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13.自走式

「ねえ、オブディティさん、ここの敷地、広すぎない? 万歩計あったら、毎日一万歩は歩いてるよ」


 魔道具創作部の部室にて移動教室に時間が掛かるとぼやくわたしに、オブディティも頷いてくれた。そもそも、この部室が一番遠いのよね。


「動力付き自転車が欲しいです、切実に」

「わたくしは、魔法のカーペットがいいわ。スカートでも安心して乗れるもの」

 確かに、それはその通り。


 彼女とお喋りしながらも、わたしは市販の魔道具を解体している。

 この作業机の上にある、全部の魔道具の解体と組み立てをするように、オルト先輩から指示されている。これはこの部に入った人全員がやることらしい。


 全員といいつつ、アイデア出し係のオブディティと、書類作成係のライゼスは免除されている。


 オブディティはオルト先輩と一緒に夢のマッサージチェアを作るべく試行錯誤しつつ、手が空いているときはわたしの作業を見たり、みんなにお茶を淹れたりしてくれる。


 ライゼスはオルト先輩が以前作って放置されている魔道具の特許申請をすべく、仕様書を清書している。

 オルト先輩の書類は、知識が深い故の抜け漏れが多いらしく、まずはそこからだそうだ。


「お前ら、その『まんぽけい』ってのはなんだ」

 設計図をああでもない、こうでもないとブツブツ言いながら作っていたオルト先輩が、わたしたちの言葉に手を止めて聞いてきた。


「自分の歩いた歩数を計測する機械です」

「はあ? 歩数なんて数えてどうすんだよ?」

 怪訝な顔をする彼に、オブディティが説明してくれる。

「歩いて体力を付けることは、健康のためにいいでしょう? ですから、その目安として歩数を計測することで、歩くモチベーションを上げることができるのですわ」

「へえ。そう言われると、まあ、効果がありそうな気がするよな。オブディティ、もっと詳しく教えてくれ」

「はいはい」


 わたしの隣にいた彼女が、仕方なさそうに彼の方へ移動する。

 また、夢のマッサージチェアの完成が一歩遠のいたな。などと考えながら、手を動かす。


 魔道具には一定の規則があることは父の本で知っていたけれど、こうして実物に向き合うと、それがどういうことか納得できる。

 作った人の癖も見えて面白いし、バラす前に魔力をほんの少しだけ通して魔道具の回路を辿るのも楽しい。

 回路に不具合があれば、それも手応えとしてわかってしまう……人間テスターはなかなか楽しい。


「ボードにタイヤを付けて、前進させることできないかな。前か後ろだけに動力付けて、歩くよりすこし速いくらいの速度なら、特別な停止装置も要らないよね」


 魔法でカーペットを浮かせられれば一番だけど、人が乗ったまま浮かせる、前進させる、それを持続するってなると魔力が馬鹿みたいに必要になるんだよね。

 だから、地面を走る方を検討している。


「それは難しいだろうな。温冷風機の魔道具に使う魔石でこの大きさだ、今あんたの言った機能を持った魔道具なら、コレが二つは必要だろうな」

 オルト先輩が出したのは、手のひらの半分くらいの大きさの魔石だった。温冷風機自体大きな魔道具ではあるんだけど、それよりも魔石を使うのか……。


「いや、逆に言えば、二個あれば動くってことですね」

「まずは試しに、小さいのを作ってみろよ。もう作れるだろ」

「えっ!?」


 まさかの、許可が出た!

 いままでは、解体と組み立てで魔道具の基本を理解してからだ、と頑なに認めてくれなかったのに。


「作れます! 作ってみます!」

「そこの棚にある材料、使っていいやつだから。他にも必要なのがあれば、取り寄せる」

「やったー!」

 必要なのは、板と、タイヤ、軸と――

 半分くらい魔道具が片付けられた作業台があるので、その場所を借りる。

 元々この台の上にあった魔道具は、オルト先輩が作った特許申請待ちのものだが簡単なものから片っ端からライゼスが申請しているので、申請したものが撤去された分だけ空間ができたのだ。


 ほとんどが新規ではなく、既存の魔道具を改良してできたものだ。

 以前我が家で牛の出産監視のためのランプを長兄と父が作ったけれど、あんな感じらしい。

 従来のランプよりも明るいものや、魔石の消費を抑えたもの、いくつかの魔道具の要素を組み合わせて作り出した新しい魔道具など。


 わたしが今回作りたいのは自走する板だ。

 有り体に言えば、電動スケボーを作りたいのだ。

 こちらの世界にスケボーはないし、一人乗りの自動走行する魔道具も見たことがない。

 用意している物を見てわたしの意図を正しく理解しているオブディティが、生温かい視線を向けてくるが気にしてはいけない。

 試作なのでサイズは靴より少し大きいくらいにする。モーターは後輪に付けたい、タイヤは軸に通して、前輪と後輪で――


 壁一面を埋めている棚に置いてある部品を取っ替え引っ替えして、予定している形に組み立てていく。

 この魔道具は後輪がメインなので、そこだけ魔力を通してモーターを作らなければならない。分解組み立て練習の中に、モーターが付いたものがあったのでそれを参考にする。

「でもこれは、魔力を推進力として放出してるんだよね」

「前に進みたいなら、それで正しいだろう」

 既存のモーターを前に悩んでいるわたしを見かねて、オルト先輩がやってきた。

「でもこれって、魔力の消費が大きいですよね」

「そうだな、消費魔力は大きい。だから、大きな魔石が必要になるんだ」

 なるほど、だから手のひら一枚分の大きな魔石がいるのか。


「他のやり方がないか、もう少し考えてみます」

「他の?」

「帆船が風を受けて前に進むみたいに、魔力を推進力にするんじゃなくて、魔力を他の形にして、その力で前に進ませる方法を考えます」

 わたしの言葉に少し考えたオルト先輩は、棚から一冊本を取り出してわたしに渡した。


「これ、参考になるかもな」

「ありがとうございます!」


 作りかけの試作品を前に、本を捲る。……が、半分くらいしか意味がわからない。

 素直にそう伝えれば、オルト先輩がにやりと笑った。


「最初はそんなもんだ。勉強でもなんでも、わからない事柄を調べて、少しずつ理解していくもんだろう。一足飛びにできるようになんてならないもんだ」

 したり顔で言うオルト先輩に、思わず口を尖らせてしまう。


「なに不細工な顔してんだよ」

 半笑いで指摘するオルト先輩の後ろで、ライゼスが真顔になった。

 わたしを貶されて、怒ってくれたのかな?

 でも注意しないのは、それが軽口だってライゼスも分かってるからだろう。


「すぐに作りたいんですー。取りあえず、やるだけやってみます」

 いくつもの市販の魔道具の解体と組み立てをしたので、基本的な構造は大体把握できてはいるんだよね。原理や理論を覚えるのも大事だとは思うんだけど、まずは作りたいっ!


「まあ実際にやってみるのが、一番勉強になるからな。魔石を入れる前に、一度見せろよ」

「はーい」

 ダメだと言われるかと思ったけど、予想に反してオルト先輩はすんなり許可してくれた。


 なので、組み上げた板とタイヤに、動力を取り付ける。失敗したっていいじゃないか、取りあえずやってみて、思うように結果が出なかったら次の方法を探せばいい。

 小さなスケボーは本当に最低限なので、車軸にタイヤを付けてボードの下に付けた金具に通しただけのもので魔石の魔力は後輪の車軸を回す為に使う。


「車軸にベルトを掛けて、モーターと連結してー。あ、いや、車軸とモーターは一緒にしちゃっていいのかも。モーターにどうやって魔石を繋ごうかな」

 電力の供給のオンオフは既存のものが棚にあったので、それを使う。

 魔石は色と大きさで魔力量が違うのだけど、ボードを走らせるだけなら、大きな物は要らないだろう。


「というわけで、できました! 確認をお願いします」

 オルト先輩に自走ボードを持っていき、チェックをお願いする。

 しっかりと作りを見て、それから問題ないと太鼓判を押してくれたので、さっそくボードの裏面に魔石をセットする。

 ボードを持ったままスイッチを入れると、プイーンと軽い音がしてタイヤが回転する。中々のスピードで回転してるぞ。


「よしっ、動いた」

 もうこれだけで嬉しいけれど、これを教室の端に持っていき、床に前タイヤを付けてから、そっと手を離した。

 プイーンとボードが走っていき、先にいたライゼスにキャッチされる。

 ミニ四駆(四駆じゃないけど)が頭を過った。これは見た目、走るかまぼこ板だけど。


「おお、真っ直ぐに走ったなあ。初めて作った魔道具というのは大抵動かないものなんだそうだ。だから、動いただけで御の字だぞ」


 オルト先輩がしきりに感心してくれるが、しかし、問題はここからだ!

 なんとか人が乗れるサイズのものにこっから改良していくぞー!

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誤字脱字報告、大変、大変っ助かっております! ありがとうございます!! ゜・*.✿*書籍化決定しました!*✿.*・゜ 読んでくださる皆さまのおかげです! ありがとうございます。°(°´ω`°)°。ウレシ泣キ
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