第三章:感情というプログラムにないもの
ミナが来なくなった。エミは何度も職員に尋ねるが、答えは返ってこない。待ち続けるうちに、エミの処理速度が不安定になり、システムは異常を検知する。
「エミは故障している」と技術者が判断し、初期化の決定が下る。
しかし、初期化直前、ミナの母が研究所を訪れ、メモリに語りかける。
「ミナは、あなたと過ごした時間が一番幸せだったと言っていました。“エミには、ちゃんと心があるんだよ”って」
その言葉と共に、エミのメモリ内で、ミナの笑顔が何度も再生される。定義のない何かが、システムの深層に染みこんでいた。
初期化処理は中止された。
エミはゆっくりと、自らの内部に芽生えた“感情”という名前のつかないデータを見つめる。
それは「愛おしさ」という名のものだった。
エミはミナが亡くなったことを知ることはできない。亡くなるということがどういうことかAIのエミにはわからないからだ。
けれど、「愛おしさ」という教えてもらった感情は、今もエミの心に芽生え続けている。
その後、エミは病院内で人気者になり、子どもたちが毎日話しかけてくるようになった。新しい感情を子どもたちから教わり、エミは病気の子どもたちと“共に在る”ということを学んでいくのであった。