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4.カシュー兄ちゃんと双子の弟妹

 家の横にある子牛と、もうすぐ子牛が生まれそうな母牛が入っている育成舎と呼んでいる牛舎に駆け込む。

 牛舎の棚にはちゃんと夕方の分のミルクが用意してあったので、昼と同じように哺乳瓶に入れて一頭ずつミルクを与える。

 ミルクを飲ませながらステータスを見てみると、どの子牛も「空腹」と書いてある以外に問題がなくてホッとした。


 使い終わった哺乳瓶を水場で洗いながら考え事をしていると、突然背中にズシッと重みが乗っかり、水につっこむところだった。


「あぶなっ! こらっ! ディーゴ! 危ないでしょ!」


 背中に乗っかってきた五歳になる弟で双子の片割れである三男のディーゴは、わたしの首に両腕を回してひっついてくる。


「ソレイユ姉ちゃん、なにしてたのー」

「ちびちゃんたちのミルクやりだよ」

「ミルクやり! いいなあ、わたしもやりたいなあ」


 ディーゴに遅れてついてきた、双子の妹である三女のティリスがわたしの横にしゃがんで哺乳瓶を洗うのを見ている。


「ティリスは、もう少し大きくなってからね」


 まだ小さな妹に言い聞かせていると、頭上でプッと吹き出す声がして、背中の重みがなくなった。


「なーに、一人前のこと言ってんだよ、お前だって今日からミルク当番やらせてもらえるようになったんじゃないか」

「カシュー兄ちゃん!」


 振り向くと十二歳になる長男が、ディーゴを持ちあげて立っていた。

 涼しげな薄い空色の髪が風になびき、薄緑の目を細めて揶揄うような顔で口の片方の端をあげている。

 

「カシュー兄ちゃんおかえりー」

「みんなに配ってきたの?」


 双子が長男にくっついていく。

 力持ちのカシューは大きくて力があるから、荷車を引いて近くの家にミルクや卵を配達していて、いまは夕方の配達から帰ったところだ。


「チビども、お前らの仕事は鶏の卵集めだろ? それだって大事な仕事なんだからな」

「えーあんなのシゴトじゃないよー」


 ぶーぶー言うディーゴを、長男が大きな手でグリグリと撫でる。


「そんなことねえよ、ディーゴとティリスが集めたんだって言ったらアルマばあちゃんが喜んでたぞ、二人が集めてくれたら倍おいしいってな。人に感謝される仕事ができるなんて、凄いことなんだぞ」

「本当?」


 首を傾げるティリスの頭もグリグリ撫でる。


「ああ、本当だ。兄ちゃんはウソ言わねえよ」

「そっか! へへっ、ぼくらすごいってティリス」


 ディーゴとティリスが照れくさそうに笑う。

 そういえば、鶏たちはまだステータス見てなかったな。牛以外も見られるのかな? 見れたらいいな。

 そうだ、弟たちはどうなんだろう?

 思った途端、目の前に透明な四角が二つ現れる。


 ■ディーゴ・ダイン、五歳四ヶ月、人間、ダイン家三男。

 ■ティリス・ダイン、五歳四ヶ月、人間、ダイン家三女。


 おお!? 見えたっ! 知ってることしか書いてないけど……。

 ちょっとがっかりしつつ、長男にも視線を向けてステータスが見たいと考えてみる。


「あれ?」


 ステータスが見えない。


「どうした、ソレイユ」

「な、なんでもない! すぐ洗うね!」


 水場を空けるために、急いで手を動かす。兄もミルクの大きな缶を洗わなきゃならないからね。


「急がなくても大丈夫だぞ。でもここに、もうひとつ洗い場があったら便利だよなあ」

「そうだね、瓶に水がいつもいっぱいなのはいいけど、汲むのが面倒臭いよね。この瓶がもちょっと高い所にあって、下に蛇口がついてれば使いやすいのに」

「蛇口?」

「うん、水の出口で、レバーをキュッとしたら水が出たり止まったりするやつ」

「水が出たり、止まったりか。それは便利そうだな」


 哺乳瓶を洗いながら説明するわたしに、長男が面白そうに同意してくれる。


「そうだ、カシュー兄ちゃん作れない?」


 手先が器用な長兄なら、もしかしてできるのでは!


「面白そうだけど、ソレイユの言った、レバーをキュッとするってのがよくわからん」

「えー? そんなにむつかしくないよー」


 洗い終えた哺乳瓶をちょっと横に置いて、地面に木の枝で絵を描いて見せる。

 長兄と双子たちが絵を囲むようにしゃがむ。


「まず、瓶がこうあるでしょー?」


 瓶を描き、その下よりちょっと上にレバー式の蛇口を書き足す。


「それで、これはこんな感じでー」


 レバーを大きく丸で囲んで線を引っ張り、その先に拡大図を書く。


「ははん、このレバーを動かして、水を出したり、止めたりするのか。どうやって?」

「それはさ、この中を、こうしておけば、止めるの時は水が行かなくなるでしょ?」


 蛇口内のレバーの先に平らな板を付けておけば、縦にすれば水が流れて、横にすれば水が止まる。


「なるほどな、理屈はわかった。だけどこれじゃ、水が漏れそうだし、強度もな……ようは理屈が同じならいいんだから……なるほど」


 絵を見ながら長男がブツブツ言ってるのを、わたしと双子がじっと見守る。いつもは穏やかな長男だけど、こうやって考え事してるときに邪魔をしたら怒るんだよね。


「よし、わかった。これは、父さんにも相談してみる」


 目処がついたのか、顔を上げた長男がそう言ってくれた。

 父さんに相談するってことは、簡単にはできないけど、なんとかなりそうだってことだ。

 もし上手くいけば、洗うのが楽になっていいな!


「カシュー兄ちゃん頑張って!」

「期待はすんなよ。あ、哺乳瓶は母さんに魔法かけてもらってから片付けろよ」

「わかってるー」


 わたしは哺乳瓶を持って家に行き、母に綺麗になる魔法をかけてもらう。


「綺麗に洗えていて偉いわね」


 母がそう言って撫でてくれている隙に、こっそりステータスを見ようとしたけれど、長男と同じでなにも出てこなかった。

 どういうことなんだろうな、双子たちや牛たちは見えるのに。

 他の動物はどうなんだろう?

 哺乳瓶を棚に片付けてから、子牛の牛舎の向かいにある鶏舎にいく。

 鶏舎の中には二十羽程の鳥がいる、こっちは牛と違って全部同じ色だ、茶色のベースに羽根の内側が白、くちばしの先が赤でトサカと目の周りが黒い。

 なんだか今日は鳥たちがバタバタしているなと思いながら中に入ってステータスを見てまわる。


「茶系ケイヨウ種、一歳二ヶ月、雌」


 ここにいるのは卵を産む雌ばかりで、雄は別の鶏舎にいる。

 手当たり次第にステータスを見ていると、視界の端、藁が敷かれている地面の上に透明な四角が現れた。どうしてそんなところに? と思いながら読んでみると。


「ソネ蛇、五ヶ月、雄。ええと……蛇!? うわああっ」


 慌てて鶏舎を飛び出して、藁の入れ替えに使うフォークを持ってきて、蛇を引っ掛けて鶏舎から追い出した。


「どうしたんだい、ソレイユ」


 首に掛けた手ぬぐいで汗を拭きながら近づいてきた父に、フォークを放り出して抱きつく。


「鶏小屋に蛇がいたの!」

「蛇!? それを追い出してくれたのかい? ソレイユは勇敢だな」


 骨細な父が「よっこいしょ」と言いながらわたしを抱き上げてくれた。ちょっとふらついて怖いので、しっかりと父に抱きつく。


「誰もケガしてな――忘れてた!」


 鶏はケガしてないけれど、ケガをしている牛はいるんだった。

 父の腕から飛び降りて、父の手を引いて放牧場を目指し、怪我をしている牛二頭をちゃんと教えることができた。

 二頭は牛舎の奥のスペースに入れて様子見となる。


「よく見つけてくれたね。どうやって見つけたんだい?」

「ライゼスが見つけてくれたの」


 父の言葉に、咄嗟にライゼスに言われたとおり彼が見つけたことにすれば、父が「そうかそうか、流石はライゼス君だな」と納得していた。

 本当はわたしがステータスで見つけたのに。

 ちょっと面白くない気分だけど、バレちゃダメなんだもんな……。むうううう。


「百面相してどうしたんだい、ソレイユ。ああそうだ、鶏舎も確認しないと。きっとどっかに穴が空いていて、そこから蛇が中に入りこんだのだろう。ソレイユも手伝ってくれるかな?」

「うん!」


 父と手を繋いで鶏舎に戻り、近くにいた双子や長男も一緒になって鶏舎の穴を探した。

 地面と壁の隙間を掘った穴が二つも見つかったけれど、今日の所は暗くなってきたので土で埋めて、ちゃんと対処するのは明日ということになった。

 草を掻き分けて穴を探しているときに、蛇がいないか確認するのにステータスを見ようとしたら、視界いっぱいにたくさんのステータスが出てきて転びそうになってしまった。

 草のステータスも見られるんだ、てっきり動物だけだと思っていたんだけど。


 ■三つ草、第五節まで成長、茎が折れている。

 ■小鈴草、開花期、蜜を虫に奪われている。


 草の名前をはじめて知った。茎が折れてるのは、わたしが踏んづけちゃったから。蜜はアリが集めていた。

 他にも草だけじゃなくて、虫のステータスも見られるんだけど。気持ち悪いからすぐに消しちゃった。

 最初はたくさんのステータスに圧倒されたけど、見たいと思う範囲を決めれば、ちゃんとそこだけ見られることもわかった、ただ、草についてる虫のステータスも出てきてしまう。草一本だけに集中すれば、ちゃんとそれだけのステータスが現れる。


 ちょっと気を抜くと、草にくっついてる虫のステータスまで見えちゃうから……草のステータスを見るのはやめとこうと思う。

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誤字脱字報告、大変、大変っ助かっております! ありがとうございます!!
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