第6話 ダイブ
翌日、9月3日火曜日。
昼休みに生徒会3年組(私、火針、二叶)で机を合わせて昼食を取りつつ、元eスポーツ部に接触した結果を聞く。
「あたしと二叶で手分けして元eスポーツ部の連中に話聞いたけど、全員戻らないってさ」
「ムカつくわアイツら……!」
二叶は紙パックに差したストローを噛み潰す。
「なにかあった?」
「例の塾、ルミナスの素晴らしさを延々と聞かされたわよ。『部に居た時間を返して欲しい』、『もっと前からルミナスに入ってればよかった』、『どんどんゲームが上達して楽しい』……ってさ」
「あたしも似たようなことを聞かされたよ。まるで信者さ。あんだけ結にサポートしてもらったくせに、クズだなアイツら」
「私のチームと当たったら粉微塵にしてやるわ……!」
火針と二叶は仁義とかを重んずるタイプだから、余計に許せないのだろう。
「つーか聞いた感じ、アイツらかなり強引に引き抜かれたっぽいわよ」
「まさか……洗脳とか……?」
「アンタってたまに物凄いアホになるわよね」
失礼な。半分冗談だってば。
「帰り道に塾の人間に待ち伏せされて勧誘されたってさ。家にまで訪問されたやつもいるらしいわよ」
「へぇ~」
かなりグレーなことしてるね。
「ああ……その話、結の前ではするなよ」
「なんでよ」
「結は勧誘されてないからだ。馬鹿にするように1年生が言ってた。『結先輩はいらないって塾の人が言ってました~』てな」
「ムカつくムカつくムカつく~!!」
結は……仮想体を上手く動かせないらしい。良くて中の下レベルだとか。
VRMMOの世界じゃ仮想体への適応力が低いことは致命的な弱点だ。結自身、それがわかっているからサポートに周った。
そんな自分の才能を直視して、それでもゲームが好きだからプレイヤーとしての道を諦めてまで、あの子はゲームの世界に居ることを選んだ。
あの子の努力を見てきて、あの子のことを笑える神経は理解できない。それに帰り道に待ち伏せして勧誘するような組織も信用できない。どっちも――鬱陶しい。クズの掛け算だ。
「つーわけで、戦力の補充は期待できないみたいよ。どーすんのよ梓羽」
「……仕方ない」
そう、仕方のないことだ。
結の努力を汲んで、結を裏切った連中の鼻を明かすためには、こうするしかない。
「U20の大会には生徒会で協力する。結のために……大会の優勝を目指す」
「きたきたきたぁ! ま! 私は敵になるけどね!」
「良かったなぁ、梓羽と念願の勝負が出来て。しかしVRMMOか。久しぶりに腕がなるよ」
決断した。
決断したら、なぜか心臓が高鳴った。
鬱陶しいな……本当に。
---
放課後。
方針を決めた私は早速旧視聴覚室に足を運び、協力することを結に伝える。
「生徒会長……」
結は瞳に涙を浮かべ、頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「うん。でも約束して。この大会が終わったら生徒会に注力するって。私の後釜はあなたしかいないんだから」
「はい!」
「一応、生徒会に所属する二年生はここにも居るのですが……」
「お前に生徒会長が務まるわけないだろうが」
二叶は扉に足向け、
「じゃ、私はこれで失礼するわ」
「ん? なんでだよ。手伝えよお前も」
「さっきも言ったけど私は別チームで大会に参加する敵よ。聞かれちゃ困る話もあるでしょ?」
「そりゃあそうだけど……」
「手伝えない代わりに生徒会の業務は任せなさい。梓羽! 大会までに万全にしなさいよ」
「うん。努力する」
二叶は背筋を震わせると、スキップで部屋を出て行った。
「早速1時間――ARじゃ3時間か。入ってみようか」
仮想空間内の時間の密度は現実の3倍。
つまり、ゲーム内で3時間経過しても現実では1時間しか経過しない。
「インフェニティ・スペース。ソフトはあるでしょ?」
「は、はい! あります。SDカードさえあれば今すぐにでも入れます!」
結が1年生3人に視線を飛ばす。1年生たちは頷き、準備室に入っていった。フルダイブの準備をしてくれてるんだと思う。
「後でゆっくり紹介しますが、1年生の3人を軽く紹介しますね。おっきなリボンが特徴的な子が飛鳥ちゃん、おかっぱヘアーの子が眠兎ちゃん、頭に鉢巻を巻いた子が音猫ちゃんです」
みんなかわいい。初々しいね。
「準備している間に、こちらどうぞ」
結はインフェニティ・スペースの説明書を私達に配る。
(昨日の内に知識は詰め込んできた。けど……なんか、予め調べていたらやる気満々みたいで恥ずかしい。読んでるフリしよ)
『インフェニティ・スペース』と言えば、ゲームに詳しくない私でも知っている超人気ゲーム。
女性限定のゲームで、主に銃火器を用いて争うゲームだ。
「準備できましたッス!」
音猫ちゃんがヘッドギア型スターアークを持ってくる。
「どうぞぉ!」
「あ、うん。ありがと」
音猫ちゃん、私を見る目の輝きが半端ないんだけど。私なにかしたっけ? 面識ないんだけどな……。
「むっ! 新しいカップリング誕生の予感! あず×ねね! よいではないかよいではないか!」
「お前! 今からダイブするつってんのに百合漫画描くな!!」
「うぎゃあ!? ノートを取り上げないでください火針先輩!」
私はヘッドギアを付け、マッサージチェアに腰かける。
このマッサージチェアによって、ダイブ中に体をマッサージして血流を循環させ、運動不足に陥らないようにする。eスポーツプレイヤー必須の品だ。
「始めようか」
「ログインしたら位置情報をメッセージで送ってください。私が順々に合流していきます」
「わかった。結、ゲームの案内は頼むよ」
「はい!」
ヘッドギアのスイッチを入れ、起動させる。
(久しぶりだな……ゲームの世界に飛び込むなんて)
右手が震えるのは、久しぶりにゲームの世界へ飛び込むことへの恐怖からか。それとも――
【読者の皆様へ】
この小説を読んで、わずかでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと頑張ってほしい!」
と思われましたらブックマークとページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです! ポイント一つ一つが執筆モチベーションに繋がります!
よろしくお願いしますっ!!