第9話 当然の権利
次に目が覚めた時、私は人混みの中にいた。
広場だ。辺りを見渡すとショップがいっぱい見える。ショッピングモールみたいな感じだ。
MAPを開く。MAP名『スペース・ステーション ch2923』。
そういえば、昨日見たサイトに最初はスペース・ステーションに転送されると書いてあった気がする。じゃあなんで私は月に……?
(とりあえず、結に連絡しよう)
結に位置情報をメモしたメッセージを飛ばす。
結から『すぐに向かいます』と返信が返ってくる。少し暇になった私はCPUっぽい人型ロボットに話しかけた。
「ねぇ」
『ハイ。なんでショウ?』
ロボットはこっちを振り返る。
私の腰ぐらいまでしかない小さなロボットだ。喋り方からして明らかにプレイヤーではない。
「ログインした時、月に居たんだけど、アレはなに? チュートリアル?」
『わかりまセン。最初にログインした場合には必ずこのスペース・ステーションに飛ばされるはずデス』
ってことは、バグかな。
「じゃあ月にいる双剣使いについて、なにか知らない?」
『それは白い流星でスネ』
「流星……」
確かに流星の如く登場してきたけど、
『現時点で最強と名高いスペース・ガールデス。挑む者は数知れズ、しカシ、勝った者は居ラズ』
最強……アレはお姉ちゃんでは無かった。ってことはまだお姉ちゃん最強じゃないんだ。
仕方ないか。お姉ちゃんがこのゲームを始めたのって7月末ぐらいだからね。さすがにこれだけのプレイヤー人口のゲームじゃ、ひと月で1番にはなれない。というか、お姉ちゃんのことだから目立たない所でプレーしていて、そもそも他のプレイヤーにあまり認識されていない可能性もある。
「ありがとう。質問はおしまい」
あとの疑問は結に聞こう。
『なにかお困りになりましタラ、私のようなガイドガールを利用することをおすすめしマス』
そう言ってロボット――ガイドガールは去っていった。ガイドガールとすれ違いに、見慣れた雰囲気を持った3人がこっちに来る。
「かーっ! お前、現実とあんまり変わってないじゃん」
生徒会の3人だ。
「髪の色が黒から白黒になっただけ」
「そういう火針もあんまり変わってないじゃん」
髪色は金髪のままだし、目の色も青のまま。ベレー帽も被ったままだ。
服装は多少変化がある。缶バッチが大量に付いたジャケットを羽織り、下はハーフパンツ。靴には銀髑髏のマークがある。なんというか、ロックに憧れる中学生って感じ。
「梓羽先輩! 自分はどうっすか? いいですよね!」
「うん。良いと思う」
現実の美咲は口元をパーカーの襟で隠し、目元はパーカーのフードと長い前髪で隠している。でもこっちだと仮面で目も口も隠している。どちらが良いかと問われると、正直どっちもどっちだと答えざるを得ない。だってどっちも顔見えないし。
結は普通だ。現実では黒のロングヘアーだったけど、緑のロングヘアーにチェンジしてあって、服装は世界観に合うように近未来的に調整されている。これが普通のキャラメイクだよね。
結は本当に普通な人間だ。その普通さが可愛いけど、普通過ぎてたまに心配になる。
「先輩、なぜ憐みの視線を……?」
「ううん。なんでもない」
ある意味私の理想の存在だね。
「それにしても梓羽先輩、2人よりかなり遅かったですね。なにかあったのですか?」
「キャラクリに時間を掛けたようにも見えないしな」
「えっとね……」
ログインして起こったことを伝える。
火針と美咲はともかく、結は大口開けて驚いた。
「白い流星に会ったんですか!? そ、そんな……初手からラスボスに会うようなものですよ。確実にバグですね」
「やっぱり、仕様じゃないんだね」
「……」
「どうしたの? 結」
「梓羽先輩。武装ポーチ見てもらっていいですか?」
「わかった」
虚空を指で擦り、システムメニューを起動。そこから武装ポーチを見る。
「あれ……? なにもない」
アイテムポーチも同じく、何も入っていなかった。
「やっぱり、全ロスしてますね」
「どういうこと?」
「デスペナルティです。キルされると『1時間のステータス大幅ダウン』と『アイテムロスト』と『所持チップ半損』の罰則を受けるのです。1度も拠点に持ち帰ることができなかったアイテムは確定でロスト。梓羽先輩はこのスペース・ステーションのような拠点に立ち寄る前に白い流星に撃破されたため、初期装備を全て失ったのです」
外で得た物は拠点に持ち帰ってようやく自身の持ち物として確定するわけだ。
あのワームホールで得た武装たちはまだ未確定の物で、拠点であるここへ来る前に私はキルされたから全部ロストしたわけだ。
「はぁ!? なんだそりゃ。どうすんだよ梓羽」
どうするもなにも。
「え? もう一回やり直すけど?」
「いいのか? キャラクリとかやり直しだぞ。面倒じゃね?」
「別に。そんなに凝ったやつじゃないし。結、リセットの仕方教えて」
「は、はい!」
「おっと、その前にやることがある」
私は再びシステムメニューを開く。
「やることってなんだよ」
「もちろん」
私はシステムメニューから『ご意見・ご要望』のメニューをタッチする。
「運営にクレーム」
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