1.冒険者ソレイユ十五歳
お待たせいたしました、第二章です!
実はまだ全部書けてないので、ちょっとゆっくりめ更新でして、月・水・金の更新を目指しています。
頑張るぞ! 自転車操業っ! エイエイオー!!
ソレイユ達の活躍(活躍?)をお楽しみいただけたら、とても嬉しいです。
やあ! ソレイユ・ダイン十五歳だよ!
いまも元気に実家の手伝いをしているし、念願の冒険者登録もしてアザリアの遺跡で苔採ってるよ。
その冒険者登録なんだけど、十三歳になった日に一番乗りで登録はしたんだけど、冒険者になると毎年ギルドにお金を納めなければならないんだって。
わたしはまだランクが低いのでたいした金額じゃないけれど、トップやセカンド、サードランクの冒険者はかなりの金額を納めているんだってさ。
そのお金は、ギルド経由で国に納付される税金なのだと聞いたときには、脳裏にショトクゼイ、ルイシンカゼイという単語が過って消えた。
子供の頃から時々あるんだよね、勝手に思い浮かんで消えていく単語が。
「ソレイユ! ぼんやりしてたら、ビッグラットに足囓られるぞ」
「鼠の一撃くらい避けられるわよ。バンディこそ、索敵ちゃんとやりなさいよ。折角、索敵の魔法教えたんだから」
「この魔法、維持すんの難しいんだよっ。こんなのやりながら歩くなんて、無茶だろっ」
索敵の魔法を使いながらも、ブーブー文句を言う次男を無視して、周囲をステータス鑑定しながらゆっくりと進む。
この階はいままで足を踏み入れたことのない七階層なので、注意を重ねなければならないのだ。現在は十八階層まで探索が進んでいるので、七階層はまだ浅い方ではあるけど、冒険者になって二年のペーペーなので、慎重に慎重を重ねる。
本当は一人で来ようとしていたのに、次男に見つかってしまったのが運の尽き、両親にばらさない代わりに一緒に行かせろと脅された。
十五歳になったわたしは、三日後にはコノツエン学園のある領都エルムヘイブンに向けて出発しなきゃいけないので、このダンジョン『アザリアの遺跡』には当分来れなくなってしまうから……自重せずに思いっきりやってやろうと思ってたのに。
足手まといめ。
恨めしい気持ちで、わたしよりも頭ひとつ分高い次男の後頭部を睨む。
両親との約束で、このダンジョンでだけ生えているアザリア苔という、乾燥させたものを子牛などの家畜に与えると体力を上げて死ににくくしてくれる高栄養飼料を一定量収穫すれば、ダンジョンで倒した魔物から出た魔石や素材はお小遣いにしていいことになってる。
両親は三階層までを想定しているのでたいした金額にならないと踏んでいるようだが、そんな低層で満足するようなわたしではないのですよ。
負傷=バレる、なので絶対に怪我をするわけにはいかないわたしは、ライゼスにアドバイスを受けながら編み出した、索敵の魔法と名付けた『通路の先の形状を把握する魔法』を使うことで、不用意に魔物と接近遭遇することがなくなった。
最近ではその魔法とステータス鑑定を合わせて使うことで、通路の先になにがいるのかもわかるようになったのだ。
ステータス鑑定の使い方もかなり熟れてきて、知りたい内容だけを端的に表示させることもできるようなったので、索敵の魔法と合わせると、魔物の位置がわかれば多少遠くからでもその魔物の種族とレベルや弱点を見ることができるようになったのだ。
こんな感じでものすごく有用なステータス鑑定の能力のことは、いまもライゼスしか知らない。
ライゼスのステータスは、以前は結局一度も見られなかったけど、コノツエン学園に一緒に通うので、もしかすると、もしかがあるかもしれないので、兄姉から教えてもらい勉強を頑張っている。
わたしのほうが頭がよければ、相手のステータスが見られるという法則は変わらないので、学園に通っている間に一度くらいはライゼスのステータスを見てみたいと思っている。
「ソレイユ、なにかいる」
囁く弟の声に足を止め、わたしも索敵の魔法とステータスでどんな魔物かを確認する。
「一角兎が二羽。弱点は後ろ足の付け根。動きが素早いから、先制攻撃で仕留めたい。『氷槍』はいける?」
「大丈夫だ、やれる」
緊張が漲る表情に、大丈夫かなと心配になる。
いつもなら『アイスランス』なんてかっこつけた名前恥ずかしいとか、突っ込みを入れてくれるのにな。
「じゃあ、わたしが右、バンディが左ね。まだ気づかれてないから大丈夫だよ」
弟が頷いたのを確認してから、通路の角まで静かに進む。
通路の端で呼吸を整えて、静かに距離を測る。万が一、弟がし損じてもフォロー出来るように心構えもしておく。
右手をあげ指を三本立てる。
さん。
に。
いち。
Go! 通路に躍り出て、向かって左側にいる大きめの一角兎めがけて、右手の人差し指で狙いを付ける。
「『氷槍』」
指先に集めた魔力が飛び出し、弓矢のように一角兎の胸に吸い込まれる。
「ギャンッ!」
一角兎がのけぞるように倒れる。
「『氷の槍』っ!」
次いで、弟の伸ばした手の先から、太い氷の塊が残った一角兎に向かって飛び出す。……槍、ではないな。
ゴツッッ
一角兎の頭部に命中して鈍い音が聞こえた。
二匹とも無事に倒すことができ、倒した兎は消え、魔石と素材を落としていく。
「やっぱり、ソレイユの方がいい素材だ」
ドロップアイテムを拾う弟が、悔しそうに言う。
「だから、倒し方なんだってば。スマートに倒した方が、いい素材を落とすって言ってあるでしょ?」
「なるべく苦しませず、外傷を与えず、一撃で、なんて難しいっつーのっ!」
やけくそ気味に文句を言う頭を叩く。
「声が大きい。耳の良い魔物が寄ってくる」
わたしも自分が倒した分のアイテムを手早く拾いながら、弟にしっかり注意をしておく。
ダンジョンなんだから、なにがあるかわからない。どれだけ注意をしてもし足りないんだから。
こうしてアイテムを回収しているときも、ちゃんと索敵の魔法は使ってるけれど、こちらの体勢を整えるよりも先に魔物に察知されて標的にされたらもうどうしようもない。
バッグにアイテムを押し込む。
「収納魔法ほしいなあ」
膨らんだバッグを恨めしく見ながらため息をつく。
「収納魔法? 収納する魔法なんてあるのか?」
「ないから、欲しいって言ってるの」
わたしの文句に、弟は肩をすくめる。
「ソレイユでもどうにもならないことあるんだな」
「どうにもならないことの方が多いに決まってるでしょ。ここら辺でもう戻るよ」
「まだ袋に空きがあるぜ?」
「帰りにも魔物はいるんだから、空けとかなきゃダメ」
ああそうかと残念そうに納得する弟を連れて、通路を引き返す。
帰路に就きながら、今回もいいお金になりそうだとほくほくする。
アザリア苔以外の収穫物はお小遣いになるのだけど、今回は七階層まで来たので、少しいい物が手に入っている。魔石は家で使って、アイテムはギルドで買い取ってもらう。アイテムの買い取りは基本的にはギルドを通さなければならない、収益の一部は税として国に納付されているので、勝手に取り引きしたのがバレるとギルドからがっつりペナルティーを受けることになる……らしい。
「それにしても、ソレイユはさ、結構金貯めてるだろ? でも、あんまり使ってるとこ見たことないけど、貯め込んでんの?」
ダンジョンを出ての帰り道、弟が聞いて来た。
「そりゃ貯めてるよ、学園に通うならきっと物入りになると思うんだよね」
「向こうで掛かるお金は、父さんが仕送りしてくれるんだろ?」
「カシュー兄さんとレベッカ姉さんが、働きながらお金の掛からない町の学校に通ってたんだから。わたしだけ、働きもしないで金を出してもらうなんて、できるわけないでしょ。自分の食い扶持くらい、自分で稼ぐわよ」
わたしの言葉に、弟はじっとわたしを見てからこれ見よがしな溜め息を吐き出した。
「ソレイユって、そういうとこあるよな」
「そういうとこって、どういうとこよ? ケンカなら買うわよ」
眉を怒らせて顎をクイッと上げて、挑発する。
「売ってねえよ、バーカ」
「バカって言う方が、バカなんだよ」
最近やってなかった弟との口喧嘩に、ちょっと笑ってしまう。
学園に行ったら、当分こんなこともできなくなるんだよね、いまのうちにたくさんケンカしとこ。
「そういや、領都の近くにもダンジョンあるんだよな? そっちにも行くのか?」
「どうだろう。学園の勉強って二年だけだから、勉強しなきゃならないことがみっちりあるらしいんだよね、ダンジョンに入る暇あるかな――いやいやいや、アザリアの遺跡以外のダンジョンは、母さんから駄目だって言われてるし!」
「行く気満々だっただろ……」
「そんなことないよ! 大体、そんな時間もないと思うし」
弟には否定したが、領都での生活資金はまだ二年分貯まっていないので、領都の近くのダンジョンで、休みの日に小遣い稼ぎをしようと計画している。
勘の鋭い弟を持つと、誤魔化すのが大変だ。