第22話 実践技術指導と才能発覚
翌日の放課後。
2-A教室は、まるで美容室のような様相を呈していた。
机の上にはメイク道具一式、鏡、ウィッグ、様々な化粧品が並んでいる。
「では、基礎から始めよう」
月美がメイン講師として前に立つ。委員長もサブ講師として隣に控えている。
「まずは道具から」
月美は基本セットを説明していく。ファンデーション、アイシャドウ、リップなど。
「こんなにたくさん使うのか……」
田島が呟いた。
「何から始めればいいんだ?」
佐藤も困惑している。
「まず俺がやって見せる」
月美は手順を一つずつ説明しながら実演した。
「ファンデーションは薄く、均等に」
クラス全員が真剣に見学している。MHKのカメラも回っている。
「では、みんなでやってみよう」
各自が鏡を見ながら挑戦開始した。
そして、案の定最初からバラエティ豊かな失敗例が続出した。
◆
田島はファンデーションを厚塗りしすぎて、まるで能面のような状態になっている。
「うわああああ!俺、お化けじゃん!」
田島が鏡を見て絶叫した。
「ちょっと厚すぎませんか?」
月美が苦笑いで指摘する間にも、佐藤はアイシャドウが濃すぎてパンダ目状態になっている。
「俺、殴られたみたいになってる……」
佐藤が呆然としている隣で、鈴木は口紅がはみ出して道化師風。
「なんで唇からこんなにはみ出すんだよ!」
山田は眉毛の形が左右非対称で困り果てている。
「右と左で別人になってる……」
クラス全員が鏡を見て絶句している光景に、月美が思わず笑ってしまった。
「最初はそんなもんですよ。私も散々でした」
その度に姉の美桜から叱責が飛んだことを思い出し、自然と遠い目になる。
「薄く、自然に見せるのが一番難しい」
しかし、2回目の挑戦で変化が現れた。
「あれ?なんかコツが掴めてきた」
田島が手を止めて鏡を見つめている。
「姉ちゃんに教わったことを思い出した」
手先が意外と器用で、大幅に改善している。
「田島くん、センスありますね」
月美が感心した。
その時、美原が突然立ち上がった。
「ちょっと待て田島!その塗り方は俺の美学に反する!」
「え?」
田島が困惑すると、美原が熱弁を始めた。
「ファンデーションはな、肌との一体感が命なんだ!黄金比があるんだよ!」
「美原くん、落ち着いて……」
月美が止めようとするが、美原は止まらない。
一方、佐藤はメイク中に自然と女性らしい表情を作っている。
「演劇部の友達の真似してみた」
その美しすぎる表情に、男子たちがドキドキして作業が止まってしまった。
「ちょ、佐藤、その顔やめろよ……」
中島が赤面している。
「なんで俺たちが動揺してんだよ……」
松本も困惑していた。
仕草も含めて、総合的な女性らしさを表現する佐藤に、委員長も動揺気味だった。
「佐藤くん、表情作りが上手いですね……」
混乱の中、鈴木はスマホを取り出していた。
「バイト先の美容師志望の先輩に聞いてみる」
写真を送って、即座にアドバイスを受信。
「こうやって修正すればいいって」
「おお、鈴木のネットワークすげぇな」
田島が感心する間に、山田が大量のファッション雑誌を広げ始めた。
「この肌色にはこの系統が合う」「理論的には春夏タイプだから……」
色彩理論を熱弁する山田に、美原が反応した。
「ちょっと待て山田!理論だけじゃダメなんだよ!感性と経験が重要なんだ!」
「でも色彩学的には……」
「色彩学より美原学の方が正しいに決まってる!」
「それもう学問じゃないだろ……」
月美がツッコミを入れると、委員長が慌てて仲裁に入った。
「落ち着いてください、みなさん」
◆
「カオスですね」
と月美。
騒々しい状況を腕組みをして見渡す委員長から出てきた言葉は意外なものだった。
「興味深い……この騒動から見えてきましたよ」
「何がです?」
月美は首を傾げる。
「これまでの状況を分析しました。まずこれだけ混乱している、ということは逆に言うとやる気があるからです。みんな女装ということに対して熱心だからこそ、意見が出るのです」
月美が頷く。確かにそうだ。もし興味が無かったらむしろ誰も発言をせず、宿題のようにこなしているだけになるだろう。
「そして、そのうえでなぜこんなに混乱が生じているのか……それは各人の特性が異なるからです」
そこでパンパンと手を叩く委員長。
「一旦状況を整理しましょう。ちょっと手を止めてもらっていいですか?」
騒々しかった教室も落ち着きを取り戻す。委員長のまとめる力は強い。
「今日この場を通じて皆さんの強みややりたいことが見えてきました。そこで皆さんがどんなことをやりたいのか教えていただけないでしょうか?それをもとにチーム分けしてはいかがでしょう」
クラス全員から「おーっ」と声が上がる。
「俺、メイクもっと極めたい」
田島が宣言すると、美原がすかさず反応した。
「おお、弟子志願か!いいぞ、俺の技術を継承してやる!」
「え、弟子って……」
「演技・仕草担当やりたい」
佐藤が続くと、クラス全員がざわめいた。
「佐藤の女性表情、マジでヤバいからな……」
中島が苦笑いしている。
「人脈活かしてヘア担当」
鈴木も手を上げた。
「ファッション理論で衣装担当」
山田が立候補すると、美原がまた口を挟んだ。
「理論だけじゃダメって言っただろ!」
「美原くん、もうちょっと落ち着いてください……」
月美が呆れて言った。
委員長が黒板に向かって整理を始める。
「美原君は情熱的な技術継承型、山田君は理論重視の体系化型、佐藤君は直感的な表現型、鈴木君は情報活用型……」
黒板に表形式でまとめていく。
「メイクチーム:田島リーダー」
「根拠:器用さと向上心、美原からの技術継承意欲」
「演技・仕草チーム:佐藤リーダー」
「根拠:天然の表情美、演劇部人脈、周囲への影響力」
「ヘアスタイルチーム:鈴木リーダー」
「根拠:外部ネットワーク活用能力、情報収集力」
「ファッションチーム:山田リーダー」
「根拠:理論的アプローチ、色彩学知識、体系的思考」
各チームの根拠まで論理的に説明する委員長に、クラス全員が感心していた。
中島が聞いた。
「俺はどこがいいかな」
松本は自分の特徴を考えていた。
「身長が高いから、背の高い人向けの研究をする」
加藤も同じように考えていた。
「筋肉質体型のカバー法担当」
それぞれの特徴を活かした専門分野が見つかっていく。
月美が総括した。
「俺は全体を見て、各チームをサポートする」
「困ったことがあったら相談して」
委員長が手帳にメモを取りながら続ける。
「僕は戦略面と外部連携を担当します。MHKとの調整、商店街との連携、リスク管理……」
「委員長、なんか本格的だな」
田島が感心すると、委員長が眼鏡を押し上げた。
「このプロジェクトの成功は、各要素の最適化にかかっています。感情的な衝突も含めて、すべてを戦略的に活用しなければ」
美原が反応する。
「感情的って……俺のことか?」
「はい。美原君の情熱的な指導スタイルも重要な戦力です。適切にコントロールすれば」
月美は委員長の言葉に苦笑いした。
◆
その時、専門チームが合流してきた。
教室の隅では、MHKディレクターがカメラマンと小声で会話している。
「すごい映像が撮れてますよ」
「技術習得の現実と、キャラクターの個性が両方映ってる」
「特に美原君の指導への情熱と、佐藤君の天然の美しさ……これは視聴者に受けますね」
カメラマンが頷く。
「騒動も含めて、リアルな青春ドキュメンタリーになってますね。これは楽しみですね。視聴率取れますよ」
MHKディレクターの満足そうな声を聞きながら、月美は苦笑いした。
確かに今日は大騒動だった。でも結果的に、みんなの個性がわかったし、チーム体制も確立できた。
各自の才能が発覚し、本格的な技術習得への第一歩が踏み出された初日だった。




