第44話 とある姉弟の100日間:確信
週末の朝。
のえるは部屋でスマホを見ていた。
@oto_fesの最新投稿。
文化祭準備の写真。制服姿の「女子生徒」たちが、装飾を作っている。
のえるは写真を拡大した。
……やっぱり、女の子にしか見えない。
でも。
のえるは『ほしみのひみつ』を見た。
男子校。女装。秘密。
……本当に?
確信60%。疑念40%。
でも、このままじゃ気になって仕方ない。
のえるは決意した。
もう一度、商店街に行こう。
一人で。
姉ちゃんには内緒で。
自分の目で、確かめる。
◆
昼過ぎ。
のえるは一人で商店街に到着した。
前回(二週間前)と同じ賑わい。
週末ということもあって、若い女性グループがたくさんいる。
「ほしみのひみつ」のポスター、のぼり旗、スタンプラリー……。
相変わらずのコラボ企画。
のえるは商店街を歩きながら、注意深く観察した。
パン屋の前。
制服姿の女の子が、お客さんにメロンパンを手渡している。
「ありがとうございます♪」
笑顔で接客している。
……女の子だ。
どう見ても、女の子だ。
喫茶店の前。
また別の制服姿の女の子が、店の前でメニューを配っている。
「コラボメニューございます♪」
優しい声。自然な仕草。
……本当に女装なのか?
のえるは混乱していた。
あんなに自然で、可愛くて……。
まさか、この子たちも……?
ありえない。
でも……。
のえるは『ほしみのひみつ』を思い出した。
男子校に転校してきた美少女・ほしみ。
実は、男子生徒の女装だった。
音光学園、男子校。
『ほしみのひみつ』とのコラボ。
……もしかして。
◆
商店街の中央広場。
のえるが近づくと、人だかりができていた。
「可愛い!」
「本物みたい!」
「写真撮っていいですか!?」
何だ?
のえるは人混みの向こうを覗き込んだ。
そこには……。
「ほしみ」がいた。
漫画そのままの、ほしみ。
ウィッグ、制服、メイク……全てが完璧。
来場者と笑顔で写真を撮っている。
「音光文化祭に来てね♪」
優しい声で言っている。
のえるは息を呑んだ。
……すごい。
本当に、漫画から飛び出してきたみたいだ。
そして、のえるは気づいた。
ほしみコスプレイヤーの後ろに、小さな看板が立っている。
「tsukimi_channel」
……月美さん?
のえるは看板を見た。
tsukimi_channel。
月美……つきみ。
コスプレイヤーの名前か。
のえるはスマホで写真を撮った。
月美さん、か……。
つきみ、ほしみ……名前が似てる。
のえるは少し離れた場所から、月美を観察した。
仕草。
声。
笑顔。
全てが完璧だ。
……やっぱり、女性にしか見えない。
でも、『ほしみのひみつ』を読んだのえるは、疑念を捨てきれなかった。
男子校に女子が転校……実は女装……。
もしかして、この人も……?
のえるは写真をスマホで何枚も撮った。
月美の笑顔。
看板の「tsukimi_channel」。
証拠として。
しばらくして、人だかりが一段落した。
月美が一人になる瞬間。
のえるは意を決して近づいた。
「あの……」
月美が振り返った。
「はい、なんでしょう?」
優しい声。
のえるは緊張しながら言った。
「質問していいですか?」
「はい、どうぞ♪」
月美は笑顔で答えた。
のえるは深呼吸した。
そして、聞いた。
「もしかして……音光学園って、本当に『ほしみのひみつ』の通りなんですか?」
月美の表情が、一瞬止まった。
驚いたような、でもどこか嬉しそうな表情。
そして、にっこり笑った。
「……気づいちゃった?」
月美はのえるに近づき、耳元で小さく囁いた。
「……みんなには秘密だよ?」
その声は……。
男の声だった。
明らかに、男の声。
のえるは息を呑んだ。
月美は、のえるにウィンクした。
そして、また普通の(女性の)声で言った。
「文化祭、楽しみにしててね♪」
別の来場者が近づいてくる。
月美は笑顔でそちらに向かった。
のえるは立ち尽くした。
……本当だった。
本当に……。
◆
帰宅後。
のえるはベッドに寝転がり、天井を見つめていた。
……本当だった。
月美さんの、あの声。
「みんなには秘密だよ?」
男の声だった。
明らかに。
のえるは撮った写真を見返した。
月美の笑顔。完璧な「女子高生」の笑顔。
でも、あの人は男だった。
ということは……。
のえるは商店街で見た光景を思い出す。
パン屋の店員。
喫茶店の店員。
書店の案内係。
……あの子たちも、全員?
完璧すぎる。
どうやってるんだ?
のえるはスマホで「tsukimi_channel」を検索した。
SNSアカウントが見つかった。
フォロワーは少ないが、投稿は定期的。
ほしみのコスプレ写真。文化祭準備の様子。@oto_fesのリツイート。
『100日後、何かが起きる♪』
のえるは「フォロー」ボタンを押した。
次に、@oto_fesを開く。
カウントダウン「文化祭まであと○○日」
過去の投稿を見返す。
装飾を作る「女子生徒」たち。
ダンスを踊る「女子生徒」たち。
……全員、男子なのか?
のえるは『ほしみのひみつ』を手に取った。
男子校に転校してきた美少女・ほしみ。
実は女装した男子生徒。
完璧に女子を演じる。
漫画を閉じる。
音光学園は、『ほしみのひみつ』を現実にしている。
男子校が、女装で文化祭をやろうとしている。
確信100%。
でも……なんで?
のえるは検索履歴を見た。
「音光学園 廃校危機」
だから、話題を集めるため?
でも、女装で?
男子校全員で?
のえるは考えた。
……本気だ。
音光学園は、本気で『ほしみのひみつ』を再現している。
そして、月美さんは、その中心にいる。
のえるは隣の部屋を見た。
まりあは何も知らない。
純粋なファンとして、文化祭を楽しみにしている。
でも、のえるは知っている。
秘密を。
月美さんと約束した。
「みんなには秘密だよ?」
だから、まりあには言わない。
のえるは窓の外を見た。
文化祭に行く。
自分の目で、全部見る。
そして……。
のえるは決意した。
応援しよう。
音光学園を。
月美を。
みんなを。
秘密は守る。
でも、応援する。
のえるは、スマホを閉じた。
(……月美さん。文化祭で、また会えるかな)




