第4話 起死回生の一手
放課後、生徒会室では緊急会議が開かれていた。
生徒会メンバーが集まって対策を練るが、どの案も実現性に乏しい。
「文化祭のコンテンツの質を上げることは考えられますが」
委員長が分析する。
「そんな付け焼き刃の策でどうにかなるかな」
「女子が来ないと華やかさが出ないよね。うちの評判にもつながってる気がする」
「そもそも告知も下手だし」
「SNSとかでもっと宣伝すれば」
「でも宣伝する魅力がないよ」
「男だらけの文化祭って言われても……」
一同ため息をつく。『男だらけの文化祭』。なんて花のない言葉だろう。
「近くの女子校と合同で」
「相手校にメリットがありません。むしろ格下に見られるでしょう」
委員長が現実的に分析していく。
全員が頭を抱えた。
「どうすればいいんだよ……」
「時間もないし……」
「もう諦めるしか……」
そんな時、誰かが半分やけくそで言った。
「いっそ女子校になれば?」
「そうすれば女子が来るじゃん」
一瞬の静寂の後。
「は?何それ」
「バカ言うなよ」
「なんだその謎理論」
しかし、委員長だけは真剣に考え始めた。
「……待ってください。理論的には、可能かもしれません」
美月が驚く。
「え?正気か?」
委員長の頭脳が回転し始めた。
「つまりお前は俺達男子生徒が全員退学して、女生徒を入学させるってことを考えてるってことか?」
美月はバンと机を叩いて、委員長を睨む。
「いえ、ちがいます。桜井くん、落ち着いてください。」
一旦一同が落ち着くのをまって、委員長は続けた。
「このまま、男子校のまま、女子校として文化祭を開催すれば、確実に注目を集めます。メディアも取り上げるでしょう。全国的な話題になる可能性があります」
「お前は何を言ってるんだ?」
「さっぱりわからん」
「つまりどういうことだってばよ?」
一同の顔が疑問符で満たされる。
「つまり男子校全員で女装して女子校にすればいいんです」
シーンとなる。
5秒位一同が固まったあと一気に打って変わって喧騒となる。
「お前は一体何を言っているのだ」
「もう一度言う。お前正気か?」
しかし委員長は本気だった。
「正気も正気です。全校規模での女装作戦です。文化祭の期間だけ、音光学園が女子校になる」
「いや、おかしいだろ」
「正気を疑うぜ」
「じゃあみなさん、男子校が文化祭のときだけ女子校になるって話、聞いたことありますか?」
「いや、ねーよ」
「正気だったらやらねーしな」
「でも他の学校がやってたら興味持つでしょ?」
「う……」
「え、いや……でも……確かに……」
「これくらい飛び抜けたことしないと、興味ない学校なんかにみんな興味持ってくれないですよ」
シーンとなる。
委員長が美月を見つめる。
「桜井君」
静寂を破り美月に声を掛ける委員長。
「え?何?」
「君、綺麗な顔立ちしてるね。それに身長20cmも小柄で華奢さがある。女装すれば絶対に可愛くなる。
桜井君。女装して女子生徒になってください」
委員長のイケメンな顔が美月に近づく。美月の顔が引きつった。
「ちょ、おま、お前、正気で言ってるのか?」
美月は混乱していた。委員長の話があまりにも突飛で、ついていけないのだ。
「さっきからずっと言ってますが、僕は最初から最後まで正気です。
この際、僕が正気かどうかさえ、どうでもいいんです。まずは君がモデルケースになってください。君の容姿なら必ず成功する。それでこの企画の可能性を証明して、全校に展開するんです」
一瞬固まる美月。
(俺が女装のモデルケース?いやねーだろ。)
「え、絶対嫌だよ!何で俺が女装なんてしなきゃいけないんだ!」
1秒後に即答する。
だよなぁ、という声とともに、その日は一旦面々は解散することとなった。
◆
その夜、理事長室では委員長が理事長に作戦を説明していた。
A4用紙数枚にまとめられた完璧な企画書を前に、理事長は驚いていた。
「これは……秀一、お前が一夜で作ったのか?」
『音光学園女子校化計画』
詳細な計画が記されている。
『文化祭期間中、全校生徒が女装』
『音光学園女子校として開催』
理事長が眉をひそめる。
「正気か?」
「お祖父様もみんなと同じことを言うんですね。でも、ここまで状況が悪い以上、常識的な手段ではもう限界です。本当に突飛なアイディアでないと乗り切れません。お祖父様には申し訳ありませんが、これが本当に最後の手段だと思っています。
まずは、桜井君で1ヶ月間のテストをさせてください」
委員長は資料を改めて広げ、理事長に説明する。その提案は具体的で説得力があり、理事長を唸らせるに十分な内容だった。
◆
翌日、理事長が美月を理事長室に呼び出した。
委員長も同席している。理事長は深々と頭を下げる。
「桜井君、モデルケースとして女装してください。お願いします。私もとんでもないことを頼んでいることはわかっている。でもこの状況はもはや普通のことではどうしようもない状況まできているのです。この学校を救ってください。現状、君が頼りなのです」
美月は理事長の本気を感じ取った。そして隣で見守る委員長の表情も。
「理事長……」
「委員長を音光学園女子校化作戦の責任者に任命します。そしてモデルケースを務める美月君を副責任者に任命します。秀一……生徒会委員長と協力して、この計画を成功させてください」
美月は深いため息をついた。
「……分かりました。やってみます。まぁ、正直メチャクチャ嫌ですけどね。でも、理事長がこんなに必死なら、俺もやるしかないです」
理事長が髭を撫でながら答える。
「君を信じています」
「僕が全面的にサポートします。技術面、戦略面、すべてしっかり見ますので安心ください」
委員長がサポートを約束した。祖父の学校を救うため、そして自分の戦略を実現するため。
美月は委員長を見つめた。
「頼むよ、委員長……」
委員長の目に、既に何かの計画が宿っているのを美月は感じ取った。まるで、この女装企画が全体の一部に過ぎないかのような。
果たして、この無謀な計画は成功するのだろうか——




