第48話 とある姉弟の文化祭:到着
電車が駅に滑り込む。
ミク、まりあ、そしてのえるの三人は、車内で窓の外を眺めていた。
まりあは、スマホを握りしめたまま、窓の外を見つめていた。
「ドキドキするね!」
「うん!」
ミクとまりあは手元のスマホの画面を見た。
@oto_fesの最新ツイート。
『あと0日。音光学園文化祭にて、皆様のお越しをお待ちしています』
100日間のカウントダウンが、今日でついに終わる。
まりあは、のえるをちらっと見た。
のえるは、いつも通り無表情で、窓の外を眺めている。
(のえるは至って冷静ね……)
まりあは心の中で思った。
電車が止まり、ドアが開く。
三人は立ち上がって、ホームへ降りた。
駅を出ると、同じ方向へ向かう人々の流れがあった。
「音光学園ってこっちだよね!」
「うん。みんな同じ方向向かってるから迷いようないね!」
会話が聞こえる。
まりあは驚いて周囲を見回した。
「すごい人……!」
ミクも目を丸くしている。
音光学園へ向かう人の数は、予想以上だった。
まりあたち三人も、その流れに乗って歩き始めた。
音光学園の校門が見えてきた。
可愛らしくも華やかな装飾。
バルーン、アーチ。そしてほしみのひみつのポスター。
校門の前には受付のテーブルがあり、制服姿の生徒が立っている。
「いらっしゃいませ♪」
来場者に向かって、生徒が笑顔で声をかけている。
まりあは、その生徒の姿をじっと見た。
(可愛い……)
髪を結んで、丁寧なお辞儀。
動作も所作も、完璧だ。
ミクも、隣で同じことを思っているようだった。
「本当に……可愛いね……」
のえるは、何も言わなかった。
ただ、心の中でつぶやいた。
(完璧だな……)
三人は受付に近づき、来場者登録を済ませた。
受付の生徒は、丁寧に対応してくれた。
まりあは胸が高鳴るのを感じた。
(ついに来た……!)
(『ほしみのひみつ』の世界が現実に……)
◆
三人は校門をくぐり、校内へ入ろうとした。
その時、まりあの視界に、一人の生徒が映った。
「あ……あの時の!」
振り向くと、制服姿の月美が立っていた。笑顔で、のえるに手を振っている。
のえるが、静かに声をかけた。
「……月美さん」
まりあは驚いて、のえると月美を交互に見た。
「え?」
ミクも驚いている。
「知り合いなの?」
まりあは、月美をじっと見つめた。
(これが……月美ちゃん……!本当に、女の子にしか見えない……)
月美は、三人に向かって笑顔で歩いてきた。
「来てくれたんだ♪嬉しい!」
のえるが、短く答えた。
「……ああ」
まりあは、慌てて自己紹介をした。
「あの、あたし、まりあです。のえるの姉で」
ミクも続ける。
「私はミク!まりあちゃんの友達です!」
月美は、にっこりと笑った。
「初めまして♪『ほしみのひみつ』のほしみ、のモデルになりました月美っていいます♪」
まりあは、一瞬、頭の中で情報を整理した。
(え?ほしみのひみつが先じゃなくて文化祭が先なの?)
混乱しながらも、まりあは笑顔を保った。
月美が続けた。
「今日は2-Aでパフェ販売してるの。あと午後は演劇部の公演もあるの。私も出るからぜひ見に来てね!」
まりあは、嬉しそうに答えた。
「はい、絶対行きます!」
月美は、のえるに少し近づいた。
そして、小声で言った。
「秘密、守ってくれてありがとう♪」
のえるは、少しだけ頷いた。
「……うん」
「今日までは秘密だったけど、今日は気づいた人には言っていいことになってるよ。積極的に言いふらさなければ大丈夫だって」
月美は、手を振って去っていった。
「じゃあ、また後でね♪」
(そうか。ついに情報解禁になったんだ。)
◆
三人は、その場に立ち尽くした。
まりあが、ようやく口を開いた。
「……すごい」
ミクも、同じように言った。
「本当に可愛い……」
のえるは、何も言わなかった。
まりあは、弟を見た。
「のえる、本当に知り合いだったのね」
のえるが、ぶっきらぼうに答えた。
「……商店街で会ったって言ったろ」
まりあは、非常に複雑な気持ちだった。
(月美ちゃん……本当に綺麗……ほしみにそっくり。だってほしみのモデルとなったんだもんね。でも、彼女が男の子だなんて……いや、ほしみは確かに男の子なんだけど……いや、ファンタジーと現実をごっちゃにしちゃ駄目でしょ、あたし!)
ミクは、二人の様子を見ながら、疑問を抱いていた。
(なんかまりあちゃんとのえるくん、妙な雰囲気……)
まりあは、ミクを見た。
決意を固めて、声をかけた。
「ミクちゃん、ちょっといい?」
ミクは、まりあの真剣な顔を見て、首を傾げた。
「どうしたの?」
「少し離れたところで話したいの」
のえるが、すぐに察した。
「……俺はここで待ってる」
まりあとミクは、中庭のベンチへ向かった。
ベンチに座ると、ミクが心配そうに聞いた。
「どうしたの?そんな顔して」
まりあは、深呼吸をした。
「ミクちゃん、実は……」
息を吸う。
「月美ちゃんは……男の子なんだって」
ミクは、固まった。
「……え?」
数秒の沈黙。
そして、ミクの声が響いた。
「……ええええええ!?」
周囲の人が、一斉に振り向いた。
まりあは、慌ててミクの口を押さえた。
「し、静かに!」
ミクは、まりあの手を離して、小声で言った。
「で、でも……だって……!」
「あんなに可愛いのに……!」
まりあは、丁寧に説明した。
「のえるが商店街で月美ちゃんに会ったとき、聞いたんだって、ほしみのひみつのモデルは音光学園なのか?って。そしたら男の声で、『みんなには秘密だよ!』って。だから、のえるは、ずっと知ってたの」
ミクは、信じられないという顔をしていた。
「……マジで……?」
「うん。マジ。あたしも知ったのつい最近なんだけど」
ミクは、しばらく考えた。
そして、ようやく理解したような顔になった。
「じゃあ……じゃあ!予告編の女の子たちはインターネットで噂になってた通り……!」
まりあは、頷いた。
「全員、男子だと思う」
ミクは、再び固まった。
「……」
そして、急に興奮し始めた。
「『ほしみのひみつ』が……現実に……!すごい!すごすぎる!」
まりあは、ミクの興奮を見て、安心した。
「ね、すごいでしょ?だから、今日、確かめに来たの」
ミクは、目を輝かせた。
「本当に女装なのかな!すごくわくわくするね!」
まりあは、念を押した。
「でも、みんなには内緒だからね」
「わかった!」
二人は、のえるの元へ戻った。
のえるが、静かに聞いた。
「話した?」
まりあは、頷いた。
「うん」
ミクは、のえるに向かって言った。
「のえるくん、すごいね!気づいてたなんて!」
のえるは、そっけなく答えた。
「……まあ、偶然だよ」
まりあは、安堵していた。
(ミクちゃんに話せてよかった……)
ミクは、興奮が収まらない。
(本当に全員女装してるの……!?信じられない……でも、これでいろいろと説明がつく……)
のえるは、ようやく肩の荷が下りた気分だった。ずっと騙してる気分でもやもやしていたのだ。
(やっと、三人で同じ情報を共有できた。これで、自由に話せる)
ミクが、元気よく言った。
「さあ、探索開始!」
まりあも、笑顔で答えた。
「1年生のエリアから見ようか!」
のえるが、パンフレットを見る。
「……メイド喫茶とか、お化け屋敷もあるらしい」
ミクは、目を輝かせた。
「全部見たい!」
三人は、文化祭の喧騒の中へ、歩いていった。




