第17話 ハジメ
『レディース&レディース!!! お待たせしました。血沸き肉躍る拳闘大会! ガールズコロシアムのお時間です!!』
控室のテレビから会場の様子を見る。
司会者がマイクを持ち、リングの上で場を盛り上げている。会場の歓声がここまで届いてくる。
火針は試合が近いため、もう控室にはいない。すでにリング近くで待機している。
『主催はもちろんこの方! 『火緋色金』のキング! PPP!!!』
ワアアアアアアアアアアア!!! と会場が盛り上がる。
サングラスをした背の高い金髪女が天井付近からゴンドラに乗って下がってくる。一定の高度まで下がると、女は飛び降り、リングに着地した。
『民たちよ! この世で1番美しい者は誰だ!!』
『『『P! P! P!』』』
『この世の王は誰だ!!』
『『『P! P! P!』』』
『盛り上がり! 熱狂し! 果てろ!! ガールズコロシアム……レディィイイイイイイ――』
ゴー!! と客が言い、大会が始まる。
PPPはゴンドラに乗って、1番リングが見やすい位置で止まった。あのゴンドラ、よく見るとメイドも乗っていて、PPPにワイングラスを渡している。王様気分……というか実際に王様か。
「……アホくさ」
早くヒバリの試合こないかな。
オープニングが終わると第1試合が始まった。うん。結構良い動きする。見応えある。
と思ったら第2試合は酷い有様だ。掴みは無しなのに、最終的には髪を引っ張り合ってた。
というか、私やヒバリみたいな実績のない人間を参加させるあたり、敷居は低いんだろうね。素人同士の取っ組み合いも、それはそれで無様で面白いという考えなのかもしれない。PPPという女からはそういう厭らしさを感じた。
『第3試合! 赤コーナー、ナデシコ! 前大会準優勝の実力を見せられるか!』
凄い歓声。あのドレスの人、人気あるんだ。
『青コーナー、ヒバリ! まだインフェニティ・スペースを始めて数日のペーペーだ! 一矢報いることはできるか!』
プレイヤーの衣装・武器は統一されている。ボクシングウェア・ボクシングパンツ・グローブだ。コーナーによって色は分けられている。
私もすでに着替え済みだ。私は赤コーナーの予定なので全部赤で統一。ボクシングウェアはへそ出し、肩出しだからちょっぴり恥ずかしい。女子しかいないし別にいいんだけどさ。
実際のボクシングでは赤コーナーが上位のプレイヤーとか、そういうルールがあるらしいがこの大会においては色はランダムだ。赤と青で差は無い。
(相手の頭かボディの耐久値を0にしたら勝ち。制限時間は100秒。100秒経っても勝負がつかなかった場合は判定勝負になる。まぁ、ヒバリに限って時間切れはないかな)
ゴングが鳴る。
ナデシコは基本に忠実。両拳を上げ、ガードを固め、突進する。一方でヒバリは両拳を下げたままだ。ゆらりゆらりと体を揺らし、タイミングを見て飛び出す。
ナデシコのジャブの連発をヒバリは体を振って避け、右拳でナデシコの頬を殴り抜ける。
無型。ヒバリは生粋の喧嘩屋、その格闘術に型はない。避けやすいように避け、殴りたいように殴る。
ナデシコは足運びから察するに柔道経験者。真面目なスポーツファイターだ。ゆえにヒバリの型の無い攻撃に面を喰らって一方的に攻められてしまっている。
『こ、これはどういうことだーっ!? 一方的! 一方的です! あのナデシコ選手が一方的に嬲られている!!』
通常のボクシングと違って、ダメージの蓄積による意識の混濁や神経の麻痺は無い。どれだけ圧倒されようと、決着がつくその時まで肉体的ハンデは一切無い。
でも心は別だ。ナデシコは理解できない動きをするヒバリを完全に恐れてしまっている。自分のスタイルを見失わず、実直に攻め続ければヒバリを崩せた可能性もあったけど、ああなってしまったら終わりだ。
ヒバリだってナデシコのスタイルは読めていない。お互いに敵のスタイルを理解できないのなら、受けではなく攻めに周るべき。勝負を分けたのは攻め気の差。
ヒバリのストレートがナデシコの顔面に突き刺さり、遂にナデシコの顔面が破壊される。ナデシコはデリートされ、リングにはヒバリだけが残る。
「しょ、勝者、青コーナー・ヒバリ!!」
ダークホースの誕生に会場が湧き上がる。
「ナデシコさんが負けた……!?」
「なんだあれ、ホントに初心者かよ……」
「と、とりあえず、前大会2位が敗退したのは喜ぶべき……かな」
控室も大盛り上がりだ。
「やや、やるじゃないか。君のともだち! 君も相当強いのかな?」
ラバーが話しかけてくる。表情を見るに、動揺してるね。
「どうだろうね」
私は軽く受け流す。ラバーはムッと唇を尖らせ、「ふん」と場を去った。
試合が進んでいき、私の番が近づくと係員に呼び出された。
私は赤コーナーの会場入り口前に立たされる。私の他にも赤コーナーの待機選手は4人居て、並んでいる。
ゴングが鳴り、誰かが勝って誰かが負けた、その時――
「……温っちぃなぁ」
背後から、ボソッとした声が聞こえた。問題は声の大きさじゃない。圧倒的なそのオーラ。
私はつい飛びのき、声の主から距離を取った。
「っ!?」
初めての経験。
突き刺すような怒気。殺意との邂逅。
「どいつもこいつも、ゲームを遊んでやがる」
雰囲気はまるで軍人だ。現に軍帽を被っている。
灰髪緑眼の少女。なぜだろう、この相手を見てると……全身がざわつく。
「列を乱さないでください」
係員に注意されてしまった。
「すまない係員殿。すぐに列を直そう」
と、注意されたのは私なのに、なぜか軍帽の少女が頭を下げた。
「規律を乱すなアズキ。祭りの場であっても、ルールは守るべきだ」
正しいのはあっちだ。私は「ごめんなさい」と謝り、列に戻る。
この子がヨーコかな。虚空をなぞってシステムメニューを開き、名前を確認してみる。名前は――『ハジメ』。ヨーコじゃない。
(ハジメ……)
奇しくもその名は、私の知ってるある人と同じだ。
「困ったものだな。つまらないファイターばかりだ」
腕を組み、ため息をつくハジメ。
「次のあなたの相手、5連覇のチャンピオンだよ? 相手に不足ないと思うけど」
「大有りだ。悪いがもう『飽きた』」
飽きた? 何に?
「それに、5連覇なんて大した自慢にはならない。王者は勝って当たり前だ」
お姉ちゃんの包み込まれるようなプレッシャーとは別。突き刺すようなプレッシャーだ。只者じゃない。
「アズキさん、そろそろ出番です。レフェリーに名を呼ばれたら入場してください」
「はい」
名を呼ばれ、入場し、リングに上がる。
リングにはすでにラバーが立っている。
「お手柔らかに頼むよ」
「……」
「おやおや、さすがに緊張しているのかな? 私のこの圧倒的なオーラの前に!」
(あの軍帽の子……)
勝ち上がってくるかな。
なんだろう、この気持ち……ちょっとだけ、戦ってみたいかも。
初対面の相手にこんな感情を抱くなんて――
『前大会ベスト4のラバー相手に素人のアズキは何秒もつのか! 試合開始!!』
ゴングが鳴る――と同時に、私は飛び出す。
「ちょっ、待っ!?」
繰り出される拳を避け、殴る。拳を避けて、殴る。避けて殴る、
「ぶっ!? がっ! ばっ!? はぁっ!!?」
避けて殴る、避けて殴る。避ける殴る殴る避ける殴る殴る殴る殴る殴る――
『し、試合終了!!』
いつの間にかラバーの顔面は砕けていた。
『KOタイム……8秒! あ、あのラバーが! 大会最速タイムでKOされました!! ラバーの拳は1発たりとも、体のどの部位にも当たらず撃沈!!! 勝者アズキ!!!!』
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