第24話 楽しいお買い物 前編
金曜の夜、私はインフェニティ・スペース内で結と合流。
武装や拡張パーツが売っている場所、ウェポンショップに来た。
目的はもちろん、結の知恵を借りて武装を揃えること。
「あの……アズキ先輩」
結はもじもじと人差し指を擦り合わせる。
「なに?」
「昼のことは……忘れてください。その……ホント、すみませんでした。みっともないとこ見せて……」
結は物凄く反省しているようだ。私と目が合わない。
「ユイはしっかり者。だけどその分、1人で抱えがち。たまにはみっともないところを見せるのも大切だよ」
「うぅ……」
でもまぁ、弱い部分を見せられないのは私も同じか。
結は深呼吸し、表情を切り替える。
「わかりました。吹っ切ります!」
気合を入れる結。
決して打たれ強くはないけど、立ち直れる強さが結にはある。
「それにしても驚きましたよ。まさかアズキ先輩に武装を選んでと頼まれるとは。アズキ先輩……ひょっとして、このゲームにハマってます?」
私は後輩相手に容赦なく睨む。
「つまらない冗談はやめて」
「は、はい。すみません」
委縮する後輩はさておき。
私達は武装が陳列されている売り場へ入る。
「もう武装の構成は決めてあるんですか?」
「前に出るガンナーをやりたいから、近~中距離で固めようと思う。Black-Geminiは外せないとして、シールドピースも一旦確定でいい。残り4枠を悩み中」
「オーダー了解です。実は1つ、アズキ先輩に勧めたい武装があるんですよね」
「聞くよ。どれ?」
結の案内でショップの端の方、あまり人気の無い売り場へ来た。
かなり特殊な売り場だ。売られている武器がどれも異質、マイナーだ。鉤爪、チャクラム、トンファー、星球棒……まったくもって私の癖を突いてくる……! ここで1日過ごせるな。
「これです」
結の指の先にあるのは腕輪だ。
ネームプレートには『ブレードチェーン』と書いてある。
「『ブレードチェーン』。手首に装備する腕輪タイプの武装で、好きなタイミングで搭載されたワイヤー付きブレードを腕輪から射出可能。ブレードと腕輪を繋ぐワイヤーは自在に伸縮可能で、刃の部分は脳波で操作することができます」
「ワイヤーで捕縛したり、刃で敵を刺したり、応用幅は広そうだね」
面白い武器だ。突起物に引っ掛けて空中機動もできそう。
「でもなんでこれを私に勧めたの? 確かに嫌いじゃないタイプではあるけど」
大好物だ。
「双銃で手が埋まるので、手で扱うタイプの武器は使いにくいかなと思いまして」
そうか。この腕輪は基本的に脳波で動かすから、手は使わずに済むんだ。
「それにアズキ先輩はどんな武器でも使いこなせますから、この癖のある武器も上手く使えそうだし、ワイヤーで敵の武器を奪って攻撃……なんてこともできる。戦術の幅が一気に広がると考えたんです」
「……ユイ、良く見てるね」
「え!? い、いや、これぐらい経験者なら当然ですよ……」
照れて顔を背ける結。可愛い後輩だ。
「いいよ。これを買おう。右手と左手で1個ずつだね」
「はい!」
私はブレードチェーンを2つ買う。合計で6万チップだった。
チップはあのボクシング大会で稼いだし、金兵党を狩って稼いだ分もある。潤沢だ。財布の心配はいらない。
「後はウィングもオススメですね」
「ウィング?」
「スラスターを強化する武装です。スラスターに取り付けるので、ランドセルと呼ばれることもあります。右翼と左翼で2枠使うんですけど、スラスターの性能を倍程にできるんですよ」
機械の翼が大量に置いてある場所へ案内される。
「ウィングには実翼型と光翼型があって、実翼は実体の機械の翼。光翼はエネルギーで翼を構築するタイプです」
「……重そうだね。身軽さは重視したいんだけど」
「試着してみましょう」
まず実翼型を装備してみる。――ずっしりとくる。
「重い……」
「じゃあ光翼型はどうですかね」
光翼型も装備する。――重い。
「ウィングで1番軽いのってこれ?」
「そうですね……これ以上軽いものだと、アレしか無いです」
結が指さしたのは『ブースター型ウィング』と書かれた武装。実翼型、光翼型は大量にあるのに、ブースター型は1種類しかない。
円形の機器で、大きさは鍋の蓋ぐらいだ。
「他のウィングと違って武装枠の消費が1枠で済みますけど、性能がピーキーで……」
「どんな性能なの?」
「ブースター型はENを消費して爆発的な加速を生むことができます。ただ1回使う毎にウィングの機能がオフになります。脳波で再度ONにして、また発動することはできるのですが、必ず隙間は生まれます。言い方が難しいんですけど……」
「通常のウィングが連射タイプなら、こっちは単発タイプってことでOK?」
「そうですね……大まかに言うとそんな感じです」
ブースター型は対戦車ライフル。1発の威力は高いけど、次弾発射までに間が生まれる。
他のウィングはマシンガン。1撃の威力はライフルに譲るけど、連射が可能と。
「加速力が半端ではないため、大抵のプレイヤーはその加速域に対応できず転びます」
「ふーん。とりあえず使ってみようかな。試運転はできるの?」
「はい! こっちに練習場があります」
練習場とやらに入る。
箱型の広い空間。雰囲気は体育館に近い。
動く的やダメージを教えてくれる人形等々が置いてある。色々なスペースガールが武器のお試しをしている。アパレルショップでいうとこの試着室だ。
ブースター型ウィングを装備する。うん、この軽さなら問題なし。ついでにブレードチェーンも装備。
「ブースターON」
ブースターを発動する。背中に、ハンマーでぶっ叩かれたような衝撃が走る。もちろん痛覚はないので、あくまで衝撃だけだ。
体が正面に跳ね飛んだ。
(つっ……!)
体がくの字になってしまっている。私はなんとか体勢を立て直し、床を滑って着地する。
「やっぱり難しいんじゃ……」
「大丈夫。次でいける」
もう1度ブースター加速。背中を押され、2m飛んだあと、床に足を伸ばし床を蹴る。そのままブースターの勢いを殺さずに走る。
よし、地に足が着けば軸を作れる。
「は、速いし、制御できてる……!」
1度使うと10mは超加速できる。加速が終わると同時にもう1度ブーストを掛ける。これを繰り返し高い加速力を維持する。
難点はブースターを使った際に2mは必ず正面に吹っ飛ぶこと。飛んでいる間は如何なる行動もできない。進路変更も回避も防御も不可能だ。『死の2m』とでも呼ぼうか。
「よし慣れた。いけるね。それと……」
私は右手を振り、右手首に装備した腕輪からワイヤー付きのブレードを射出。ブレードで5m先の人形の首を断ち切る。
「こっちも良い感じ」
「凄いを通り越して恐ろしいですよ……」
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