第28話 成功の定義と戦略立案
メディア戦略の会議から数日後の放課後、委員長は教室でクラス全員を集めていた。
「皆さん、メディア連携も決まりました。次は文化祭自体を成功させる番です」
委員長の言葉に、クラスメートたちは少し緊張した表情を見せた。
「文化祭って結構先だと思うんだけどもう始めんのか?」
護道が疑問を口にすると、委員長は首を振った。
「いえ、準備期間を考えると今から戦略を練る必要があります」
「えー、もう?」
「まだ実感ないよ」
クラスメートたちから不安の声が上がる。
◆
委員長はホワイトボードの前に立った。
「皆さん、我々の文化祭は『何をもって成功とするか』を明確にしましょう」
田島が手を上げた。
「女装男子校文化祭だって、お客さんにバレなければ成功じゃないの?」
「それは最低限の達成要件です。我々はもっと大きな目標を目指します」
委員長はホワイトボードにマーカーで書き始めた。
【レベル1:廃校阻止(最低限の目標)】
【レベル2:認知度向上(中期目標)】
【レベル3:社会現象化(理想目標)】
「すげぇ……社会現象化って」
佐藤が息を呑んだ。
「今回我々はMHKさんを巻き込んでいます。社会現象化までいってしかるべき、というのが僕の認識です。そこを目標にするのは当然なのです」
MHKの撮影スタッフもコクリと頷く。
「そうだよなぁ。MHKが動いてるんだもんなぁ」
「規模がデケェ……」
「責任重大だな」
ざわつくクラス。
「さて、具体的な成功指標も設定します」
委員長は続けて書いた。
・来場者数:前年比300%増
・SNS反響:全国トレンド入り
・メディア露出:全国ニュース取り上げ
・入学志願者:翌年度倍増
「まあこれくらいは達成して当然ですよね」
さらっという委員長にクラスメイトは凍りついた。
「さて、これを実現するために、どうすべきか、をマーケティングの基本、AIDMAで分析しましょう」
委員長が新しい用語を出すと、月美は尋ねた。
「AIDMAって何ですか?」
初めて聞く言葉である。
委員長は丁寧に説明を始めた。
「AIDMAとは、『人が商品を購入するまでの心理プロセス』です」
「購入って、文化祭は商品じゃないでしょ?」
美月が首をかしげると、委員長は微笑んだ。
「そこがポイントです。私たちは『女子校体験』という商品を提供するのです」
ホワイトボードに大きく書きながら続ける。
【A(Attention:注目)】
【I(Interest:興味)】
【D(Desire:欲求)】
【M(Memory:記憶)】
【A(Action:行動)】
「これを我々の文化祭に当てはめると……」
委員長は具体例を書き足していく。
・A(注目):SNSバズ、メディア話題化
・I(興味):「この学校すごい!」の驚き
・D(欲求):「入学したい」「体験したい」
・M(記憶):一生忘れられない感動
・A(行動):志願、口コミ拡散
「例えば『注目』の段階では、まず話題になることが重要です」
委員長が具体的に説明する。
「『興味』では、単なる話題性を超えて『すごい学校だ』と感じてもらう。『欲求』で『自分も体験したい』『息子を入学させたい』と思わせる」
護堂が手を上げた。
「記憶って、どうやって作るんですか?」
「素晴らしい質問ですね。一度体験したら絶対に忘れられない、そんな圧倒的な完成度が必要なのです」
松本が感心したように言った。
「なるほど……単にバレなければいいってレベルじゃないのか」
「その通りです」委員長が力強く頷く。「『完璧な女子校として認識してもらい、それが感動に繋がり、入学希望へと至る』ここまでいたって初めて成功です」
「つまり、俺たちがただ女装するだけじゃダメってことか」
美月が整理すると、田島が驚いたように声を上げた。
「えー、そんなにハードル高いの?」
美原が手を上げた。
「技術的な完成度が必要ですね」
「ビジュアル的な統一感も」
網野も続いた。
委員長が慎重に答える。
「技術的な完成度やビジュアルなどの達成は最低限必要なことです。これだけでは不十分なのですが、とはいえ大事な要素になるのでしっかり達成する必要がありますね」
「つまり、見た目完璧でも、それ以上が必要ってことか……」
佐藤が唸るように呟く。他のクラスメートたちも複雑な表情を見せた。
「で、具体的にどうするんでしょう?」
月美の質問に、委員長は少し考えてから答えた。
「それを次から検討していきます」
◆
「我がクラスだけでなく、学校全体をコーディネートする必要があります」
委員長の言葉に、護堂が驚いた。
「他のクラスも巻き込むってこと?」
「他のクラスだけではないです。僕ら二年生だけでなく、三年生や一年生も巻き込み、一丸となってトータルな女子校体験を提供する必要があります」
教室の空気が一変した。これまで「自分たちのクラスだけの話」だと思っていたことが、実は学校全体を巻き込む大プロジェクトだったのだ。
「すげぇスケール……」
松本が息を呑む。
「でも社会現象にするんだから、学校全体までもっていかないと、なのか。まあそれくらいやらないとインパクトないか……」
田島が納得したように頷く。
「だな。そこまでやらないと、世の中をおどろかせることはできないよな」
美月が現実的に分析すると、クラス全体がざわめいた。
佐藤が呟く。
「でも、やりがいがありそう」
田島も前向きに反応した。
「俺たちがやらなきゃ誰がやるって感じだよな」
網野が冷静に分析する。
「確かに大変だけど、これだけ明確な目標があると逆にやりやすいかも」
山田も頷く。
「何をすればいいかハッキリしてるもんな」
クラス全員の表情が変わった。不安から期待へ、そして決意へと。
「みんなでやってやろうぜ」
誰かが呟いた一言が、教室全体に響いた。
委員長は満足そうに頷いた。
「素晴らしい。では、具体的にどんな出し物にしますか?」
その質問に、クラス全員が期待と不安の入り混じった表情を見せた。
「これまでの話を踏まえると、ただの企画じゃダメってことですよね」
美月が確認すると、委員長が力強く頷く。
「その通りです。AIDMAの全段階を満たす、完璧な企画が必要です」
新たな挑戦への扉が、今まさに開かれようとしていた。




