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第4話 名案

 荒川はボクシングの経験者で間違いない。ステップの踏み方も、構えも、まさにだ。


 最初こそ不良らしく型の無い攻撃を繰り返していたけど、途中からボクシングの構えになっていた。その後もプライドからか、大振りを連発していたけど、それも全部躱されて、なりふり構わず軽いジャブで私に拳を当てようとした。でもそのジャブすら、私は躱す。


 やがて彼は全身に汗を這わせ、ふらつき、最後にはその場に尻もちをついた。

 座り込んだ彼を私は見下ろす。


「ボクシング部はウチに無いけど、どこかのジムにでも入ってたのかな」

「……う、嘘だろ……ジャブすら当たらないなんて……こんなことできるやつ、ウチのジムにも……!!」


 ガラッ! と教室のドアを開けて七宮先生が入ってきた。


「なにをしているお前ら!! 喧嘩なら教師に見つからない場所でコソコソやらんかぁ!」


 これにして一件落着。

 私は一切攻撃をしていないのだから、責められることも無い。証人はいっぱいいるしね。


「あのさ」


 私は項垂れる荒川に声を掛ける。


「何に対してイライラしているのか知らないけど、そのイライラ、どうでもいい他人にぶつけて発散するのはもったいないんじゃない?」

「っ!?」

「……どうせぶつけるなら相手のボクサーにしなよ。君の拳、まともに当たって無事な人間は居ないと思う」


 速度はともかく、その拳から放たれる風圧は凄まじいものだった。


「君がリングに立っている所……見てみたいな」


 不良君の顔が赤くなる。

 ようやく、自分が恥ずべきことをしていたと理解してくれたのだろう。


「あ、えっと……は、はい……! わかりました。ぼ、僕……頑張ります!」


 不良君は殊勝な態度で先生に連行されていった。


「終わったね」


 私は生徒会の面々に向けて言う。


「どこが普通的解決よ! 化物が!」

「……魔性女」

「男女のカップリングは酷くつまらないので辞めてくだされ」


「問題解決したのに散々な言われよう」


 この学校はまだまだ荒れてる。そもそもがまともな中学と言えないしね。


 入学した頃はパワハラ・セクハラ教師が多かった。私が生徒会長になって、その辺りの掃除は済ませたけど、今度は月上だ。彼女の家が校長を掌握して自由勝手にし出した途端、他の生徒も便乗するように自由勝手し始めた。


 だからこそ、生徒会の引継ぎが大切。ノリと内申集めのために始めた生徒会だけど、3年間尽くしてきたから思い入れはある。やっぱり、結には早く復帰して貰わないと。


「火針、二叶、美咲。まだ仕事がある」

「なんとなく察しはついてるよ」

「結のとこでしょ。まだeスポーツ部の部室にいるはずよ」


 何も言わずとも私の思考がわかるとは、これが絆ってやつか……。


「なんでコイツにやけてんだよ」

「相変わらず何考えてるかわからない奴ね」


「ついてきてください! 自分が部室に案内します!」


 eスポーツ部の部室は旧視聴覚室。旧校舎にある使われなくなった教室だ。

 部室に行くと、結の姿はあった。けれど、結以外の生徒は3人だけ。


「あ、生徒会長……それに副会長に二叶先輩も……」


 この広い部屋にたったの3人しかいない。人数に不釣り合いな部屋だ。

 それもそのはず。なぜなら少し前まで部員はもっと多かったのだから。


「結殿~! 自分もいるでありますよ!」

「うん、わかってるよ。美咲ちゃん」


 2年生コンビがギュッとハグをする。


「結。最近生徒会に顔出してないけど……どうするつもり? もう選挙近いよ」


 回り道はせず、率直に切り込む。


「……すみません。今は部活が……」

「あーらら、前は20人もいたのに、今はたったの3人か。ま、仕方ないわね。近くにあんなのできちゃったらさ」

「eスポーツ専門の塾か。名前は確か……『ルミナス』だったか」


 eスポーツは最早1スポーツジャンルとして野球やサッカーに匹敵する人気を誇っている。

 野球やサッカーにクラブチームがあるように、ゲームのクラブチームも続々とできている。ガチな人間はやはり、部活よりもそっちに流れてしまう。


「はい……ウチの部員も大半が引き抜かれて、この有り様です。残ってくれたのは1年生3人だけ」

「部員5人以下だと廃部だったよな。どうする梓羽」

「火針……最悪のパス投げないでくれる? さすがに解体するとは言えないでしょ。でも、現状ロクに活動できない部活に執着するより、私としては生徒会を優先してほしいかな」


 結はeスポーツ部の部長で、この部に対する責任感がある。でもだからって、沈んでいく船と一緒に居ることに意味なんて無い。


「……今月末から、大会があるんです。インフェニティ・スペースってゲームで、U20の大会が」

「げっ」


 バツの悪そうな顔をしたのは二叶だ。確か二叶はインフェニティ・スペースをかなりやり込んでいる。私も何度も勧誘されたし、何ならカセットもプレゼントされた。――姉に横流ししたけど。


 気まずそうなのはきっと、二叶もその大会に出るつもりだからだろうね。


「どうしても出たいんです! ずっと、この大会のために頑張ってきて……! それにこの大会で結果を出せれば、新入部員だってきっと増えるはずです!」

「結殿……」


 美咲が結の横に立ち、頭を下げてくる。


「自分からもお願いです! 結殿は生徒会の激務を捌きながらも、必死に部活のメンバーをサポートしてきた。ずっと自分も見てきたであります! 報われるべき努力です!」

「美咲ちゃん……」

「どうか……どうかやり切らせてあげてくださいませ!」


 こっちに尽力するなら、生徒会選挙には間に合わない。でも時期の問題なら多少は操作できる。


「わかった。生徒会選挙については時期をずらすよう先生にお願いしてみる。他に候補者が居ないなら通るはず」

「あ、ありがとうございます!」

「ただ言わせてもらうけどさ」


 二叶が前に出る。


「そこの見るからに初心な1年生3人と、ずっとサポートに徹してきたアンタでまともに戦えるわけ?」


 言い方はキツいけど正論だ。


「それは……」

「まぁ一回戦惨敗でいいってんなら、止めないけどさ。来年もあるしね」

「惨敗でいいってことは……ないです。このままじゃ、新入部員も期待できないし……実績は欲しい。せめて決勝戦に残れるぐらいには……ここで結果出さないと、来年に希望なんてないんです……!」

「主力を全部搾り取られたこのチームで決勝戦までいけるわけないじゃーん。無理無理」

「……でも、でも……!」


 この流れ、嫌な予感――


「あ! 二叶ちゃん、1つ閃いちゃった♪」


 二叶が悪い笑みを浮かべる。


「頼れる先輩方に、助っ人を頼むってのはどう?」

【読者の皆様へ】

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