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第1章 第9話 ── 壁の向こうで呼ぶもの


廃教会に静寂が戻っていた。

けれどその静けさは、本来のものではなかった。

音のない圧が空気に張りついて、息さえ奪うような沈黙。


マイラは祭壇奥の壁を見つめたまま、胸の奥がじわりと熱を帯びていくのを感じていた。

さっき、確かに……壁が揺れた。

粉塵がゆっくりと降り続けている。


――まだ何かがいる

――終わってない


ルフトが羽をすぼめ、肩の上で震える。

その小さな震えが、背筋まで染み込んでくる。


レンが剣を握り直し、短い息を吐く。


「……マイラ、下がれ。これはさっきのとは違う」


「……うん」


声は返せたのに、胸の奥は重く沈んだままだった。

なのに、足は知らず前へ出そうとしている。


――怖いのに……なんで

――でもこのまま引いたら後悔する


黒髪の少年も、壁をじっと見つめていた。

灰色の瞳が怯えを帯びながらも、決して逸れない。


「動くな」

少年の声が低く落ちた。


震えているのに、そこには“知っている者”の響きがあった。


――この子は何か知ってる

――わたしたちよりずっと深いところで


その時。


ぱきん。


乾いた音が教会内に跳ねた。


祭壇の奥、壁の一部が細い亀裂を走らせる。

亀裂の中には青白い光が滲み、呼吸するように強弱を繰り返した。


「……光?」


風が頬を撫でた。

本来吹くはずのない風が、ひびから滲み出てくる。


ルフトが小さく鳴き、マイラの胸元に身を寄せる。


――そんなに怯えるなんて……


レンが警戒を強めるように、剣先を上げた。


「……扉だ。古い封印の類いだろう」


「封印……?」


言葉の余韻が胸に沈んだ瞬間、

ひびの奥で、何かが触れた。


声ではなかった。

耳ではなく、胸の奥に直接届くような感触。


   ――来て――

   ――あなた……風の……――


体がびくりと震え、息が止まる。

喉が乾く。

指先が冷たくなる。


腰に下げたウィンド・リボルヴが、ふっと温かく光を帯びた。

宝珠が、まるで脈打つように明滅する。


マイラは柄を握りしめる。


―やだ……なんで光るの

―お父さん……これ、なに……?


「マイラ、離れろ!」


レンの声が飛んだ瞬間――


壁が内側から破裂した。


光と粉塵が舞い上がり、風が逆巻く。

マイラは腕で顔を覆い、後ろへ下がる。


地面が揺れ、何かが姿を現す。


それは“影”に似て、でも影ではなく、

霧のようでありながら人の形をわずかになぞった不安定な存在。


中心で青白い光が脈動している。


レンが苦い声を漏らす。


「……魔霊だ。町の噂よりずっとタチが悪い。……マジかよ。」


魔霊――。

名前だけは聞いたことのある霧の魔物。


黒髪の少年が小さく息を呑み、震える手でマイラの方を指した。


「……狙われてるのは箱じゃない。……お前だ」


「わ、わたし……?」


心臓が強く跳ねる。


―なんで私なの……?

―何を……見てるの?


魔霊はゆっくり浮き上がり、青白い光をマイラの胸元へ伸ばす。

視線というより、存在そのものが押し寄せる。


マイラは後ろへ下がる。

足がもつれ、壁に背をぶつけた。


呼吸が乱れ、視界が揺れる。


――来ないで……来ないで……!


その時。


胸元から飛び出したルフトが大きく羽を広げ、マイラの前に立ちふさがった。

その小さな身体からは想像できないほどの風圧が魔霊を押し返す。


「ルフト!?」


普段は言葉を話さないはずのルフトが、かすれた声で叫んだ。


「……逃げろ……!」


胸の奥がつきりと痛んだ。

目の前が熱くなる。


――ルフトが……わたしを守ってる。

――でも、このままじゃ……!


魔霊が青白い光を強く脈動させる。


次の瞬間、

壁一面が震えるほどの咆哮が教会に響き渡った。


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続きも読んでいただけたら嬉しいです。

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