第2話 古式梓羽
「次! 古式梓羽!」
「はい」
返事をし、私は列から離れ前に出る。
今から私がやるのは、一言で言えば『障害物競走』。いや、別に競う相手はいないから『障害物走』とでも言うべきか。
目の前には大量の障害物。某スポーツ番組を思い出すレベルだ。
女子中学生の身体能力では確実にクリア不可能。だけど、いま私たちは女子中学生の身体能力を遥かに超えた体を持っている。バーチャル空間だけで使える仮想の肉体を。
私は目の前の急斜面の坂を駆け上がり、プールの上を浮き輪の足場だけで渡り切り、迫りくる巨大ローラーを躱し、直進。そのまま21の障害物を全て突破する。
「『仮想体・運動テスト』クリア! クリアタイム2分30秒! スコア98.5!」
次にやらされたのはタイピングだ。目の前のPCの画面に表示された文字をひたすら打ち込む。
神経伝達の速さ、視神経の感度も当然強化されているため、現実よりも速くタイピングができる。
「『仮想体・タイピングテスト』クリア! スコア98.8!」
今度は閉鎖された空間で同時に4種の音声を聞かされた。それぞれ簡単な数学問題を口頭で読み上げている。問題を全て聞き分け、その答えを言えるかどうかを試すテスト。気分は聖徳太子だ。
「Aが12、Bが-6、Cが4√3、Dが3/1」
「全問正解です。以上で『仮想体・聞き分けテスト』終了です。スコア100」
こんな感じで16種のテストをやらされた。残りは2種。
次に反射神経のテスト。これはよくあるやつで、目の前にある無数のボタンの内、赤く光ったボタンをいち早く押すというもの。
「『仮想体・反射神経テスト』、スタートです」
赤く光ったボタンを反射的に押していく。
何も考えない。ただ光ったボタンを押すだけ。ボタンを押すとすぐさま次のボタンが光る。フルオートで処理していく。
後ろで見守っている生徒から「おぉ~!」という声が聞こえる。最初こそ驚きと好奇を孕んでいたその声は、やがて引き気味の声に変わり、最後は絶句へと変わる。
「か、『仮想体・反射神経テスト』……スコア100です」
そしてようやく最後――動体視力のテスト。
両手にグローブを装備し、野球のバッターボックスのようなところに立たせる。そして距離20mの位置にある機器から、自分の手の届く範囲に向けて野球ボール程の大きさのゴムボールが放たれる。このボールを、グローブの手のひらで受けるというテストだ。
「『仮想体・動体視力テスト』、スタートです。まず時速80kmから」
高速スピンの掛かったボールが放たれる。それを右手でキャッチする。
「ボールに書かれていた文字は?」
「『A』です」
「正解」
ボールを手のひらで弾くorキャッチし、ボールに書かれていた文字や数字を当ててクリア。ちなみに手のひらにボールが触れた時点でボールに書かれた文字は消える。
3度までミスしてOKで、成功する度に時速10km上がる。
時速90km、クリア。時速100km、クリア……時速120km……時速160km……時速200km……時速220km……240……260……。
「数字の『7』」
「じ、時速300km……クリアです。『仮想体・動体視力テスト』、スコア100です」
もう終わりか。
限界まで試してみたかったな。
「『あ』、『12』、『J』、『@』、『29』、『L』」
「えっと、なんですかそれ……?」
「両隣のレーンの子が、答えられなかった文字と数字です」
「は……!? い、いや、そんなわけ……!!」
計測係の先生は隣のレーンで計測していた先生たちに答えを尋ね、その顔を真っ青にさせた。
これにて仮想体のテスト終了。
私はログアウトし、現実世界に帰還する。
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「よっ」
現実の教室、自分の席で目を覚ますと、先に帰っていた友人――金剛火針が私を迎えた。
火針は金髪のロングヘアーで、頭にベレー帽を被っている女の子。ちなみにベレー帽を被っているのはアホ毛隠しのためで、ベレー帽を脱ぐと三日月のようなアホ毛が出て超かわいいので必見だ。
「どうだったよ梓羽。仮想体テストの平均スコアは?」
「98.9」
「はーっ!? バケモンだな……相変わらず」
「火針は?」
「95.5だよ。自信無くすな……」
「全国平均は大体65とかでしょ。全然上澄みじゃん」
「そりゃそうだけどさ」
どうやら私に勝ちたかったようだ。悔しさが顔に滲み出ている。
「ご苦労だったな梓羽」
そう話しかけてきたのは担任の七宮先生だ。
「お前が学年トップだよ。担任として鼻が高いね」
「ちなみに2番はあたしだよな、先生」
「残念。お前は虎福院と同じスコアで同率3位だ」
「なぬ!? じゃあ2位は……」
「98.8で月上天祢だ」
「げっ! アイツ来たのか!」
月上天祢。
1度も授業に来ていないのに、ウチの中学では知らない人間がいない有名人。
「夏休み最終日に個人的に計測したいって言われてな。休みなのに私を含めた計測係は全員集合。アイツ1人のために休日返上だ」
「完全に生徒の奴隷になってますね」
「仕方ないだろ。上司である校長がアイツの両親の靴を舐める始末なんだ。月上家は相手には回せないからな、もう必死さ」
登校したのは入学式だけ。テストは基本自宅で受け、足りない出席日数も校長を家に通わせることでクリアしているらしい。
わかっているのは名家の人間であるということ。これまで全てのテストで最高レベルの点数を叩きだしているということ(不正のあるなしはわからないけど)。傍若無人であるということ(噂レベルだけど)。
同学年でありながら、中学3年の9月に至るまで1度も接触したことは無い。
「ちなみに先生、この中学の最高記録保持者って誰なんですか? やっぱり、梓羽ですか?」
火針の問いかけ。答えはわかり切っている。
なぜならこの中学にはあの怪物が在籍していたのだから。
「いいや、歴代1位は――古式レイ。平均スコア99.6」
私の姉である。
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