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男子校女装化計画!?〜廃校危機を救う奇跡の文化祭大作戦〜  作者: ほしみん


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第36話 ある受験生の発見

 調査票を提出してから数時間後。


 放課後、体育館。


 全校生徒がランク別にエリア分けされている。


 宇佐美はBランクエリアへ向かった。


 人数が多い。五十名以上はいるだろうか。受験生の三年生、体格のいい運動部員、内向的そうな生徒……様々な顔ぶれだ。


 それぞれ、事情があるんだろうな、と宇佐美は思った。


 受験で時間がない奴、体格的にSは無理な奴、恥ずかしくて表に出たくない奴。


 でも、みんな、学校を守りたいと思ってここにいる。


 宇佐美は隅に座り、また英単語帳を開いた。


 こういう時間も無駄にしたくない。でも、ここにいる意味はある。


「Bランクのみなさん、よろしくお願いします」


 聞き覚えのある声。


 顔を上げると、二年生の月美が立っていた。昨日の映像で見た、あの魔女っ子コスプレの女の子……の、普段の姿。


 制服姿の、普通の男子生徒だ。でも、昨日の映像を思い出すと、不思議な感覚になる。この人が、本当にあの可愛い女の子に変身できるのか。


「無理はしなくていいです。できる範囲で頑張りましょう」


 月美の笑顔は、自然で温かかった。


 押しつけがましさがない。強制している感じもない。むしろ、こちらの事情を理解してくれているような、優しい雰囲気がある。


 宇佐美は少しだけ安心した。


 この人なら、信頼できるかもしれない。いや、信頼できる。


 委員長が全体に説明を始めた。


「Bランクは、週1回30分の訓練です。当日はウィッグと制服を着用し、裏方作業を中心に担当していただきます」


 裏方……なら、人前に出なくていい。


「決して無理はさせません。皆さんの学業や部活を最優先します」


 委員長の言葉に、周りの生徒たちがほっとした表情を浮かべた。


 宇佐美も少し肩の力が抜けた。


 これなら……やれるかもしれない。


 Bランク専用の教室に移動した。


 宇佐美のグループには、二年A組の生徒が指導員として来ていた。さっきまで壇上で完璧な女装姿を披露していた、あの人たちだ。


 普段着に戻っているが、その佇まいには不思議な自信が感じられる。


「今日は基本的な衣装の説明と、簡単な動作練習をします」


 指導員が柔らかい口調で言った。


「皆さん、受験とか部活とか、それぞれ忙しいですよね。無理はしないでください。Bランクは、できる範囲で協力してもらえれば十分です」


 その言葉に、教室の空気が少し和らいだ。


 ウィッグ、制服、小物が並べられている。


「当日はこれを着用します。今日は見るだけで大丈夫です」


 見るだけ……なら、楽だな。


 宇佐美は説明を聞きながら、手元の英単語帳をチラチラめくった。


 指導員はそれに気づいたようだが、優しく微笑んだだけだった。


「勉強しながらでも全然OKです。僕らも去年まで三年生の先輩たち見てたんで、受験がどれだけ大変か、わかってますから」


 宇佐美は少し驚いて顔を上げた。


 指導員は続けた。


「むしろ、ここでの三十分が気分転換になればいいなって思ってます。息抜きって、受験期には必要ですよね」


 にこりと微笑むと、具体的な練習の内容に話を移した。


「立ち方、座り方の基本だけ練習しましょう。女性らしく、というより、不自然じゃない程度に」


 ざっくりとした説明。


「まず立つときは、膝を揃えて。座るときも、膝を閉じる感じで。スカートを履くと、自然とそうなりますけどね」


 指導員が実演してくれる。


「手の動きは、あまり大げさにしない。普段通りでいいです。ただ、腕を組むクセがある人は、当日は気をつけてください」


 宇佐美は腕を組むクセがあった。意識しないとな、と思った。


「じゃあ、一回立って座ってみましょうか。膝を揃えて、ゆっくりと」


 何人かが立ち上がって座る練習をする。


 宇佐美も立ち上がった。膝を揃える。座る。


 ……これだけ?


「はい、OKです。それくらいで十分です」


 細かいことは言われない。


 宇佐美は半分聞きながら、英単語を覚えていた。


 三十分が経過した。


「今日はこれで終わりです。お疲れ様でした」


 宇佐美は時計を見た。


 ……もう終わり?


 本当に、立って座っただけだ。拍子抜けするほど、負担が少ない。


 周りを見渡すと、他のBランクの生徒たちも同じように、ほっとした顔をしている。


 こんなに軽いなら、確かに週1回30分でも大丈夫そうだ。


「これくらいなら、大丈夫かも」


 宇佐美は小さく呟いた。


 正直、最初は嫌だった。女装なんて、恥ずかしいし、時間の無駄だと思っていた。


 でも、指導員の優しさ、Bランクに集まった仲間たち、そして何より「無理はさせない」という姿勢。


 悪くない。本当に、悪くない。


 肩の荷が、少し降りた気がした。




 訓練後、宇佐美はすぐに図書館へ向かった。


 いつもの自習スペースに座り、参考書を開く。


 英単語を覚え始めた。


「あれ……?」


 いつもより、頭がスッキリしている。


 肩の力が抜けている。呼吸が、楽だ。


 ページをめくる。単語が目に入る。意味が、すぐに頭に入ってくる。


 さっきまで感じていた、あの息苦しい焦燥感が薄れている。英単語がすんなり入ってくる。集中できている。


 胸の奥で、何かが軽くなっていく。


 これは……。


「さっきの三十分……気分転換になったのかも」


 宇佐美は参考書を置いて、しばらく考えた。


 ここ最近、ずっと机に向かっているのに、集中力が続かなかった。模試の結果も伸び悩んでいた。焦れば焦るほど、頭が回らなくなっていた。


 でも、今は違う。


 少し違うことをした方が、かえって効率がいいのかもしれない。


 受験勉強のことを三十分だけ忘れて、リフレッシュできた。立って、座って、笑って。ただそれだけのことが、こんなに気分を変えるなんて。


「悪くない……かも」


 いや、違う。


「これは……いいかもしれない」


 宇佐美は参考書に向き直った。


 少なくとも、思っていたほどマイナスではなさそうだ。いや、もしかしたら、プラスかもしれない。むしろ、プラスだ。


 ◆


 翌日の教室。


 友人たちと訓練の感想を話す。


「昨日の訓練、どうだった?」


 今井が聞いてきた。


「正直、受験勉強の時間削られるの嫌だったんだよな」


 佐々木が本音を漏らした。


「俺も最初はそう思ってた。でも……意外と悪くなかった」


 宇佐美は正直に答えた。


「え、どういうこと?」


 佐々木が身を乗り出した。


「訓練後、図書館で勉強したら、いつもより頭がスッキリしてた。肩の力が抜けてる感じで、集中できたんだよ」


「ああ、わかる」


 今井が意外そうに頷いた。


「俺も部活の後の方が、勉強集中できるんだよな。適度に体動かすと、頭が冴える感じ」


「それ、実際あるらしいぞ」


 クラス委員の遠藤が言った。


「この前読んだ論文に載ってた。適度な運動や環境の変化って、脳の働きを良くするんだって。週1回三十分くらいなら、むしろプラスかもな」


「論文って……さすが医学部志望」


 今井が苦笑した。


「まあ、そういうことなら」


 佐々木が少し安心したような顔をした。


「そこまで罪悪感持たなくていいか」


 宇佐美は心の中で思った。


 最初は時間の無駄だと思ってた。受験勉強の邪魔だと。


 でも、一回やってみて、思ったより悪くなかった。いや、悪くなかったどころか、良かった。


 週1回三十分……これくらいなら、両立できるかもしれない。いや、両立できる。


 宇佐美は参考書を閉じ、窓の外を見た。


 グラウンドが見える。入学式の日、ここで友達と初めて話した。体育祭で全力で走った。文化祭で模擬店をやった。


 三年間。短かったけど、濃い時間だった。


 この学校が廃校になるのは、嫌だ。


 後輩たちにも、同じ経験をしてほしい。この校舎で、友達を作って、笑って、悩んで、成長してほしい。


 受験勉強が最優先。それは変わらない。


 でも、週1回三十分。それくらいなら、俺にもできる。


 いや、できる、じゃない。


 やりたい。


 学校を守るために。後輩たちのために。


 そして、俺自身のためにも。


 俺にできることを、やろう。


 宇佐美は英単語帳を開き、また勉強を始めた。今度は、焦りではなく、前向きな気持ちで。


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