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閑話 ライゼス・ブラックウッド前編

 学園からルヴェデュの町にソレイユを送ったとき、予め仕立てておいたソレイユの服一式は彼女に気づかれないうちに、彼女の母に託しておいた。


 祭が終われば学園に戻らなければならないから、ソレイユが心配だという理由をつけて、祭の二日目に迎えに来ることを伝えると、彼女の母は楽しそうに引き受けてくれて、どうせなら隠しておいて当日驚かせるといいと提案してくれたので、ありがたくその案に乗った。


 後に聞いた話だと、ソレイユだけが服の送り主に気づいていなかったということだ。

 僕の髪色と同じで、僕の目と同じ色のレースを使っているのには気づいたのに。

 どうしてなんだろうな、時々とても鋭いのに、時々果てしなくポンコツになるのは。


 そんなところも愛しいのだけどね。


 何も知らないのに、それでも僕色のその服を喜んで着てくれたのが嬉しい。

 ああ、その場にいたかったな。


 学園でダンスの時に着るドレスは、周囲の余計なやっかみを回避するために青は避けられてしまったけれど、ルヴェデュの町で着るワンピースならば誰の目もはばかることはない。


 く気持ちをこらえてようやく町に着き、予め事前に落ち合う予定だったバンディ・ダインと合流し、ピオネル・エンネスという男爵子息の愚行についてとソレイユの動向について報告を受けていた時だった。


 ソレイユの左手首に着けていた彼女の居場所を伝えてくれる魔道具が、緊急の信号を発した。


 彼女の意思がないと切れないその魔道具を、彼女が切ったのだ。

 他の人間に説明する時間も惜しく、身体強化と反重力の魔法を駆使して彼女の居る場所へ向かう。




 果たして。



 ソレイユが緊急信号を発した場所で、ピオネル・エンネスが馬車に乗り込もうとしているのを発見し、咄嗟に蹴り倒していた。

 初対面の人間を蹴り倒すなど、この時が初めてだ。

 別件の重要参考人であるので、捕縛する予定ではあったので躊躇はない。


 とはいえ、貴族の子息であるのに、不意打ちとはいえ魔法も使っていない一撃で昏倒するというのはどういうことなんだ。学園を出た人間ならば、この程度の攻撃は、防げずとも耐えることはできるものなのに。

 後日、ピオネル・エンネスの最低な成績と実技能力について学園の教師から聞き、貴族としての責任感と能力の無さを確認して大いに呆れることになったが、それは後の話だ。



 ソレイユが乗せられた馬車を留めていると、中にソレイユ以外の人間がいることに気づき、すぐに踏み込みたいのを我慢して聴力を強化して中の様子を探る。


 貴族ならば盗聴阻害の魔法を使うが、庶民にその魔法はほぼ浸透していない。

 学園でももうそろそろ、盗聴盗視防止や心身の防御など、貴族や商人にとって必須の自衛のための魔法を習うことになるはずだ。


 ドア越しに聞こえるその女の勝手な言い分に、目が眩むような怒りを感じる。

 女が外の様子を窺うためにドアに取り付いた瞬間を見定めて、ドアを開けて、出てきた女を重力の魔法で軽くして思い切りぶん投げた。

 ソレイユとの遊びで散々試したので、危険が無いことは承知しているが。日常ではあり得ない落下は、あの女に恐怖を与えるだろう。


  *  *  *


 その後、無事にソレイユを助け出しダイン家に送り届け、今回の騒動の詳細を確認することになる。


 使用を禁じられた魔道具をピオネル・エンネスが使ったこと、ソレイユを愛人にするというふざけた発言にダンスでの愚行、手下を使ってダイン家に行おうとしていた犯罪の詳細などを、長男であるカシュー・ダイン及び冒険者アレクシスから詳しく聞き取った。

 アレクシスは僕たちがダイン家に着いた時、先頭に立って暴漢たちを自警団に突き出す手伝いをしていた。彼はアザリアの遺跡の攻略者で高ランクの冒険者でありながらも気さくな人物だった。

 ピオネル・エンネスのことがあり、前倒しでレベッカ・ダインと結婚したことを聞き、なるほど身内になる男だからダイン家からも信頼が厚いのかと納得した。


  *  *  *


「自分も尋問を見てもいいですかね」

 自警団の詰め所で暴漢たちを引き渡す際、人のよさそうな顔でそう願い出てくるアレクシスに、自警団は難色を示したが、尋問には領主代理として僕も参加すると無理を通した結果、アレクシスの同席もなし崩しに認められた。


 自警団の詰め所に併設されている牢に捕らえられているのは、ダイン家を強襲しようとしていた金で雇われた男たち及びピオネル・エンネスの護衛として周囲にいた男たちと御者。

 それからソレイユをいいように使おうとしていたナタリア・クロス、この女は今回だけでなく、ソレイユが十一歳の頃の手紙にあったあの『熊の一撃亭』の女主人であったのを聞き、一度ならずも二度も三度もソレイユに迷惑をかけている人間であることがわかった。

 そして主犯であるピオネル・エンネス。

 かなりの大人数で牢は埋め尽くされている。

 自警団が下っ端の方から尋問をはじめており、僕らが追加の男たちを連れて来た際に顔を引き攣らせていた。


「自分もこいつらの尋問のお手伝いしていいですか? 尋問は、何度かやったことがありますから、力になれますよ」

 アレクシスが有無を言わせぬ笑顔で、困惑する自警団員に詰め寄っている。


「うちの妻を攫おうとした奴らなので、詳しく話を聞きたいのです。ええ、本日レベッカ・ダイン嬢との婚姻の届を提出し、受理されましたので、夫婦となりまして」

 照れているアレクシスに、若い自警団員はショックを受け、年かさの団員は手放しで祝っていた。

 羨ましい、僕もソレイユと結婚して、彼女を妻と呼びたい。

 それはいいとして、彼の気持ちもわかるので援護し、尋問する権利をこちらにいただくことにする。


 自警団の上層部は領主の息の掛かった人間なので、ある程度の融通は利かせてもらえる。

 元々自警団にこの人数及び貴族の尋問は荷が重いのだ。領主代理として引き継いだ方が面倒が無いと言えば、納得してくれた。

「大丈夫ですよ、決して殺したりはいたしませんから」

 自警団をまとめている人物にゆるりと笑って伝え、持っていた領主である父から預かっていた書状を見せて納得させる。


 彼に見せたのはエンネス男爵に関わる領主からの委任状で、今日ソレイユを迎えに来るのと引き換えに受けた仕事だ。

 父の領主としての勘なのだろうが、いいタイミングでの依頼だった。


 これにより、すんなりと僕たちに尋問の権利が与えられた。


  *  *  *


 尋問部屋は防音などに配慮し地下にある場合が多いが、ここでも地下に作られていた。

 尋問部屋に通じる厚いドアを閉じると、独特の匂いが籠もっていたが、トリスタンが素早く魔法で空気を入れ換えた。


 尋問部屋は二つあり、既に広い方には暴漢たちが、狭い部屋にはピオネル・エンネスとナタリア・クロスが入れられている。

 ピオネル・エンネスの護衛をしていた男たちは、自警団により既に尋問を終えており、上の牢屋の方にいる。


 尋問部屋のドアに付けられた窓には格子が嵌まっており、遮音の魔法を使わなければ双方の音は丸聞こえになる。


「趣味のいい造りだな」

 一緒に来たアレクシスが緩く笑って呟く。


 自警団の人間は、祭で浮かれて羽目を外す人間などの対応で忙しいから大変だろうと言いくるめて、僕たち三人だけにしてもらった。


「君には悪いが、主犯は僕がもらうよ」

「残念ですが、仕方ない」

 本当に残念そうにする彼が、ゆらりとその目を光らせた。

 人の良さそうな男に似合わぬ、剣呑な目にぞくりと背筋が震えた。さすが高レベルの冒険者といったところか。


「手に余るようなら、いくらでも交替いたしますから、どうぞ声をお掛けください」

 そう言う彼に、笑みを返す。


「手ぬるい仕事をするつもりはないよ」


 お互い笑い合い、それぞれの扉を開けた。

さぁ、お仕置きの時間だ――



次話、血湧き肉躍る程々に痛々しい表現がありますので、ご注意ください。

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誤字脱字報告、大変、大変っ助かっております! ありがとうございます!! ゜・*.✿*書籍化決定しました!*✿.*・゜ 読んでくださる皆さまのおかげです! ありがとうございます。°(°´ω`°)°。ウレシ泣キ
― 新着の感想 ―
☜(ರ_ರ)「さあお前の罪を数えろ」
ほお……だ、男性陣怖い.((((;゜Д゜)))))))gkbr…
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