第21話 梓羽と火針 後編
あたしだけが一方的に認知していると思っていた。
だけど違った。梓羽もしっかり、あたしを意識していた。なのに、あたしのバカな行動のせいで失望させてしまった。
全てが、真っ黒に染まった。
――あたしは部屋に引きこもるようになった。
大人の言う事全部無視して徹底的に引きこもった。仕方なく部屋の外に出る時も、一切喋らなかった。部屋の外では声を発さないと決めていた。
父さんも母さんも怒鳴り尽くしていたけど、最終的には『どこで間違えたの……』とか『あんなの俺の子じゃない……』とか、呆れるようになった。
自殺とかはする気なかったけど、家に居るのも耐え難かった。最低限アルバイトできる歳になったら家出して、適当に生きていこう。そう考えていた。
ある日から、両親と『誰か』が話しているような声が聞こえるようになった。連日、両親は誰かとリビングで話していたけど、あたしは興味無かったから無視した。その頃から両親の口数が減っていき、最終的にはあたしに何も言わなくなった。
そして――夏休みも終わる頃。
あたしは暗い部屋で1人、いつの間にかハサミを握っていた。
自分を殺そうとは思ってなかった。ただ、自分が生きている実感が欲しくて、体から血を流そうと思ったんだ。傷みで生を自覚しようとした。
きっと精神が腐り落ちる直前だったと思う。精神が壊れないよう引きこもりはじめたら、今度は腐り始めたのだ。
そう。ギリギリだった。ギリギリのところで――あたしの部屋の扉は蹴破られた。
1人の女子中学生によって。
「あー、いたいた。なにしてるの」
道端で友達に会ったようなテンションでアイツ、梓羽はそう聞いてきた。
「な、なにって……お前こそ、なにをしてんだよ」
「うーん。一言で言うと、勧誘かな。ねぇ、あたしと一緒に生徒会やらない?」
「生徒会……? あたしが……?」
「そう。この先の展望を考えると、私1人じゃ色々と無理があるかなって思ってね。あの中学思っていた以上に腐ってるし。あなたなら私についてこれるでしょ」
梓羽は手を差し伸べてくる。
「あなたが必要なの」
「必要なのって……ふざけるな! できるわけないだろ生徒会なんて! 時間の無駄だって、きっと父さんと母さんに止められる!」
「その心配は無い。――入ってください」
あたしの部屋に、両親が入ってきた。酷く、怯えた顔で……。
「火針。お母さん、生徒会凄く良いと思う。梓羽さんに従うべきよ!」
「悪かったな火針……父さんたちが間違ってた。お前の人生はお前だけのものだ! さ! 梓羽さんと共に生徒会に入るんだ!」
注釈。父も母もいつもはもっと口悪いし、年下に『さん』付けもしない。
「お前、あたしの両親になにしやがった!!?」
「別になにも。何日も通って、己の過ちを自覚させてあげただけ。あと躾がなってなかったから少々教育を……」
「色々してんじゃないか!!」
そう。連日両親と話していたのは梓羽だったのだ。
梓羽は理論的に両親がしてきた過ちについて説いたらしい。
最初は両親に話を合わせ、あたしにしてきたことを聞き出し、その後で指摘した。何度も何度も何度も何度も……元不良の両親がやつれてしまうほどに、2人の醜さを指摘し続けたそうだ。
両親ともに手が早いし、梓羽にも掴みかかったりしたらしいけど、そこは流石梓羽。反射神経という一本刀で、元不良の両親を封殺した。
「体の痛みで心の痛みを紛らわすことはできないよ」
古式梓羽は『おかしい』。その評価は今でも変わらない。
その瞳には、その声には、言葉には、差し伸べた手を取らせる迫力があった。
「金剛火針、私と一緒にきて。傷みを感じる暇がないぐらい、刺激的な日常をプレゼントするよ」
「あたしは……お前が嫌いだ。お前は……私が倒すんだ……!」
引きこもっていた人間が何を言ってんだ、って話だけど、あたしにとって梓羽は目標だった。
だから拒否した。なのに、アイツは何食わぬ顔で、
「そうなんだ。じゃあ、私の後ろを歩きなよ。首が狙いやすい絶好の位置だ」
カリスマ性――とは、こういうのを言うのだろう。
私はつい、梓羽の手を握ってしまった。
「……舐めやがって。上等だ」
この日から、あたしは古式梓羽に忠誠を誓った。
しかし、だからと言って梓羽に勝ちたいという気持ちが消えたわけじゃない。その感情は常に心に燻っていた。
――まさかこんなチャンスが来るとは思わなかった。
ゲームの中のボクシング大会とはいえ、遂にあたしは梓羽と戦うチャンスを得た。
あたしと梓羽は順当に勝ち進め、遂に決勝の舞台に立った。
『赤コーナー・アズキ! 青コーナー・ヒバリ! 共に初心者、なのに無敵!! 両者共に他を寄せ付けない圧倒的な力で勝ち上がりました!! 聞いてくださいこの歓声を! ダークホースだけの決勝戦に、会場は大盛り上がりです!!』
いいぞ。好きに盛り上がれ。
あたしは騒がしい方がテンション上がるタイプだ。
「この時を待っていたよアズキ」
あたしは拳を構える。
「……見せてやるよ!!! 今のあたしの、全身全霊ってやつを!!!」
「すみません。棄権します」
「勝負だアズ――はぁ!!?」
会場が静まり返る。
審判のマイクを通して、会場中に梓羽の声は響き渡った。
「き、棄権!? な、なぜですか!?」
「まだ前の試合のダメージが抜けなくて」
「ゲームなんで回復しているはずですよ!」
「肩が脱臼してるなこりゃ」
梓羽は気怠そうにリングを降りる。
「お、ま、え、ってやつは~~~~!!!」
こうして、あたしの優勝が決まった。
ホント、出会った頃からずっと、いけ好かないやつ……!
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