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24.くじ運

 ダンスパーティが無事に終わり、わたしはライゼスと一緒にダンジョンに潜っている。


「それにしても、オブディティさんは過保護だよねえ。わたしなんか十三歳から潜ってるのにさ」

「経験年数的には、ソレイユのほうが先輩だよね」

「ライゼスはわたしよりもランクが二つも上なのを、自慢してるのかな? ん?」


 軽口を交わしながらも、注意深く索敵の魔法を使いながらダンジョンを進む。

 さすが領都のダンジョンだよ、人数が多い。


 ……それにしても、なんだかチラチラと見られている気がするんだけど。


「やっぱりライゼスは注目されるんだね。領主の息子は大変だねえ」

 こそこそと彼に話しかけると、彼から呆れを含んだ視線を向けられた。


「違うから。ソレイユが、有名なんだよ。この間の事件、もう忘れた?」

「忘れてはいないよ。けど、あれからもうかなり経ってるよ」

「あれから一度も冒険者ギルドに行かなかったから、色々噂になってるみたいだよ」

「……うわさ。どこ情報ですか」

 胡乱な視線をライゼスに向けると、彼は口の端をクッと上げた。

「それは、秘密です」


 もーっ!


 頬を膨らませたわたしだが、すぐに彼と真剣な視線を通路の先に向ける。


「いい魔石を落としてくれたら、いいな」

「そうだね。じゃあ、先制は僕が行くよ」

「気をつけて」

 視線を交わしてから、ライゼスが先行して魔物との距離を詰めた。



 ライゼスとのダンジョン探索は、とてもスムーズだ。


 ある程度の役割分担はするものの、あとは臨機応変に対処していく。

 わたしもライゼスも無茶な突っ込みはしないし、安全マージンはしっかり取るタイプなので、安心感があるんだよね。


 索敵の魔法でバンバン魔物を狩れるのも楽しいのよ。


 だから、ダンジョンを進むスピードが速いんだよ。そうなってくると問題になるのが、戦利品の運搬だ。

 冒険者ギルドでも運搬人を斡旋してくれるけれど、信頼の置ける運搬人は時給が高いんだよね。当たり前の話なんだけどさ。

 運搬人で、なおかつダンジョン内にも詳しい人だと、もっとお高くなる。

 信用と知識は、何物にも代えがたいってことだよね。一朝一夕で身につくものでもないしさ。


 そして、できればもう一人くらい戦える人が居た上で、オブディティを守りながらダンジョンに潜るのが理想なんだけどな。


 彼女の特別な能力を公にしたら問題があるので、信頼できる人物じゃなきゃいけないんだよね……できそうな人が一人いるんだけど、ライゼスからはもう少し様子を見させてほしいと言われている。

 ストルテなら、武力はあるし口も堅そうだからいけると思うんだけどな。


 そんなわけで、わたしはオブディティの冒険者登録を本気で願っている。

 どうにかして、彼女を連れてダンジョンに潜りたい。そして、心置きなく魔物を倒し、アイテムを入手しまくりたい!




 以前聞いたときは、彼女も取ることには否はない、ということだったわけなので。

 わたしは、ダンジョンの面白さや、大変さをできるだけユーモラスに彼女に伝え、ライゼスも巻き込みつつ必死に彼女の冒険心を煽った。


 その甲斐あって、動きやすい格好をしたオブディティをこうして冒険者ギルドに連れて来ることに成功しました! 頑張ったー!


 貴族のご令嬢なのに冒険者になってもいいのかって?

 彼女の実家は武家の名門なんだって、お兄さんたちも冒険者の資格は持っているらしい。ただ、唯一の娘ということでとても可愛がられ、武家なのに武術は一切してこなかったそうだ。


 本人も魔法がアレなこともあり、かろうじて回復系の魔法は『聖女っぽい』という理由で頑張って使えるようにはなったものの平均並み。


 痛いのは嫌だし、魔法もイマイチなので、そっち方面でムソー(無双?)するのは諦めた、って言っていたけど、収納の能力があるだけでかなり凄いんだけどなあ。


 ただ、冒険者というものに憧れは強いらしく、ストレートの黒髪を後頭部で一つに結わえ、凜々しい和風美少女冒険者ルックである。

 ギルドでもかなり、目立っている。


「さすがオブディティさん。無茶苦茶注目されてるねっ」

「いや、ソレイユも大概注目されているからね」

 ライゼスがすかさず突っ込んでくる。


「不可抗力だよ。わたしは、悪くないよ」

 思わず口を尖らせてしまう。


 あんな事件の釣り餌になっただけでなく、ライゼスとのダンジョン探索が話題になってしまったらしい。

 ライゼスもわたしも浮く魔法を使って、トリッキーな動きができるようになったし。浮く魔法の応用で、武器で攻撃する瞬間だけ重力を強くして攻撃力を上げるということもできるようになったのだ。

 魔法って色々応用ができて楽しいよね。

 現実逃避しているわたしを、オブディティが座った目で見てくる。


「やっぱりあなた、なにかやらかしてるのね。妙に視線が集まるから、絶対にわたくしの可憐さだけではないと思ったわ」

「自分で可憐って言い切るの、かっこいいよね!」

「ありがと」

 受付に真っ直ぐに向かう。


「さあ、ここが受付だよ」

「見ればわかりますわ」

 受付に行くと、女性のギルド職員が対応してくれる。勿論、横領していたあのギルド職員はもういないので安心だ。


「新規での登録ですね。まずは講習を受けていただきます、講習の最後にはテストもございます。このテストで一定の点数をとれない場合は、次の実技を受けることができませんのでご注意ください」

「承知いたしました」

 流れるように手続きが進んでいっている。


 時間がかかるのはわかっているので、ライゼスと一緒に講習の間に一番近いダンジョンに潜ってくる。

 息の合った相棒がいると、本当に仕事がやりやすいよね! 短時間でそれなりの成果を出せて、ほくほくしながら冒険者ギルドに戻り、オブディティが講習から戻るのを待つ。


 あんなすったもんだがあったけれど、実技試験は変わらずにあるんだよね。

 領都の近くのダンジョンは簡単な場所ではないので、誰でも彼でも冒険者証を発行することはできないらしい。


 他の町の小さなギルドで取るとここまで厳密ではないので、むしろ他で取った人の方が多いくらいらしい。わたしも、地元で取っていたしね。


 講習と筆記試験を終えたオブディティは、余裕の表情で戻ってきた。

 試験の内容とコツは、わたしとライゼスで伝授してあったし、それがなくても彼女なら問題なくクリアしていたと思う。


「次は実技ですってね」

「くじで決めるんだけど、わたしは薬草の採取だったよ」

 すったもんだがあったことは伏せておく。もう過去のことだよね。


「くじ……なのですか? わたくし、昔からくじ運がよくないのだけれど、大丈夫かしら……」

 珍しく不安を見せる彼女に、ちゃんと立会人がついてて万が一のときは助けてくれると伝えたら、ちょっとだけほっとしていた。


 だが、彼女のくじ運の悪さは、しゃれにならなかったのだ。


 実技試験で彼女が引いたのはよりにもよって『討伐』。

 一応武器になりそうな棍棒を持っているけれど、彼女に腕力はないし、魔法なんか危なくて絶対に使えない。

 そう、彼女に『討伐』は鬼門だったのだ……。


 採取を引ければ問題ないのだからと、とりあえず今回の実技試験は諦めることになった。





 そして、半月後。


 三度目の正直になりますように。

 わたしとオブディティは、言葉少なに冒険者ギルドの受付に向かった。


「お待ちしておりました」


 受付で講習の修了証を見せたオブディティに、職員は心得たように頷いてカウンター下から箱を取り出し、力強く上下に振る。

 中でたくさんの紙が跳ねる音がする。

 箱をしっかりと振って、中の紙を撹拌した職員が、真剣な顔でオブディティに箱に開いた穴を向ける。


「では、この中から紙を一枚引いてください」

 職員の表情も真剣だし、受けるオブディティの表情も真剣そのものだ。


「はい。いきます」

 緊迫感が増す。


 心なしか、周囲も静かになったようだ。

 彼女の細い手が穴に吸い込まれるように入れられる、そして、緊張の面持ちのまま一枚の紙を引き出した。

 四つに折り畳まれた紙を、ゆっくりと開く。


『ビッグラットの討伐』


 見た瞬間、オブディティが膝から崩れ落ちた。

「オブディティさん、本当にヒキが弱い……」

 彼女の前にしゃがみ込んで、慰めるように肩を撫でる。


「三回連続討伐系だなんて」

 オブディティが呆然とつぶやく。


「ちゃんと採取系の依頼も入ってますよ、……今日は八割採取系にしたのですけど」

 職員が小さな声でバラしてくれる。


 以前、あんな不正があったばっかりだから、ギリギリ譲歩できるのが八割だったのだろう。ありがとう、職員の人。


「ほら、ある意味ヒキが強いよ! だって、低確率の方を引いたんだから」

「慰めになっていませんわ」

 だよね、ごめん。

 しょぼんと口を噤んだものの、沈んだ彼女を励ますために両手で拳を作って鼓舞する。


「でもでも、ビッグラットなら、そんなに強くないし! それに、討伐数が書いてないから、一匹でも大丈夫だよ、頑張って一匹倒そうよ」

「そうね、一匹ですもの、頑張るわ」

 顔を上げたオブディティだけど、顔色は悪かった。


 ネズミ……嫌だよねえ。




 ――三度目の失敗。


 オブディティは立会人の冒険者に助けられて、ギルドに戻ってきた。

「もう、わたくしには才能がないのがわかりました。諦めてください、ソレイユさん」

「そんなこと言わないでよおお」


 さすがに三度目の失敗は彼女も堪えたのか、当分は挑戦しに行かないと宣言されてしてしまった。

 当分ということだから、気が向いたらまた挑戦してくれると思うので、今はそっとしておこう。





 もうすっかり馴染んだ寮のわたしの部屋で、机に向かい便せんにペンを走らせる。


 ダンスパーティで編み出した新しい魔法のこと、領都の近くのダンジョンに潜っていること、休日にオブディティとはじめてお出かけして、買い食いをそそのかしたこと、魔道具創作部で行き詰まっていて先輩に手伝ってもらっていること。


 ――わたしはみんなに助けられて無事に学校生活を送れています。


 今回の家族への手紙をそう締めた。







 翌週、家族からの手紙が届いた。

 家族全員が書いてくれて嬉しかったんだけど、一つ下の弟であるバンディからの手紙に『ミカン』が屠畜されたことが書かれていて……もうそろそろだと覚悟はしていたし、むしろ七年もよく頑張って乳量を維持してくれていたと思う。

 けど、凹まないわけないよね!

 もうすぐ秋休みでそっちに帰るのに、わざわざ手紙で教えてくるな! バンディのバカーっ!

第二章の本編は以上で終了ですが、あと1話、閑話としてオブディティサイドの話を用意してあります☆

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誤字脱字報告、大変、大変っ助かっております! ありがとうございます!! ゜・*.✿*書籍化決定しました!*✿.*・゜ 読んでくださる皆さまのおかげです! ありがとうございます。°(°´ω`°)°。ウレシ泣キ
― 新着の感想 ―
姉以上にデリカシー無いぞ弟よ⋯まあ鈍いソレイユ限定でしょうか? 素直に尊敬できない天災な姉がもしも妹だったなら⋯なんか今よりも弄ってそうだな。
いくら農場として割り切ってても、毎回思うところはあるものだし、まして子牛の頃にミルクあげて育てたミカンちゃん。 手紙までの軽く楽しいお話しなかったら、読者も一緒に凹みそうな一撃でした。 バンディのバ…
ミカンちゃーん(/ _ ; )
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