第45話 とある姉弟の100日間:気づけよ!
あの日から数日後の朝。
のえるは部屋でスマホをチェックしていた。
@oto_fesと@tsukimi_channelのアカウントのチェックはもはや毎日の日課になっていた。
@oto_fesのタイムラインを遡る。
ここ数週間の投稿。
『商店街コラボイベント大盛況!』
『ほしみのひみつスタンプラリー、残りわずか!』
『コラボカフェメニュー、好評につき延長!』
……全部、商店街のコラボイベントだ。
のえるはスクロールを止めた。
でも、最新の投稿が違う。
写真が表示されている。
カラフルな文化祭ポスター。
制服姿の「女子生徒」たちが装飾を作っている様子。
『いよいよ文化祭準備が本格化!47日後、何かが起きる♪』
(……テーマが変わってきてる)
商店街コラボから、文化祭の話題へ。
カウントダウンが進んでいる。
のえるはさらにスクロールした。
そして、次の投稿。
「人気YouTuber・美咲ちゃんねるが音光学園を訪問!」
動画リンクが貼られている。
月美ちゃんが案内する、とある。
のえるは画面を見た。
(……月美さんが出てる。YouTuberとコラボか)
さらに話題作りをしているんだろう。
その時。
リビングから叫び声が聞こえた。
「え!?美咲ちゃん!?」
まりあの声だ。
のえるは部屋を出た。
◆
リビング。
まりあがスマホを持って興奮していた。
「のえる!のえる!」
「……どうした?」
のえるは落ち着いて聞いた。
「美咲ちゃん!美咲ちゃんが音光学園に行ったの!ほら、この前行った、音光商店街の近くにある」
まりあは画面を見せてきた。
@oto_fesの投稿。
「有名なYouTuberなの!フォロワー35万人もいるの!」
まりあは早口で説明する。
「動画のリンクもある!一緒に見よう!」
まりあはのえるを引っ張ってソファに座らせた。
(……断ったら怪しまれるな)
まだ姉ちゃんは真実を知らない。
一緒に見るしかない。
「ああ」
のえるは言った。
◆
リビング。
ソファに二人並んで座る。
まりあがスマホで動画を再生した。
『話題の美少女学園に潜入!月美ちゃんが案内してくれました♪』
という動画タイトルだ。
美咲という女性が画面に映る。
明るい笑顔。自然な話し方。
「今日は話題の音光学園に来ました!案内してくれるのは、@tsukimi_channelの月美ちゃんです!」
月美が登場する。今回はほしみのコスプレ姿ではなく制服姿だ。
「よろしくお願いします♪」
まりあが叫んだ。
「わあ!月美ちゃん、ほしみにそっくり!」
(……)
二人は学園の廊下を歩いている。
制服姿の「女子生徒」たちが映る。
美咲が言った。
「なんか……不思議な感じがしますね」
月美が答えた。
「え?そうですか?」
美咲が続ける。
「よくわからないですが──」
まりあが呟いた。
「不思議な感じ?何が?」
美咲の言葉の選び方。
月美のとぼけた返答。
のえるはピンと来る。
次のシーン。
教室の様子。
文化祭準備をする「女子生徒」たち。
美咲が明るく話す。
「文化祭の準備みんな頑張ってますね!すごくたのしみです!ただ──」
月美が首を傾げる。
「ただ?」
美咲が言った。
「何かおかしいですね?」
月美が答える。
「え?おかしい、ですか?」
まりあが呟いた。
「何がおかしいの?普通に見えるけど」
(……このYouTuber、絶対わかっててやってる)
のえるは確信した。
美咲は知っている。
月美も知っている。
二人は「共犯」だ。
そして、インタビューシーン。
月美が文化祭について語る。
「私達の『可愛いらしさ』が自然に出るように、みんな工夫してるんです」
美咲が聞き返す。
「……『私達』の『可愛らしさ』が、自然に出るように?」
月美が答える。
「はい♪文化祭の演出の一環として」
まりあが首を傾げた。
「何で聞き返したんだろう。私達の可愛さが自然って、どういうこと?」
(姉ちゃん!)
のえるは心の中で叫んだ。
(答え、もう目の前じゃん!『ほしみのひみつ』読んだじゃん!あんなに熱心に読んでたのに、なんで繋がらないの!?)
でも、まりあは首を傾げているだけだった。
動画のエンディング。
美咲が言った。
「すごく素敵な文化祭でした!ただ……」
月美が首を傾げる。
「ただ?」
美咲が続ける。
「ずっと違和感があったんですよね」
「気になる人は、文化祭行ってみてください。答えが分かるかも?」
まりあが叫んだ。
「え!?答えって何!?」
(……完璧だ)
のえるは思った。
二人とも、完璧に演技してる。
仕込みだ。
完全に。
◆
動画が終わった。
まりあは興奮している。
「すごい!でも、美咲ちゃんが『違和感がある』って言ってた」
「何の演出なんだろう?」
まりあはのえるを見た。
「のえる、何か分かる?」
「……いや」
のえるは答えた。
そして、視線をテーブルに落とした。
テーブルの上。
『ほしみのひみつ』の単行本が置かれていた。
表紙のほしみ。
動画の月美。
完全に重なる。
同じ顔。同じ制服。同じ雰囲気。
答えが、物理的に目の前にある。
でも、まりあは気づかない。
まりあはのえるの視線に気づかず、別のことを話し始めた。
「ミクちゃんにも教えてあげよう!」
まりあはスマホを操作している。
(……答え、物理的に目の前にあるのに)
のえるは思った。
(姉ちゃん、『フィクション』だと思い込んでるから繋がらないんだ。でも、姉ちゃんには言えない……月美さんと約束したから)
のえるは『ほしみのひみつ』を見た。
答えそのものが、ここにある。
でも、秘密だ。
◆
数日後。
夕方。
リビング。
まりあとミクが、リビングで動画を見返していた。
のえるは同じ部屋でゲームをしていた。
ゲーム画面を見ながら、無関心を装う。
まりあが興奮して言った。
「美咲ちゃんの動画、もう200万再生超えてる!」
ミクが答える。
「すごいね!音光学園、話題になってる」
ミクが首を傾げた。
「でも、『私達の可愛らしさを工夫してる』って、何を工夫してるんだろう?」
まりあが言った。
「分からないよね」
まりあが興奮して続ける。
「文化祭、絶対行こうね!答え、見つけよう!」
ミクが答えた。
「うん!楽しみ!」
のえるが答える。
「……まあ」
のえるはゲーム画面から目を離さずに答えた。
まりあとミク、のえるの態度に気づかず興奮を続ける。
「あと何日だっけ?」
「カウントダウン、チェックしよう!」
(……姉ちゃん、俺はもう知ってるんだけどな)
のえるは思った。
(文化祭で姉ちゃんが真実を知ったときの反応がある意味、楽しみだ)
のえるはゲームを続けた。
まりあとミクは、動画を何度も見返している。
同じ部屋。
でも、全く違う温度。




