たちを待ち構えていたが、わたくしにとっては貴族の考えは手に取るように理解できた。
舐められないために武器は多く持つものだと仲間に教えて、礼儀作法を教えた。無理をして覚えなくても気軽に覚えれるようにいろいろ工夫して。
礼儀作法もしっかりできている冒険者たちに貴族は何も言えない状態になっているのを内心面白がっていたが、その貴族の中にこちらを見て目を大きく見開いている夫婦に気付く。
「知り合いか」
フィリクスの気遣う声。それに対して、わたくしは妙に冷静に……ああ、すでに過去のことになったんだなとどこか客観的に、
「わたくしの親だった人ね」
「はっ⁉ 親っ!?」
驚くフィリクスにわたくしは淡々と説明をした。
「じゃあ、自暴自棄になっていたルビアの元凶か……」
「忘れてください」
あれは闇の葬り去りたい過去なのですから。
フィリクスとひそひそ話をしている間にも元両親の視線はずっと向けられたまま。鬱陶しいと思ったので、話があるのなら声を掛けてくるだろうと判断して、
「フィリクス。外で涼んでくるわね」
「ああ。後で様子見に行くわ」
「お願いね」
軽い口調で約束を交わし、外に出るとすぐに追いかけてくる元両親の足音が聞こえる。
「ルビア!!」
名を呼ばれて、振り向くと必死な顔をした元母親の顔が見えた。
「ルビア。よかった!! 無事だったのねっ!!」
泣きながら抱き付かれるが、服が汚れるという感想しか抱けない。
「貴女が行方不明になったと聞いて悔やんだわ。貴女は強いから大丈夫だと思って……」
「何かあっても自分で何とかできると思って自由にさせようと思ったが、まさかな……」
強いから。
何とかできるから。
抱きしめながら告げてくる元両親。
「まさか、行方不明になって冒険者になっているなんて思わなかった……」
「そんな危ないことをしていたなんて……もうそんなことしなくていいのよ」
こちらを気遣うような言葉だけど心に響かない。
「わたくしが……行方不明になっていたことは……」
探している様子はなかった。
「だって、公に探したら悪い評判が生まれるでしょう」
「だけど、見つかったならもういい。さあ家に帰ろう。――あんな冒険者といなくてもよいのだよ」
遠い言葉のように聞こえる。
「――知っていますか。わたくし成人したのですよ」
今日王城に来たついでに書類を提出した。
貴族籍を抜いて平民になる届。冒険者になった時は未成年だったから親に見つかったら連れ戻されるかもしれないと思っていたのに一向に探しに来なかった。
成人したのでもう探さないだろうと思ったけど、貴族籍があるとフェリクスと結婚が面倒になると思って出しておいて正解だった。
「貴方方の娘は、婚約を破棄された時に亡くなりました」
「ふざけるなっ!!」
元父がわたくしを叩こうとしたけど、それよりも前に、
「俺のルビアに何してくれるの」
殺意を宿した視線に元父は怯んでいる。
「では、失礼します。どこぞの誰かさま」
令嬢として綺麗な挨拶をして、その場を去る。
「よかったのか?」
「何がです?」
「いや、言葉がいまだに貴族令嬢だからさ。てっきり未練と言うか貴族に戻りたいのかと……」
「これは幼少期の教育のせいですね。少しでも言葉を崩したら鞭で叩かれましたから。これでも崩した方なんですよ」
もはやトラウマになっている鞭の指導のことを思いだして未だに震え上がる。
「そっか」
わたくしの言葉を聞いて、フェリクスは安堵したように顔をほころばせた。
実の親よりも淑女教育の方が怖い。




