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ソレイユだけが気づいていない~ステータス鑑定で遊んでいたらとんでもないことになりました~  作者: こる
第五章

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18.イルンの若木

 本日のご依頼は『イルンの若木の移植作業』でございます。


 依頼主は、カミル……ではなくて王弟殿下。公人としての内密な依頼ということになっている。

 依頼の内容が内容なので、ギルドを通さずに直でのやりとりにしてるんだよね。本当は、ギルドから怒られるやつだけど、仕方ない。


 一度タウンハウスに戻り冒険者服に着替えて、三人で巡回馬車に乗り、昨日のダンジョンへ向かう。明日には領都に帰らなければならないので、時間が無い中での行軍だ。

 イルンの若木の詳細については、行く前にオブディティにも伝えた。


「王宮の奥にある、外交にも使われるくらい美味しい木の実を付ける木? 現在は王宮にしかない、とても貴重なもので、その木の小さいものをソレイユさんが見つけたのね。……ソレイユさん、あなた昨日はダンジョンデートだったのでしょう? どうして、そんな大変なものを見つけてしまうの? ねえ?」

 説明を聞いた後にオブディティが言った言葉だ。


 いや、わたしも見つけちゃうなんて、思ってもみなかったよ。


「惨事を引き起こしたわけではありませんから、情状酌量の余地はありますけれど。危ないことは、程々にしてくださいませ」

 本当に心配そうに言うオブディティに、罪悪感が湧いた。


「今度から気をつけるね」

「そうしてくださいまし」


 ツンデレかな。


「問題の木は、太陽光で急激に成長するらしく、樹齢に見合った大きさになるので、危険があるのを知っておいて欲しい」

「そこで、わたくしの出番というわけですわね。安心してください、定植場所に着くまでは絶対に出しませんから。殿下が能力のコトを明かされたのも、わたくしたちが動けるようにする狙いがあったのですね」

 なるほど。


 バレていれば、能力をフルに使うことができるもんね。


「とはいえ、王宮と紐付きになってしまいましたけれど。ライゼス様としては、問題ありませんの?」

「今のところは、強制力もないし、王弟殿下が窓口になるというなら、こちらに不利になることはなさらないだろう」

 うんうん、わたしもそう思う。


「だが、何があるかはわからないから。慎重さは持っていなければいけないけれどね」

 ふむ? 慎重さ?


「そうですわね。……ソレイユさん、うっかりなんでも、ハイ、ハイ、言うことを聞いてはいけませんよ?」

「了解です!」

 わたしがうっかり怪訝な顔をしていたのに気づいたオブディティに、注意されてしまった。


「判断はライゼスに任せておきますっ」

「まずは、それでいいよ。だんだんと覚えていくようにしようね」

 覚えてどうにかなるなら覚えよう。ゆっくりでいいなら、多分、なんとかなると思うし。


「ライゼス様は甘すぎませんか?」

「そうでもないと思うよ」

「そもそも、王都から離れたところに居るんだから、そう滅多に依頼なんかこないよきっと」

 そう言ったわたしを、オブディティが睨む。

「おやめなさい、変なフラグを立てるのは」

 あ、バレた。


「旗を立てる?」

 ライゼスが珍しく反応している。


「平穏は欲しくありませんの?」

「やりたいことは色々あるけど、行動するにはお金がいるし。王弟殿下の指名依頼はきっと報酬が高いと思うんだよね!」

「く……っ! それは、そうね。お金はあっても困らないもの」

「あぶく銭じゃなくて、自分で稼ぐっていうのが大事だよね」

 王弟殿下直々の依頼をバリバリ受けられたら、ウハウハになること間違いなしだよ。


「来年は最終学年だから、冒険者をやってる暇はないよ、二人とも」

 そういえば、オルト先輩も最後の方はかなり必死だったね。


「前半なら、きっと大丈夫!」

「殿下も学園のことはよくご存じだから、きっと依頼は出さないと思うよ。さっきソレイユが言ったように、そう滅多に指名依頼なんかくるものではないからね」

「そっかぁ……」


 肩を落とすわたしとは裏腹に、オブディティは「ライゼス様までフラグを立てるなんて……っ。恐ろしいカップル……ッ」なんて呟いて、慄いていたのに気づかなかった。


   *  *  *


 さて、到着しましたダンジョンの一階層の、あの場所です。


「見事に橋が落ちていますわね。お二人は、魔法でここを渡ったのですわね?」

「渡るだけなら、身体強化だけでも多分大丈夫だよ、壁はつるつるしてないから」

 つま先が引っかかれば、なんとかなるよ。


「わたくしには無理ですわね。ライゼス様、反重力の魔法をお願いいたします」

 すぐさまライゼスに頼むオブディティに、思わず頬を膨らませてしまう。

「またライゼスに頼むー、わたしだって上手にできるんだよ」

 なにせ、反重力魔法の第一人者(多分)だからねっ!


「……ではソレイユさんは、その木の生えている場所まで、連れて行ってくださいまし」

 一拍の間は気になるけれど、頼ってもらえたのが嬉しくて「まかせて!」と胸を張る。


「じゃあ、魔法を掛けるよ。『反重力の魔法』」

 ライゼスが手をオブディティにかざして魔法を掛ける。


「それじゃ、例の場所までわたしが案内するねっ!」

 ウキウキしながらオブディティの手を取る。


「お願いいたしますわ――ぁぁぁぁぁぁぁ」

 オブディティの手を引き寄せ、小柄な彼女を小脇にしっかりと抱えて、地面を蹴って壁を走る。


 すぐに叫び声が止んで安心する、声に寄ってくる魔物も居ないわけじゃないからね。ここに生息しているかどうかは知らないけれど。

 あっという間に、岩棚に到着、三人乗るのがギリギリだね!


「ぜぇ、はぁ、はぁ……だ、だから、イヤですのよ……っ」

 肩で息をするオブディティを、ライゼスとわたしで左右から支える。


 足場が狭すぎて、オブディティも勢いよく怒れなくてよかった。


「脇に抱えるなんて、どうかしていますわっ」

「じゃあ、負ぶさる? ちゃんと掴んでないと危ないと思うんだけど」

「片手は開けておきたいというのはあるからね」

「……くっ、仕方ありませんわねっ。それで、これがイルンの木ですのね」

 オブディティは自分の身長くらいある木を指でつつく。


 細い幹がそれだけでサワサワ揺れた。


「この木はかぶれることはないから、触っても大丈夫だけど、今後は迂闊に初見の植物には触らない方がいいよ?」

「そういうことは、早く言ってちょうだい」

 えええ……だって、しっかり者のオブディティだから、今更だと思ったんだよう。


「外に出したら、一気に大きく育つのでしたわね」

「ソレイユ、どのくらいの大きさに育つかわかる?」

 ライゼスに聞かれて、イルンの若木のステータスを見る。


「ええと、直径がだいたい、この通路の幅くらいだって」

 十メートルくらいってことは、そういうことだよね。

「……それは、随分、大きく育つわね」


 本当にそうだよね、ウチの近くにあるレドナステーブルの大樹よりも五十年くらい若いけれど、あれよりも大きくなるらしいもんね。

 オブディティはため息を吐くと、イルンの若木の葉に触れる。


「この葉っぱ、少し傷つけても大丈夫かしら?」

 問われて確認すると、問題ないと出たのでそう伝える。

「じゃあ、この木、わたくしのモノにしますわね」


 ポケットから出したペンで、葉っぱにサインを入れた。インクは弾かれるが、傷跡となって名前は残る。


「思うだけじゃダメなんだ?」

「そうね、名前を書き込んだ方が、所有権を認識しやすいのよね」


 なるほど。

 そう言っている間に、オブディティは『収納』の中に、イルンの若木を入れてしまう。

 その途端、わたしたちが乗っている足場がひび割れて、崩れ落ちた。


「どうやら、木の根で支えられていたようだね」


 ライゼスが咄嗟にわたしとオブディティを両脇に抱えて運んでくれなきゃ、虫型の魔物が跋扈する三階層に落ちるところだった!

 なんで植物のない三階層に、虫型が大量にいるのか、ダンジョンは不思議すぎる。


「ほ……っ、本当にっ、心臓に悪いですわっ」

 オブディティが地面にへたり込んで、胸を押さえている。

「びっくりしたよね。とりあえずダンジョンを出て、納品しよう」


 今カミルが移植する場所を準備してくれているので、持って行けばすぐ植えられると思う。

 ちょっとサイズ感を伝えてなかったから、手直しもいるかもしれないし。


「ソレイユさん、あなたは気軽に納品と言いますけれど。場所をわかっているの?」

「王宮でしょ?」

「そうね、王宮ね。それも奥の方だと聞いたわね」

「滅多に入れない場所に入れるなんて、ワクワクするよね!」

 白亜の宮殿とかなのかな?


 遠目には王宮の上の方が見えたけど、貴族と鉢合わせするのがイヤだから近づけなかったんだよね。

 今回は仕事だし、仕方ないよね!

 ダンジョンを出ると外は夕闇だった。

 王都の方向がほんのり明るくなっていて、なんだかちょっとホッとする。

 それにしても、今回は追いかけてくる人はいなかったな。昨日のアレで、全部捕まったのかな。


「よお、早かったな。首尾はどうだ?」

 いつの間にかカミルが近づいてきていて、ライゼスに声を掛けていた。


「上々ですよ。そちらは?」

「こっちも、上々だ」

 こそこそ話している二人を見て、オブディティが声にならない悲鳴を上げている。


「どうしたの?」

「眼福ですわ。わたくし、王都にきて本当に良かった」

 胸の前で合掌して、涙を流さんばかりに感動している。


「あ、そうですわ。思ったのですけれど、夜なら、あの木を出しても平気ではありませんか? 太陽の光が問題なのですよね?」

「それがね、空には星があって、太陽の光を反射してるから、それもダメなんだって。反射の太陽光でも成長するなんて、太陽光に対して目茶苦茶貪欲だよねえ」


 どんな小さな光も見逃さないというその心意気は、ダンジョンという日の光のない場所で生まれたから育まれたガッツなのかな。


「植物として、正しいと思いますわ。長い間、あんなところにいたのですもの。太陽の光が恋しくて仕方ないなんて、かわいいじゃありませんか」

 そうだね。

 なんの知識も無い人が外に持ち出したら、ダンジョンの入り口を破壊する大惨事になる木だけどね。

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誤字脱字報告、大変、大変っ助かっております!
ありがとうございます!!

゜・*.✿*書籍化決定しました!*✿.*・゜
一迅社のアイリスNEO様より令和7年12月2日に発売となりました!

読んでくださる皆さまのおかげです!
ありがとうございます。°(°´ω`°)°。ウレシ泣キ
― 新着の感想 ―
植物の心意気と健気さにキュンとなりかけて  大 惨 事 ⭐ のラストに真夜中だけど笑い声出そうになりましたん
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