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シスター・イズ・バーサーカー  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化


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第23話 裏切り者

 金曜日。

 昼休みになって、結が私の教室に駆け込んできた。


「梓羽先輩! 火針先輩! 大変です!!」


 と言って、結は私の机の上に紙の束を置き、紙が風で飛ばないように筆箱を束の上に乗せた。私は筆箱をどかし、紙を1枚手に取る。


「これは……」


 入部届けだ。ざっと20枚ある。

 しかも部活名の所にはeスポーツ部と書いてあるではないか。


「良かったじゃん。これで廃部の心配は無くなったね」

「そんなことないんです……なぜなら」


 そういえばなんか廊下の方が騒がしい。

 私と火針は前扉から廊下を覗き見る。


「きゃーっ! 火針先輩~♡ 私もeスポーツ部入りますからね~!」

「一緒に頑張りましょーっ!」

「梓羽先輩~! マンツーマンで指導お願いします~!!」


 目をハートにした後輩たちだ。

 どういうわけか、私と火針はモテる。それも女子にモテる。厳密には私とニ叶と火針だけど。


「入部届けを出してきたのは全員、2人のファンクラブの子です」

「ったく、なんであたしらにファンなんてついてんのかね。しかも女子」


 別にここは女子高というわけでもないのにね。


「まったくだよ。火針はともかく、私は女の子らしさ全開なのに」

「あたしには女子らしさが無いって言いたいのか梓羽ごらぁ!!」

「先輩方は男子より男らし過ぎるんですよ……」


 結は呆れたように笑う。


「なんにせよ、部員が集まるのはいいことじゃん」

「でも定着はしませんよ。お二人が卒業したら退部するに決まってます。余計な賑やかしはむしろ邪魔ですよ」

「意外に辛辣なとこあるよな、お前」

「わかった。じゃあこうしよう」


 私は廊下の女の子たちの所へ行き、


「みんな、私達は今度大会に出るの。ひとまずは応援団として頑張ってくれるかな?」

「「「ハイ! 誠心誠意頑張らせていただきます!!」」」


 これで良し。

 私は席に戻る。


「応援団っつーことにして切り離したのか」

「そういうこと」

「試合中は選手とそれ以外では隔離されるので、応援の声は届きませんけどね」


 応援団の存在意義。


「あとは大会で()せるしかないね。私達が大会で派手に活躍すれば、何人かはやってみようと思うでしょ」


 結は入部届けを回収する。


「もう、朝からずっと入部希望者の相手ですよ。どこから話が漏れたのやら」

「ま、それも仕事の1部だろ。頑張れよ部長さん」

「ついでに次期生徒会長」

「……多忙が極まります」


 結は忙しそうにしつつも、どこか嬉しそうな顔で教室を去った。

 なんだかんだ部員が増えるのは嬉しいんだろうね。


「ん? おい結のやつ筆箱を忘れてるぞ」


 ホントだ。さっき束を押さえるために乗っけてたやつを忘れてる。

 私がわかりにくい所に置いたせいだな。


「いいよ。私が届ける」


 私は結の筆箱を持って結の後を追いかける。


「あれ?」


 2階(2年生のフロア)にいない。

 ふと窓から中庭を見ると、中庭の隅に結の姿を見つけた。結は4人の女子と話している。


 ただならぬ雰囲気だ。私は階段を降りて中庭に足を運んだ。


「へぇ、それ入部届けか。良かったね。いっぱい集まって」


 私は中庭にある倉庫の壁に身を寄せて隠れる。

 結と女子4人組の会話を盗み聞く&盗み見る。


「結さぁ、生徒会の先輩達を巻き込んだんだって?」

「まさか、今度のU20に出るつもり?」

「なにそれ。あたしらに復讐ってわけ?」


 あの4人は元eスポーツ部か。


「そんなつもり無いよ。私はただ……」


 いじめかな。出るべきか。

 少し悩みどころ。


「結局、結ってさぁ、他力本願だよね。自分に才能が無いからって他人に頼ってばかり。みんな結のそういうとこに嫌気が差したんだよ」


 つい最近まで部活の仲間だった相手からのきつい言葉。結はショックを隠せない。

 そもそも気が強い方じゃない。今の言葉を受けて、僅かに瞳に涙が溜まっている。けれど、


(ここで黙る器じゃないよね)


 私はまだ見守る。結は口を開き、


「私にゲームの才能が無いのは事実だよ……そこは否定しない。だけど、あなた達に他力本願だとか言われたくない。入部してからずっと私のサポートに頼って、今度はルミナスのサポートに頼って……自分で考えるということをしないあなた達に、文句を言われる筋合いはない」


 よく言った。後でナデナデしてあげよう。

 言い切る結。対して、相手グループの反論は、


「……私たちが何も考えてないって、アンタねぇ……!」

「お待ちください林田(はやしだ)さん」


 今までずっと黙っていたぱっつん前髪の女子が前に出る。

 そう、アイツ……アイツだけ、非凡なものを感じる。恐らく、あのグループのリーダー的存在。


姫織(ひめおり)ちゃん……」


 真っ暗な瞳、真っ黒なロングヘアー。

 近寄りがたい歪なオーラを持った女子だ。


「結さんの言う通りですね。私達はサポーターに助けられている部分が大きい。そう、だからこそ、私達は結さんから離れたのですよ」

「……!」

「サポーターの実力がチームの総力に響く。ゆえに、より上質なサポーターを求めてルミナスに入った。ルミナスの講師の方々はどなたも結さん以上の知識と経験がありますからね」

「……それは……」


 大人と子供を比べたら、大人に軍配が上がるのは当然だ。

 と言っても、私はそこらの大人より結の方が優れたサポート能力を持っていると思うけどね。


「悲劇のヒロイン気取りはもうやめた方がよろしいかと。些か滑稽です。結さんに力が無かったのが全ての原因。挑戦すると言うならもちろん受けて立ちますけど、筋違いの恨み妬みだけはよしてくださいませ。それでは」


 言いたいことを言い切って、元eスポーツ部の面々は結から離れる。

 1人、項垂れる結に近づく。


「結」

「先輩……あ、筆箱。すみません」


 結は目を起こし、


「あの、聞いてました?」

「うん。大体全部」


 結はニッコリと笑う。


「好き勝手言われちゃいました。えへへ……」


 泣きそうになる顔を必死に歪めて、笑顔を作る。

 私は結の頭を撫でる。


「結……良く頑張ったね。我慢しなくていいよ」


 結の瞳から、ぽたりと涙が流れる。


「わたし……わたし……! ずっと、みんなのこと考えて……みんなが活躍するために、これまで頑張ってきたのに……!」


 結は私の胸に顔を埋める。


「あんな……あんな言い方ないですよぉ……!!」


 努力する人間は好きだ。真摯に頑張れる人間は尊敬できる。

 逆に……それらを馬鹿にする人間には腹が立つ。


「あなたの強さは、私達が証明するから」


 中学生というのは、不安定だ。不安定で身勝手だ。

 だけど、『中学生だから』という免罪符がどこにでも通用するわけじゃない。私は、身勝手には相応の理不尽で返す。


 ――姫織(ひめおり)……あなたには、手痛い躾が必要なようだね。

【読者の皆様へ】

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