第15話 S&W-M500 Black-Gemini
「S&W-M500は.44マグナム弾の3倍以上の威力を持つ.500S&Wマグナム弾を撃つことができるリボルバーです。別名『ハンドキャノン』。非常に重く、非常に反動が強く、そしてバレルが長いのが特徴です。その強烈な破壊力から一時期は最強のリボルバーとして君臨していたそうです」
と、清楚可憐な後輩がネットで得た知識を披露してくれた。
「S&Wは知ってるよ。問題は“Black-Gemini”が付いたことで何が変わったのか」
S&Wは有名な銃だ。あのガンマニアの姉を持つ私が知らぬはずなし。
「まずカラーリングが基本のシルバーではなく、全身ブラック。銃身は3cm延長されたみたいです」
(ただでさえ長いあのバレルを更に延長したんだ……)
携帯性悪そう。
「装弾数はモデルと変わらず5発。反動はかなり軽減されているみたいです。女の子でも扱えるぐらいの反動しかないみたいですよ。そしてもちろん、最大の付加効果は壊れないこと。『不壊』……この銃は如何なる攻撃を受けてもダメージを負わないそうです」
「壊れないリボルバーか」
銃身を延長させたのは少しでもガード範囲を広げるためかな。
「もう1つBlack-Geminiの特徴がありまして、この銃、二丁で1セットなんですよ」
「どういうこと?」
「二丁セットでS&W-M500 Black-Geminiなんです。これを装備するためには武装枠を2つ消費し、実体化すれば必ず二丁同時に実体化され、データ化する際も二丁同時に消える。二丁のBlack-Geminiは常に共に居ないとダメで、2つの銃の距離が5m以上離れるとアンブレイクの効果は切れる……らしいです」
双子座と名付けられた理由が何となくわかった。
「リボルバーを双銃前提で運用しろってことか……これは大変だ」
主にリロードが。
「結から見て、弱点はある?」
「大有りですね。そもそもインフェニティ・スペースは実弾銃がすっっっっごく弱いんです。余程の酔狂でない限り、みんなレーザー銃を使ってます。壊れないというのは凄いですけど、攻撃力は皆無と考えていいですね」
結は「ただ……」と言って考え込む。
「……壊れない、という特性を逆手に……うまくいくかは微妙だけど、うまくいけば攻撃力も……」
「結?」
「あ、すみません。ちょっと考え事を」
結は咳ばらいを挟み、
「それにリロードも手間です。装弾数5で手動のリロードは使いづら過ぎます」
特にリボルバーはリロードの手間が多いしね。攻撃力が無いだけに留まらず、リロードも簡略化されていないと考えると……武器としての運用は難しい。
「レーザー銃なら30発以上ゆうに撃てますし、リロードは多少時間はかかるものの自動的に行ってくれる。正直、私はまったくこの銃をオススメできません」
「壊れないだけで十分だよ。最悪、鈍器として使えばいい」
それにしてもリボルバーか。
昔お父さんと一緒に観てたアニメを思い出すな。あの主人公が使っていたのはコルトパイソンだったっけ。
「入手方法はわかってるの?」
「は、はい……それが……」
結はスマホを操作して、画面をこちらに向ける。
画面に映されていた文字は――
「“ガールズコロシアム”?」
「はい。インフェニティ・スペース内で開かれるイベントで、このイベントの優勝賞品がBlack-Geminiなんです」
「どういうイベントなの?」
「簡単に言うとボクシングの大会です」
銃撃戦が肝のゲームで殴り合いをしろと?
「武器は配布されるグローブのみ。システムで互いのステータスを揃えて殴り合い、相手の頭か上半身の耐久値を0にしたら勝ち。PPPというプレイヤーが主催していて、このプレイヤーが狂人というか……女子の殴り合いが好きな人なんです」
「変なの。でもステータスを揃えるってことはレベル差のハンデは無いってコトでしょ。初心者でも上級者でも条件は変わらないわけだ」
「やっぱり、出ます?」
「うん、私と火針で出よう。副賞で2000万チップか、おいしいじゃん。準優勝者には特殊外套と500万チップだってさ。両方合わせて2500万チップ」
Gemini抜きでも出たいぐらいだ。
開催日は次の土曜か。
「わかりました。先輩2人をエントリーさせておきます」
「ありがとう。任せたよ、結」
今は昼休み。私と結は珍しく2人で食事を摂っている。
場所は屋上。落下防止のフェンスの傍。気温はそれなりに高いけど、風は涼しい。
私はお弁当を、結はサンドイッチを食べている。
「結……そのサンドイッチ、お母さんのお手製?」
タッパーに入っているからコンビニとかで買ったわけじゃないはず。
「いえ、私が作りました。好きなんです、料理。今日はこのチリソースカツサンドが傑作です」
「朝にカツを作る時間あるの?」
「前に夕飯でトンカツを作った時、余った豚肉に衣を付けて冷凍しておいたんです。後はサラッと揚げるだけなんで朝の時間でも作れますよ」
チリソースのカツサンド……美味そう。
私も自分で弁当作ってるけど、ここまで凝ったのはさすがに作れないな。
「そういえば梓羽先輩、辛い物好きなんでしたっけ?」
コクリ、と頷く。
「それじゃ、これあげますよ。あーん……なんちゃって」
結がカツサンドを掴んで私の口の方に寄せて来たので、私はカツサンドにかぶりつく。
「え!?」
「はむっ、はむっ」
そのまま食い進め、平らげる。
「ごちそうさま」
口の周りをチリソースを舌で舐めとる。
「梓羽先輩ってクールですけど、結構ノリ良いですよね。はっ!」
結はキョロキョロと辺りを見回す。
「み、美咲ちゃんは居ないですよね……!? こんな現場見られたらまた余計な妄想を――!」
「いるよ。塔屋の上」
「なぁ!?」
屋上の突き出た建物の上で、美咲はスマホ片手にうつ伏せになっている。
あそこは上っちゃダメな所だ。生徒会長として、後で注意しとこ。
「こらーっ! 写真撮ったでしょー! 消しなさいー!!」
「後生でござる! 後生でござる! これだけは家宝にさせてくだされっ!!」
屋上で追いかけっこを始める2人。
(仲いいな……)
それにしてもボクシングの大会か。
Black-Geminiには正直そそられるものがある。本気で勝ちにいこうか。
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