4.白毛狐犬
どうやら、ユキマルはヒーリングライトが好きらしい。
わたしがおでこから出しているライトを浴びてぴょんぴょん飛び跳ねている、瀕死だったのが嘘のようだよね。
「カワイイなあ」
光量を細く絞ったライトを左右に振ると、それを追いかけるのがまたカワイイ。
「戦力にはなりそうにないですね」
「ユキマルは、マスコット! 心の癒やし担当だからいいと思います」
冷静に分析するトリスタンに、慌てて抗議する。
「魔物は光を倦厭しがちなのに、ユキマルは敢えて浴びに行くというのが面白いね。白い毛並みも、それに関係あるんだろうか」
ライゼスも素直にユキマルの可愛さだけを堪能すればいいのに、小難しいことを考えているようだ。
魔物との遭遇を最低限に抑えて、ダンジョンを出た。回避できなかった魔物との戦闘のあいだ、ユキマルはおとなしく壁の隅っこで丸まっていてくれたので、邪魔にならなくてよかったんだけど……目に見えてブルブル震えてるのが可哀想だ。
本当に、よく生きていたなと思う。
でも、何度か魔物との戦闘はあって、震えてはいたけど逃げ出さなかったし、ちゃんと一緒についてくるのでもうウチの子確定だ。
学園の寮には連れて行けないので、そのあいだは実家で番犬にしてもらおう。……番犬になるかな。ダイン家に受け入れられなかったらどうしよう。
そんな不安は杞憂だった。
末っ子のカティア六歳が、ユキマルを抱きしめて離さない。
「ユキマルはカティアが立派に育ててみせます!」
いや、ユキマルは、カティアよりも年上だよ。ステータスで調べたら十二歳って出てるから。なんならティリスとディーゴの双子と同い年だ。
「ユキマルはわたしの使役獣だけど、寮には連れて行けないから、その間はカティアが面倒見てくれる?」
「みる!」
カワイイ顔をキリッとさせて宣言するのがカワイイよね。その上、腕の中でフワフワの白い毛玉がキュルンとしてるんだから、カワイイが飽和している。
「可愛らしさが天才的だわ」
「同意」
長女レベッカの言葉に強く頷く。
「こんなに白い狐犬なんて、珍しいねえ。大きくなるまで成長できたのは、本当に素晴らしいねえ」
父もしげしげとユキマルを観察している。
「今後外飼いにするにしても、慣れるまでは、家の中でいいだろ?」
二男のバンディが、部屋の邪魔にならない所にユキマル用と思しきスペースを作っている。使い古しのクッションが寝床によさそうだね。
「ええ!? ずっとお家の中でいいよ!」
いつもはおとなしい三女のティリスが、力いっぱい主張する。
「ユキマルちゃんは、何を食べるのかしらね」
母が食事の心配をしている。
「なんでも食べられるって。生肉でも、野菜でも」
それもステータス情報だ、飼育方法までわかるのが本当にありがたい。
「あら、それならいいわね」
母に撫でられ嬉しそうに目を細めて、尻尾を振っている。よしよしいいぞその調子だ、母に気に入られたら安泰だからね。
こんな感じで、もしかしたら飼えないかもという危惧は杞憂で、ユキマルは無事にダイン家の一員に加わった。
アザリアの遺跡から出て魔石以外のアイテムを冒険者ギルドに売却し、ユキマルの登録をしてから、ライゼスのお家の馬車でウチまで送ってもらったんだけど家に着いたのが遅い時間だったので、ライゼスたちは挨拶もそこそこにすぐに町に向かってしまっている。
「ソレイユ、学園はどんな調子だい?」
夕食の後にくつろいでいると、父が聞いてくる。
「楽しいよ。レベッカ姉さんと想定したみたいな嫌がらせとか、今のところないから、ちょっと残念だけど」
「残念がるなよ、そんなもん」
二男が呆れ声でツッコミを入れる。
「二人部屋なんだろ? 相手に迷惑は掛けてないか?」
長男が心配そうに聞いてくるが、わたしが迷惑を掛ける前提なのは間違ってると思うよ。
「迷惑なんて掛けてないよ、取ってる科目もかなり同じで、部活も一緒に頑張ってるよ」
オブディティは前世持ちという共通点もあるしね!
「友達ができてよかったわ。でも、ソレイユと気が合うってことは……」
「変わったヤツなんだろうな」
「バンディっ!」
「ムウッ! ムウッ!!」
わたしが二男に怒ると、末っ子に撫で繰り回されていたユキマルがその腕から飛び出して、わたしの前に立って二男に向けて吠えた。
「忠犬だね、ユキマルは」
「ティリスお姉ちゃん、ちゅーけんってなに?」
「飼い主に忠実な犬ってことよ。ユキマルの主人は、ソレイユお姉ちゃんだから、バンディお兄ちゃんに怒ったのね」
三女の説明に、末っ子が感心している。
「ユキマルちゃんは賢い子ねえ」
母も嬉しそうに、近づいてきたユキマルを撫でている。
ユキマルの評価がとても高いな。
「その前に気にするところがあるよね。こいつの鳴き声、ムウ、だったよ」
三男が真剣な顔で指摘する。
「普通、犬ならワンだろ」
「狐犬だからじゃないの? ユキマルに似合ってるからいいじゃない」
長女の意見に、女子全員頷いた。
「別に、病気ってわけじゃないし。滅多に鳴かないから、気にならなかったなあ」
こっそりステータスを確認したけど不調は書かれていないから大丈夫だ。
「ダンジョンに居たってことは、周囲は敵だらけだから、鳴いたら危険だってわかってたんだろうなあ」
父の言葉に、年長組がしんみりしてしまう。
「よし、ユキマルを幸せにしよう! ユキマルは、これから全力で幸せになるんだよ!」
ユキマルを持ちあげて、宣言したわたしに、全員頷いてくれた。
その後、ユキマルともっと遊びたいと寝るのをグズる末っ子を宥めて一緒に部屋に行き、ちょっとのつもりで横になったら一緒に寝入ってしまった。
アザリアの遺跡もはじめていくような深い階層まで潜ったし、ユキマルとも出逢ったし、馬車での長距離移動で地味に疲れていたのかもね。
久し振りの実家が居心地良かったせいもあるかな?
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