第5話 言い訳
「お前……」
「仮想空間への適応力はあるんだから、アンタらならすぐにそれなりの強さまでいけるわよ。私は残念ながら今入っているチームでその大会出るから協力できないけどさ~。マジ名案だわ」
「お前は梓羽と戦いたいだけだろうが!」
「その通りよ! なんか悪い!?」
性根が悪い。
「残念ながらそれは通らないぞニ叶。梓羽はゲーム嫌いだからな、やるはずがない。そしてあたしは梓羽についていく腰巾着。梓羽が乗らないなら乗らない。以上だ。解散解散」
「……」
「梓羽?」
確かにゲームは嫌いだ。やりたくない。一瞬たりとも……それでも、
「ゲームは嫌い。だけど、努力が報われないのはもっと嫌いだ」
「まさか……やるのか梓羽」
「わ、私としては! 先輩方の協力を得られたら鬼に金棒というか! 鬼と金棒が同時に手に入るというか!」
「逸らないで。まだ決めてはいない。あくまで私達が協力するのは最終手段だよ」
結の力にはなりたい。結は本当に良い後輩だ。他人を気遣えるし、可愛いし、努力できるし、仕事もできる。生徒会の業務もこの子のおかげでかなり楽になった。その恩も返したい。
けれどゲームは……やりたくない。ゲームは、嫌なことを思い出させる。
「ごめん結、今日の所は出直す」
「は、はい。お疲れ様です……」
「自分はここに残ります!」
火針と二叶と一緒に旧校舎を出る。
「火針、二叶。明日の午後までに元eスポーツ部に会って部に戻る気がないか聞いてみて」
「了解」
「あいさ~」
それで戻るようなら私が出る必要は無い。後、確認すべきは――
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家に帰り、
「ただいま~」
と言ってみるも、誰からも返事は無い。
ちなみに家にお母さんはいない。
私の母親は戦場カメラマンで、ほとんど海外に居る。父親は……行方不明。今は姉とマンションの一室で2人暮らしだ。
着替えて夕飯の支度をしていると、お姉ちゃんが部屋から出てきた。
お姉ちゃんは私を見つけると、にへら~っと笑って近づいてくる。
「あっずっはっちゃ~ん。今日のご飯はなに~?」
「カレーだよ。お姉ちゃんはまたゲームやってたの?」
「うん。ちょっとだけ」
「それって、私があげたゲーム?」
「そ! インフェニティ・スペース!」
「……」
そう、姉はインフェニティ・スペースをやっている。ここで問題になるのは、
「お姉ちゃんさ、インフェニティ・スペースの大会とか出るの?」
「ん? 今のところ予定は無いけど」
ふぅ。ひと安心。
もしお姉ちゃんが出場するなら、お姉ちゃんのチームと当たった時点でジ・エンドだ。誰が協力したところで、一回戦でお姉ちゃんに当たれば一回戦敗退確実。
良かったね結。とりあえず運ゲーは回避できたよ。
「どうしたの梓羽ちゃん? あ! もしかして! やるの! インフェニティ・スペース!!」
「今のところ予定は無い」
と言っておこう。
「ガーン! もぉ~、思わせぶりなこと言わないでよ……」
お姉ちゃんと戦いたくはない。お姉ちゃんと勝負事はしたくない。
私はお姉ちゃんが大好きだから、絶対に嫌いになりたくないから。だから……。
(お姉ちゃんが出ないなら、大会に出ても……)
ゲームをやっても『いい』。
(そう。これは仕方のないこと。可愛い後輩のため……)
どうせ、塾に移動した連中も戻りはしない。
お姉ちゃんは大会に出ない。塾の連中は戻らない。後輩のため、ゲームが『できる』。
「!?」
私は鍋に掛けた火を止める。
(私はゲームが嫌いだ。嫌い嫌い嫌い嫌い……!)
―――『アイツが生まれてから僕の人生は狂ったんだ!!』
―――『アイツが僕の才能を全部、持って行ったんだよ!!』
嫌な記憶が、蘇る。
――『父さんがお前にする最後の教育だ。他人に迷惑を掛けないよう、お前は1人で生きていきなさい』
「く、そ……!」
「梓羽ちゃん?」
お姉ちゃんが顔を覗き込んでくる。
「大丈夫? 顔色悪いよ?」
「……大丈夫。今日は色々あったから疲れちゃって……」
お姉ちゃんはそのまん丸な瞳で私を見る。
この長い前髪を切れば、少しはみんなお姉ちゃんの可愛さに気づくのにな……。
「お姉ちゃんさ」
「ん~?」
「ゲーム、好き?」
お姉ちゃんはそりゃもう満面の笑みで、
「うん! 大好きだよ!」
「……」
私はお姉ちゃんの頭に手を伸ばして、お姉ちゃんの頭を撫でる。
「? なんで僕、撫でられてるの?」
「さぁ。なんでだろうね」
お姉ちゃんは凄い。私がお姉ちゃんなら、きっとゲームを見るだけで吐き気がしていたと思う。
『好き』は簡単に『嫌い』へと変わる。だけど、『大好き』という感情は――そう簡単に消せないのかもしれない。
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