第20話 収束と結束
椅子が倒れる音、怒号、困惑の声が入り乱れる中、委員長だけが冷静に立ち続けていた。
「説明が遅れたことを、心からお詫びします。詳細な経緯については、これから説明させていただきます。だから一旦おちついてください」
しかし教室の混乱は収まらない。
「騙してたってことかよ!」
鈴木が怒声を上げた。
「俺たち、ずっと騙されてたのかよ!」
「俺は桜井のことをずっと、月美ちゃんって呼んでたのに……おえ……」
美月は短い髪を隠すように手で覆いながら、ただひたすら頭を下げ続けていた。
そんな時、教室の扉が勢いよく開いた。
「何事ですか、この騒ぎは」
理事長が担任の桐原先生と一緒に現れた。その威厳のある声に、教室がやや静まる。
「理事長……」
桐原先生が困り果てた表情で説明し始める。
「委員長が突然重要な発表をして……それで生徒たちが……」
理事長は一瞬で状況を理解した。美月の短い髪、委員長の覚悟を決めた表情、クラス全体の混乱。
「全員、着席してください」
理事長の威厳のある声で、生徒たちは徐々に席に戻る。
「委員長、状況を整理して説明しなさい」
桐原先生も心配そうに見守る中、委員長は深呼吸をして、再び立ち上がった。
「まず、現状を説明させていただきます」
理事長も隣に立ち、桐原先生は後ろで状況を見守っていた。
「音光学園は深刻な廃校危機に直面しています」
クラス全員の空気が変わった。廃校という言葉の重みが教室を支配する。
「生徒数激減により、来年度閉校の可能性が高い状況です」
「え……まじで……?」
佐藤が呟いた。
「そこで最後の手段として企画したのが、文化祭での女子校偽装作戦です。『男子校なのに女子校に偽装』という過去にみたことがない、キャッチーなネタです。これはメディアの注目を集めるでしょう。これにより認知度をあげて、学校存続を図る計画です」
委員長が続ける。
「そのために、桜井くんに女装をお願いしました。僕が作戦の指揮官として、桜井くんをサポートしていたのです」
鈴木が立ち上がった。
「ちょっと待てよ、それって……」
「学校存続って、なんかスケールでかくねえか?」
「ふかしてるだけだって」
委員長は理事長と桐原先生を見た。二人は頷く。
「実は……この作戦には、もう少し多くの方が関わっています」
理事長が一歩前に出た。
「私が作戦の立案者です」
教室がざわめく。
「そして……」
桐原先生が申し訳なさそうに手を上げた。
「私も……共犯者です」
ざわっとする。
「転校生として月美さんを受け入れる手続きや、クラスでの説明……すべて承知の上で協力していました」
生徒たちの視線が桐原先生に集中する。
「先生まで……」
中島が呆然と呟いた。
「つまり……学校ぐるみってことかよ……」
山田が頭を抱えた。
教室がざわめく。
「学校のため……?」
山田が呟いた。
「でも……それって……」
中島も困惑している。
「いくら学校のためでも、騙すのはどうなんだ!」
鈴木が再び怒りを爆発させた。
「俺たち、完全にバカにされてたってことだろ!」
「なんか、すごく恥ずかしい……」
そんな時、理事長が重い口を開いた。
「皆さん、詳しい事情を説明させていただきます」
理事長は深刻な表情で続けた。
「音光学園は創立120年の歴史ある学校ですが……」
桐原先生が資料を取り出す。
「過去5年間で生徒数が60%減少しました」
「少子化の影響で、今年の新入生は定員の3割しか集まらなかったです。」
委員長が補足する。
「このままでは来年度の運営が不可能です」
理事長が続ける。
「県からも統廃合の通達が来ています。期限は今年度末」
「最後の望みが、この文化祭での注目度アップなんです」
桐原先生も説明する。
「でも、みんな去年の文化祭のこと覚えてるでしょう?」
田島が苦い顔をした。
「あー……あれは……」
「客全然来なかったよな……」
「準備はそれなりにしたのに、来場者数が……」
「他校の文化祭と比べて、全然盛り上がらなかった」
「今回の理事長の企画を超える、文化祭を盛り上げるアイディアをだせる人いますか?」
桐原先生の問いかけに、教室がシーンと静まりかえった。
誰も手を上げない。誰もアイディアを出せない。
理事長が続ける。
「これくらい飛び抜けたことをしないと、メディアに注目されません。普通のやり方では、誰にも気づいてもらえないんです」
「正直、この企画で音光学園に入りたいと思う人と、絶対嫌だと思う人に分かれるでしょう」
「でも、誰にも知られていない今の状況に比べれば、遥かに希望があります」
桐原先生も付け加える。
「話題になれば、少なくとも学校の存在を知ってもらえる。それが第一歩なんです」
委員長がさらに詳しく説明した。
「女子校偽装は、そのための話題作りです。桜井くんの女装は、その中核となる企画だったんです」
理事長が頭を下げる。
「生徒の皆さんを騙すような形になって、本当に申し訳ありません。でも、学校を救う最後の手段だったんです」
クラス全体の空気が変わった。単なる悪ふざけではなく、学校存続をかけた真剣な取り組みだったことが理解され始める。
「それでも……委員長も美月も信用できない!」
美月は謝り続けた。
「みんな、本当にごめん。俺も最初はこんなことするつもりなかったんだ。でも学校がヤバイって聞いて、何かしなきゃって……それで嘘ついちゃった。ほんとにすまん」
「「「その可愛い格好で男言葉つかうな!!!」」」
クラスメイトの声が一つになる
「えええ……」
美月は頭を抱える。
委員長は計画完全破綻の危機を感じていた。
「このままでは作戦が……」
理事長も青ざめた表情になった。桐原先生も事態の深刻さに困惑していた。文化祭まで時間がない絶体絶命の状況だった。
そんな時、委員長が最後の手段を取ることにした。
「皆さん、お気持ちは理解できます」
委員長が再び立ち上がる。
「しかし、実はもう後戻りできない状況になっているんです」
鈴木が冷たく言った。
「何それ、また言いわけ?」
「言いわけではありません」
委員長は教室の後ろを見た。
「MHKの方にお越しいただいています」
その瞬間、教室のドアがノック音と共に開いた。
MHKディレクターとカメラマンが入室する。
「皆さん、お邪魔します。MHKの田中と申します」
クラス全体が完全に固まった。
「え……」
「マジで……?」
「MHKって、テレビ局の……?」
ディレクターが穏やかに説明し始めた。
「音光学園さんのユニークな文化祭企画を取材させていただいております」
ディレクターがカメラマンに合図すると、おもむろにプロジェクターが設置される。
「こちらをご覧ください」
スクリーンに映像が流れ始めた。女装に苦労する美月の練習風景、初めての登校日、委員長と月美のデート、そして今日の衝撃的な告白シーンまで。
「うわあああ!」
「これマジもんだ!」
クラス全員が驚愕する。
(美桜が自宅で撮った写真や動画も含まれてる。俺達の、写真や動画を撮りまくってたのは、こういうことだったのか!!!)
美月は頭を抱えた。
「実は一ヶ月前からこの企画の密着取材をしており、ドキュメンタリーとして全国放送が決定しています」
クラス全員、テレビ局が本格参加している現実に愕然とした。
「放送日程も決定済みで、企画は既に動き出しています」
ディレクターが続ける。
「脅しだろ……これ」
「全国展開……」
理事長が重々しく言った。
「これは本当に学校存続の最後の賭けなんです」
委員長も真剣な表情で。
「もう個人の問題ではなく、学校全体の問題です」
教室が静まり返った。
テレビ局が本格的に関わっている現実の重さを、全員が理解し始める。
「テレビで全国放送って……本当にマジなのか」
田島が震え声で言った。
「学校、本当に潰れちゃうんだ……」
佐藤も青ざめている。
「俺たち、最後の卒業生になるかもしれないのか」
鈴木も事態の深刻さを理解し始めた。
「そんなに深刻だったなんて……」
山田も複雑な表情だ。
しばらくして、クラスの空気が少しずつ変わり始めた。
中島が美月を見つめて呟いた。
「美月……いや、桜井……」
「男なのに、よくあそこまで完璧に女の子を演じられたな……」
松本も感心したように言う。
「俺だったら一日も持たない」
田島も率直に認めた。
「正直、すげーよ桜井」
佐藤も深く頷く。
「あの可愛さで男だったなんて……まだ信じられない」
山田が頭を振りながら言った。
クラス全体の雰囲気が、驚愕から敬意へと変わっていく。
「学校のためなら、俺たちも協力する」
鈴木が立ち上がった。
「作戦会議に参加させろ」
山田も続く。
「何をすればいいか教えてくれ」
中島も手を上げた。
「みんなで音光学園を守ろう」
松本も決意を込めて言った。
美月は涙ぐみながら答えた。
「みんな……本当にありがとう」
委員長もほっとした表情で。
「では、改めて全員で作戦を練り直しましょう」
理事長も嬉しそうに。
「頼もしい仲間たちですね」
桐原先生も感動して涙ぐんでいた。
「みんな……ありがとう……」
クラス全員が立ち上がって声を合わせた。
「音光学園を絶対に守るぞ!」
ディレクターはこの一連の流れを撮影しながら満足げに呟いた。
「素晴らしい結束ですね」
カメラマンも感動的なシーンを記録していた。
企画が順調に進展していることを確認できた瞬間だった。
美月は男声のまま叫んだ。
「俺たちで音光学園を守るぞ!」
クラス全員が立ち上がって声を合わせた。
「音光学園を絶対に守るぞ!」
委員長もほっとした表情で声を上げる。
「では、改めて全員で作戦を練り直しましょう」
理事長も嬉しそうに。
「頼もしい仲間たちですね」
桐原先生も感動して涙ぐんでいた。
「みんな……ありがとう……」
しかし、これはまだ序章に過ぎない。
全校生徒を巻き込んだ、さらに大きな戦いが待っているのだった。
音光学園の運命をかけた戦いは、これからが本番である。




