24.家族会議
それにしても、本当に冒険者の人多いな。
以前は三階層までしかないとされていたダンジョン『アザリアの遺跡』が、いまだに踏破されてないからなんだよね。
わたしが最近聞いた情報では、現在は二十階層まで到達していて、まだ先があるとのことだ。
ダンジョンあるあるだけど、十階層から一気に魔物が強くなるんだって。だから、十階層よりも下に行けるのは、数字が少ない方がレベルの高い冒険者の中でもランクが五以下じゃないと認められない。因みに、冒険者になりたてはレベル十からはじまり、ランクを上げるには実績を積む必要がある。
「十三歳になったら冒険者登録できるから、あと二年かあ。さっさと登録して、ダンジョンで苔取りしたいなあ」
冒険者に定期的に依頼が出される、アザリア苔の採取は畜産農家の生命線ともいえる依頼であり、冒険者ギルドでも力を入れて依頼を出してくれているが、なにせ……地味な苔集めなのでなかなか依頼を受ける冒険者がいないんだよね。
それなら自分で行った方が早いわけで、長兄と父が時々ダンジョンに入ってるんだけど、我が家の主力二人を苔採取に取られるのはよろしくない。
母は雑草も逃げる末っ子三歳児のカティアがいるから、ダンジョンには行けないし、姉はそもそも冒険者の資格は絶対に取らないと公言している。お金持ちと結婚するために、キケンインシはハイジョするんだそうだ。
だからわたしと弟のバンディがさっさと冒険者登録をしたいんだけど、年齢制限に引っかかっているので二人でやきもきしてる。
双子と末っ子のカティアが寝た後、長女の招集で家族会議が開かれた。
揃うや否や、長女が挙手して発言する。
「『熊の一撃亭』との取り引きの中止を希望します」
長兄は、だよなと苦笑いし、挙手する。
「賛成。取り引き量は少ないのにさ、配達に行ったら、買ってやってるんだからって、テーブルの移動とか、裏口の荷物を積んだりとか、関係ない用事を頼まれるんだよ」
一度や二度のことじゃなく、毎度用事を頼まれるらしい。
「最初に手伝ったのが悪かったのかな……。他のところじゃ、そんなことないから油断してた」
長兄が苦々しく言う。
「カシューが悪いわけじゃないわ。あの女――(父から睨まれ、小さく咳払いして言い直す)あの人が、厚かましいのよ」
長女が憤慨する。
飲食店つながりで面識があるんだろうか? 妙に訳知りな感じがするなと思いながら、わたしも手を挙げて今日あったことを報告した。
「うげ、ソレって缶を開けて見せてたら、何か入れられてたかもしれないやつだろ? 子ども相手にえげつなくね?」
わたしの話を聞いて、弟のバンディが顔を顰める。
父は、みんなの意見を聞いてから、頷く。
「わかった、あそことの取り引きは、今月注文が入っている分で最後にしよう」
「元々、あちら様が困ってらしたから卸していたけれど。うちの子たちに、そんな態度を取る方に配慮する必要はないわねえ」
母ものんびりした口調で同意してくれた。口調はのんびりだけれど、笑顔に迫力があるのでかなり怒っているとわかる。
「あそこからのお話を受けたのお母さんだから、明日話を付けてきますね」
「いや、僕が」
「私が行きますから、お父さんは仕事をしてらして」
母の迫力に、父が負けた。
母が動くならば、わたしも頑張らねば!
「カティアはわたしが面倒みるね!」
「お願いね、ソレイユ」
ということで、家族会議は全会一致で終了した。平和だ。
翌日、母が『熊の一撃亭』に一撃を入れ、もとい、話をつけてきて今月いっぱいで取り引きを終了することとなった。
長兄が配達に行っても、用事を言いつけられなくなったと喜んでいるし、毎日のようにあった少量の追加注文もなくなった。
取り引きのある他の飲食店の人から、『熊の一撃亭』の女主人が我が家の悪口を触れ回っているという話をチラリと聞いたけれど、それから数か月としないうちに店が閉店していた。
卸業者から一斉にそっぽを向かれたらしい。
ウチだけじゃなく、他の業者さんにもあんな態度してれば当然だよね。商売は対等なものなんだから、「買ってやってる」なんて横柄な態度じゃダメなんだよ。
「あの人、お互い様って言葉、知らなかったのかな」
わたしが魔法で牛舎の汚れた敷き藁を外に出し、綺麗になったところへフォークで藁を解して新しい藁を入れているバンディに声を掛ける。
この汚れた敷き藁は堆肥にするために、このあと堆肥盤に運ぶのだ。
良質な堆肥は農家さんが買ってくれるので、なんでもかんでも綺麗にする魔法を使えばいいってものじゃないんだよね。面倒だからって、なんでもかんでも魔法で綺麗にしてたら怒られたのは懐かしい思い出だ。
バンディは魔法が苦手だけど、兄と同じように身体強化が上手いので、身体強化で筋肉をムキムキにしながら藁を解している。
「王都からこっちに来た人らしいし、もしかすると、王都ではああいう態度が当たり前なのかもしれないけどな」
「納得できかねる」
納得はできないけど、次男の言う可能性もあり得るか。
「俺に言われても困る。そういや、ソレイユ。最近あの人に会ってるか?」
「あの人? ああ、ライゼス? 忙しくて全然会ってないけど、どうかした?」
「いや、ソレイユが知らないってことは、デマだったのかな……。実は」
続けて次男が告げた言葉に、わたしは大急ぎで父を探しに走った。