1.秋の長期休暇
第三章 秋休み編です
今回も、月水金曜日の更新となります
お付き合いいただけると嬉しいです、よろしくお願いいたします(≧∇≦)ノシ
『ミカン』との別れを胸に抱いたまま、秋の長期休暇になった。
バンディのことだから、実家でミカンの死を知って落ち込むよりは、事前に知っておいた方がいいだろうという考えだったんだとは思うけどね。
それならば、わたしの八つ当たりの的になる覚悟もできているだろう。
はじめての長期休暇は、元気の出ないわたしを心配したライゼスも一緒にルヴェデュの町に帰ることになったので、二頭立ての馬車にわたしとライゼス、そして彼の護衛であるトリスタンとロウエンが一緒だ。
ウチの牛は平均五、六年搾乳して、乳量が減ってきたら給与飼料を変えて二~四ヶ月肥育してから枝肉として市場に出すのが当たり前の中、ミカンは七年も頑張ってくれたのだ。
きっと家族も、わたしがいない時を見計らってくれたのだと思うけれども。
アザリア苔で牛たちの健康状態が改善している中で、もう少し長生きさせてやれなかったのかという思いも湧いてしまう。いや、家族の判断を疑うわけではないんだけど……うん、哀しいんだよね。
「ソレイユ、早く移動できたから、久し振りにアザリアの遺跡に行くかい?」
「ん? でも、ギルドに申請してないよ」
彼に顔を向けたわたしに、彼は既に申請済みだと言う。それなら、うん、急いでいるわけじゃないから、少し位なら大丈夫かな。
「そんなに遅くはならないようにしよう。効率を重視するなら、あの二人も連れて行くよ」
「そっか、でも馬車があるから、一人は残った方がいいよね」
「鍵は掛けられるけど。そうだね、ロウエンには残っていてもらおうか」
その言葉に頷く。
ロウエンも昔からライゼスの護衛をしていたそうだけれど、わたしと会うときの護衛のときはいつもトリスタンだったからあまり面識がないんだよね。だから彼が残ってくれることになると、ちょっとホッとする。
程なくたどり着いたアザリアの遺跡は、なんと、すっかり人が減っていた。
いや、それでも最初のころよりもずっと人は多いんだけどね。
わたしたちは離れた場所に馬車を停めて、装備を調えて馬車を降りた。
わたしは知らなかったんだけど、アザリアの遺跡が踏破され、第二十階層が最下層であることが判明していた。
だから普通程度の混み具合になっていたんだ。たまにすれ違う冒険者もいるけれど、快適に階層を下っている。
「この三人で潜るの、なにかワクワクするね」
わたしたちは索敵の魔法を使い、サクサクッと第十階層に到達した。どうしても回避できなかった、何体かの魔物は倒している。
領都でも休みの度にライゼスとダンジョンに潜っていたので、二人での連携は悪くない。トリスタンはわたしたちの後ろで補助に回ってくれるので、いつもよりも安心して動ける。
やっぱり、ダンジョンに行くには二人だと少ないんだよね。
三人いるとかなり違うんだなって実感した。
「あの時は……色々大変でしたねえ」
トリスタンがしみじみとした声で相づちを入れる。
「そうだね、まさか新たな階層が見つかるなんて思わなかったね」
ライゼスは軽い調子で頷く。
「そもそもダンジョンに入るのが、エラからのお願いだったわけだし。面白い経験だったよね」
うんうん、懐かしいなあ。第三階層の一番奥にある仕掛けを見つけて、壁が開いたんだよね。壁のこっち側に人が居ると閉まらない仕様なので、あの日以降壁を開く機会がなくてちょっとつまらない。
「二度あることは三度ある、じゃないけど、今回はどうかな」
「ソレイユ、迂闊なことを言うのは止めておこうか。それよりも、ちゃんと索敵の魔法は使ってる?」
「勿論だよ、もう呼吸するのと同じくらい、自然にできるようになったよ」
エッヘンと胸を張る今も、ちゃんと魔法は使っている。トリスタンがいるので言えないけど、ステータスもちゃんと見ているからね。
「索敵の、魔法ですか?」
トリスタンが怪訝な顔をすると、ライゼスがどういう魔法かを詳しく伝えてくれた。
「坊ちゃんたちはまた、そんなことをやってるんですか。聞いたことのない魔法ですよそれ」
「そうかい? でも既存の魔法を改良したものだよ。確かに、ソレイユくらい器用に魔法を使えないと、中々使いこなすのは難しいけど」
「……坊ちゃんも、できるんですよね?」
トリスタンの言葉に、ライゼスがにやりと笑ってみせる。わたしができて、ライゼスができないわけないもんねえ。
「これだから、お二人は」
なぜ、ヤレヤレという雰囲気をされてしまうんだろう。
「わたしの弟のバンディもできるから、トリスタンさんもできますよ、きっと」
「弟さんもですか。小さな頃からソレイユ式をやってる人は、違いますね。坊ちゃん、あとで教えてくださいね」
「じゃあ、この休暇中に習得できるように頑張ろうか」
「よろしくお願いします」
のんびり雑談しながら、どんどん下に降りて、今は第十五階層だ。
学園に行く前に弟のバンディと二人で潜ったのとは違う、仲間の実力を信頼してしてすいすい進めるのはいいね!
「あ、その先の角を曲がったら大きめの魔物が一匹と中ぐらいのが二匹、空飛ぶヤツが五匹いるよ、角を曲がって五百くらい。もうこっちに気付いてるよ」
小声で注意すると、二人の雰囲気が一気に引き締まる。
さすがは第十五階層だ、一人では無理だなあ。
切り込み隊長はライゼスで、大きい魔物に行く。わたしは厄介そうな空を飛んでるヤツを五匹。トリスタンは中ぐらいのを受け持ってくれるはず。
五本の指先に魔力を集めて、いつでも発射できるように集中する。魔力を圧縮した弾を撃ち出すつもりだ……。外れた時のために、左手にも魔力を用意しておこうかな。
大事なのは、素早く視認すること。……ん? 視認しなくても、ステータスの位置で把握できるな。
ということは、魔法の弾道を曲げることができれば、ここからでも……。いやいや、今はマズイ。魔物が少ない時に実験させてもらおう。
「行くよ」
ここに来るまでで一番強そうな魔物たちの編成だけど、ライゼスは気負うことなく今までと同じタイミングで突っ込んでいく。わたしたちも遅れることなく、通路の先に走る。
身体強化で速度を上げ剣を振り上げるライゼスに襲いかかろうとする、大きなコウモリの魔物を全部を目視して、指先に集めていた魔力を発射する。
「魔力の『弾丸』」
「『氷の杭』」
一度に撃ち出した五発の魔力の弾が、コウモリの弱点である額の真ん中を貫いていく。一撃で絶命した魔物はキラキラと輝き、アイテムと魔石になる。
ウォンバットのような魔物の一匹はトリスタンの放った氷の杭で撃ち抜かれ、もう一匹は剣で切られた。
一番の大物は、ライゼスの剣を何度も受け、動きが弱ったところをライゼスにゼロ距離で魔力の弾丸を受けて、アイテムと魔石になった。
「おおっ! ライゼスの、今までで一番大きな魔石! 凄い!」
コウモリの魔石はランプに使えるくらいの大きさ。ウォンバットっぽいヤツも同じくらい。でも、ライゼスが倒した小型の熊、いや大型のウォンバットみたいなヤツの魔石はわたしの手のひらくらいの大きさがある。
「ソレイユはさすがだね。倒すのが一番早かったね」
「弱点を一撃。それも五体同時になんて、そうそうできることではありませんよ」
二人に褒められて、嬉しくなる。
「えへへ。アイテムもたくさん取れたし、今日はウハウハだね」
「そうだね、そろそろ戻るかい?」
確かに荷物は七割くらい埋まっているから、戻る頃合いではあるんだけど。
「もうちょっとだけ、行きたいですっ」
手を上げて提案する。
「じゃあ、安全地帯まで行こうか。いいよね? トリスタン」
「坊ちゃんは、ソレイユ嬢に甘いですねえ」
「そうでもないよ」
ライゼスが先頭で、わたしが真ん中、トリスタンが最後尾で進む。
索敵はライゼスに任せて、わたしは真剣にステータスを見るように役割分担する。万が一を考えて、わたしの魔力を温存しているのもある。ステータスを見るのは魔力を使わないからね。
よーし、見落とさないように気をつけていくぞ!
もしかすると、アザリア苔みたいな植物があるかもしれな――。
いま、何か……。
「ソレイユ嬢、どうしたんです?」
ぽかんと壁を凝視しているわたしに、後ろを歩いていたトリスタンが怪訝な顔をした。
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