第3話 生徒会執行部
放課後は生徒会室にて生徒会業務を行う。
今日は9月2日。10月の初めには生徒会選挙、10月中に生徒会交代。あと一か月でこの面倒な業務ともおさらばだ。受験する高校は決まっていて、私の成績なら試験をパスして推薦が取れるのは確実。当分、暇になるな。
生徒会は私含め5人。だけど今は4人しか生徒会室には居ない。
(結はまた休みか。最近は欠席の連絡すら無くなった。理由はわかるけど、どうしたものか……)
生徒会書記・花宮結。
2年生で、次の生徒会長はほぼ間違いなくこの子になる。この時期、特に出席して欲しいのだけど、いま彼女は厄介な問題に捕まっており、そのせいでこっちに出れない始末。このままじゃ引継ぎ作業が進まない……。
「すみません!」
バタン! と生徒会室の扉が勢いよく開かれた。
「生徒会長、大変です! 1年B組で男子が2人喧嘩してます!」
ポニテの女子生徒だ。まったく面識はない。
必死に助けを求める目――を前にして、私の右腕、生徒会副会長・金剛火針はこう切り捨てる。
「アホ」
彼女は金色の前髪の隙間から女子生徒を睨みつける。
「なぜ生徒会に来る。教師を呼べ教師を」
ごもっともな意見だ。私は湯呑で茶を飲みながら2人の会話を眺める。
「いや、でも……あまり大事にしたくなくて……」
「私が行ってどっちもぶっ飛ばしてやろうか?」
物騒な物言いをしたのは生徒会庶務の虎福院二叶。ピンク色のロングヘアーで、前髪をカチューシャで上げている女子。元不良。寺の娘。口が悪く、なぜか私に付きまとう人。
「アホ」
2度目の『アホ』が出た。火針と二叶の間に不穏な空気が流れる。
「男子2人だぞ。お前じゃ返り討ちに遭うだけだ」
「はぁ? 余裕ですけど。なんなら指一本で倒してやるわよ」
「下がっとけ。ここはあたしが始末する」
と言って立ち上がった火針の右手には、いつの間にかメリケンサック(拳に嵌めて打撃力を強化する金属製の武器)が装備されていた。
「アンタ……いつもソレ持ち歩いてるわけ?」
「痴漢対策にスタンガンを持ち歩くのと変わらん」
「変わるわよ! 女子中学生が護身用にメリケン持ってくるとか聞いたことないっつーの!」
「そういうお前だっていつも木刀を持ち歩いてるだろうがっ!」
「寺の娘なんだから木刀ぐらい持ち歩くわよ!」
「意味わかんねぇよ!!」
元不良2人の言い合いは続きそうだ。
「うへへ……にか×ひば……萌える……!」
会計の初芽美咲はノートを広げ、筆を走らせている。
「コラ美咲! お前は隙あらば百合漫画描きやがって!」
「わ~っ! ノートを取り上げないでくだされ火針先輩~!!」
「ったく、今度は一体どんな――」
火針はノートを見ると、顔を真っ赤に染め上げて、椅子にへたり込んだ。
「……ちょ、アンタ……なに描いたのよ……」
「えへへ……今回は18禁ですぅ」
「13歳が18禁を描くんじゃないわよ!」
「先月14歳になりました!」
「どっちみちダメだっての!」
あんなにアウトローな雰囲気出しといて、火針はアダルトなことに関してはとことん弱いからなぁ。
「あ、あの……喧嘩……」
そういえば男子が喧嘩してるんだっけ。
暴君ハ〇ネロと茶を平らげた私は立ち上がる。
「私が行くよ。もう終わってるかもしれないけど」
「ちょっと、梓羽……」
「どうしたの? 二叶」
二叶は額に汗を浮かべて、
「……やり過ぎないでよ」
「あなた達とは違うから。一緒に来なよ。普通的解決を見せてあげる」
生徒会総出で2年B組に向かう。
教室に近づくにつれ喧騒が聞こえてきた。教室の前に到着。教師に見つからないようにするためか、教室前後のドアはきっちり閉めてあって、生徒が何人か廊下を見張っていた。私達は後ろのドアを開けて中に入る。
「なんだよ~、全然ゴミじゃねぇか」
聞いていた話と違う。
男子生徒が2人倒れていて、金髪のガラの悪い1人が拳に血を付けて立っている。
「樹君!」
私達を呼びに来たポニテ女子が、倒れている男子の1人に近づく。
「おい。そこの生徒。状況を教えろ」
火針が教室の女子に尋ねる。
「……あ、あの……喧嘩の話を聞きつけて、隣のクラスの荒川君が喧嘩を仲裁しに来たんだけど……その……2人が喧嘩をやめても殴り続けて……!」
1年の荒川……そういえば前に教頭先生が要注意人物として名前を挙げてたっけ。
荒川という男子生徒は倒れている男子2人に近づく。ポニテ女子が荒川の前に両腕を広げて立ちはだかる。
「おい、どけよ。女を殴る趣味はねぇ」
「も、もう喧嘩は終わりだよ! 下がって荒川君……!」
荒川という男子は背は並みだけど筋肉質で、眉が無く、金髪のオールバックで、とにかくガラが悪い。事実、あの男子2人を倒しているからそれなりに喧嘩は強いんだろうし、何をしでかすかわからない『危うさ』のようなものも感じる。
火針はメリケンサックを装備し、二叶はどこから持ってきたのか木刀を逆手に持った。2人に任せれば荒川は3か月間病院で過ごす羽目になるけど、この生徒会の切り替えの時期に問題を起こして後の生徒会に迷惑を掛けたくもない。
「美咲。先生を呼んできて」
「りょ、了解であります!」
私は不良君の前に出る。
「おっと、これはこれは……噂の超人生徒会長殿じゃありませんか」
顎を上げ、挑発的な顔をする。『女なんて相手にならねぇ』って顔だ。
「ここは私が預かる。おとなしく引き下がる気はない?」
「アンタが俺の相手をしてくれるなら考えるぜ? 前々から気になってたんだ。艶やかな黒髪、引き締まった体、そんで芸能人顔負けの面……その冷え切った目も最高だ。デートしてくれよ生徒会長。それで俺は拳を引こう」
「断る。けれど……そうだね。今から3分で、もしも君が、私に1発でも拳を当てられたなら、好きにしていいよ」
「おっ!? マジか!! 言ったな生徒会長! 二言はないぜ!」
私は笑う。
「……頑張ってね。こんな普通の女の子に、負けないでよ」
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