13.オルト先輩に会うぞ!
実演販売もとい作り方の講習も終わり、カミルのサインをもらった依頼票を持って、冒険者ギルドに戻って参りましたよ!
「はい、確かにこちらで依頼達成となります。お疲れさまでした。依頼料は前金を差し引いたものとなりまして……はい、金額をご確認願います」
渡されたお金を数えて、間違いが無かったので受領書にサインを入れて完了となった。
お金は三人で均等に分けましたよ! 懐はぬっくぬくです。
オブディティは収納の能力を生かし、ライゼスは領官と交渉して馬車の同乗を獲得し、わたしは実演販売を頑張ったからね!
はじめての指名依頼だったけれど、達成できて大満足だ。
「さて、それでは。もうひとつの方ですわね」
ポニーテイルにしていた髪を解きながら言ったオブディティの表情は険しい。
「オルト先輩を捕まえるんだよね! まずは魔道具開発研究所の場所を調べよう」
「それは僕が知っているから大丈夫」
まずは着替えてから行動しようということになり、一度ブラックウッド家のタウンハウスに戻った。
ワンピースにショールを羽織ったオブディティに、冒険者服よりは劣るものの動きやすそうなパンツにシャツ姿のライゼス、そしてわたしはライゼスが用意してくれたシンプルで動きやすい服を着て薄手の上着を着ている。
着替えを用意してくれたメイドが髪も整えてくれて、テンションも上がる。
社交シーズン真っ只中の領主様と奥様はまだ外出から戻っていなかったので、挨拶はまた次の機会ということで、すぐに出立した。
魔道具開発研究所は町の郊外にあった。
郊外とはいえ貴族の邸宅が建ち並ぶ地域寄りに立っている。
魔道具を作る人には、貴族が多いから通勤を考えてこの微妙な位置らしい。
魔道具作成事情は、田舎なら魔道具の工房に弟子入りして、実地で腕を磨くけれど、基本的には既存の魔道具の整備らしい。新しい魔道具の開発は、こういう専門の機関で作られることが多いらしいんだけど、そういう場所はハードルが高くて、学園を出るだけの知識と教養がないと門前払いになってしまうということだ。
魔道具の世界は奥が深いよねえ。
ダイン家じゃ父や長兄がひょいひょい改良したり、新しい魔道具を作ったりしていたから、難しい物っていうイメージがなかったんだよね。
「以前は、爆発とか、暴走とか、そういった事故が年に一度はあったらしいから、人の多い場所から移転したらしいよ」
広い敷地は庭園が造られているわけではなく、だだっ広い芝生の中に建物がある感じだ。柵ではなく塀で囲まれていて、門番もいてかなり厳重。
なるほど、安全対策なのか。
「爆発、暴走……」
オブディティの顔色が悪くなる。
それはそうだよね、オルト先輩が勤めている職場が、そんな危険な場所なんて思わなかったよね。
あ、でも、魔道具創作部に入るときに、オルト先輩から魔道具の危険性について、説明されたっけ。それに、わたしが自作の魔道具を作る前に必ずチェックもあったし。
オルト先輩は、あれで結構面倒見がよかったよね。
「以前は、ってことだから、今は改善されたってことだよね?」
オブディティの顔色があんまりにも悪いので、わたしはフォローするようにライゼスに聞いた。
「そうだね。ここ数年は、事故があったとは聞いてないから、安全管理体制がしっかりしたんじゃないかな」
ライゼスの答えを聞いて、オブディティも少し安心したみたいだ。
「オルト先輩の職場は、十七時までだから。その時間帯に、会いに行こう」
押しかけていって面会を求めることもできるだろうけど、新入職員であるオルト先輩の立場が悪くなりそうだから、それはやめることになった。
「十七時でしたら、すぐですわね」
オブディティが言うように、既に夕日で、退勤時間が近いことがわかる。
王都はそこら中に魔道具の街灯があり、兵が定期巡回をしているので治安もいい。
今のところ、貧民街というのも見たことがないし、聞いたこともない。
ルヴェデュの町も治安がいいけれど、あっちは町の人がなんとなくみんな顔見知りっていうのがあるからだ。そういえば帰省したときに聞いた話だけれど、アザリアの遺跡のおかげで町の人口が増えたので一時期少しだけ荒れたけれど、アレクシスたち上位の冒険者が先頭に立って治安回復に努めてくれたので、悪化する前に治安はよくなったのだそうだ。さすが、ウチの長女を射止めた人だ。
さて我々は、オルト先輩を捕まえるために、魔道具開発研究所の最寄りの停留所近くの喫茶店に移動した。
魔道具開発研究所の職員は、管理職を除いたほとんどの人がこの停留所から定期馬車に乗って帰宅するらしい。
定期馬車の路線はいくつかあるし、到着時刻はまちまちだけど発車時刻は決まっているということだ。
貴族の社交シーズンではあるけれど、庶民にも大いに影響があって、町の中は華やかな雰囲気だし、遅い時間になっても人通りは途切れない。
「ウチの田舎とは違うねえ」
窓から外を眺めながら、楽しげに道行く人を見送る。
「ルヴェデュの町は、静かなのが美点だしね」
「……物は言いようですわね。それにしても、まだかしら」
そわそわと停留所をチェックしているオブディティが、なんだかかわいい。
「定期馬車の出発時間はまだ先だから大丈夫だよ。万が一取り逃がしたら、魔道具開発研究所の独身寮に押しかければいいけれど、あそこは警備が厳重だから、できればここで捕まえたいね」
ライゼスの言葉にちょっと驚く。
「職員には貴族が多いんだよね? なのに、寮暮らしなの?」
「貴族といっても色々だからね。爵位を継がない人間だと、屋敷を維持するのも大変だからね」
「そうですわね、最低でも二人は雇わなければなりませんものね。王都で屋敷を持つのは、かなりお金も掛かりますし、屋敷を保有する上で色々な規則もあると聞きますものね」
ライゼスとオブディティの言葉に、そういうものなのかと勉強になる。
「仕事中毒なら、家なんて寝に帰るだけだもんね。そんなに立派なものなんていらないか」
脳裏に、あちらの世界で聞いた社畜の生活を思い出す。
「どの世界にも、仕事好きはおりますものね」
オブディティも心当たりがあるのか、ほぅ……と物憂げにため息を吐いた。
「二人とも、仕事に対して、随分殺伐とした印象だね」
「頑張ってる人は、往々にして自分の健康や睡眠をないがしろにしがちだよね」
「そうですわ、よくあるお話ですわよね」
おほほと、オブディティが笑って誤魔化す。
「あっ、馬車が着いたみたいだよ」
青い幌の定期馬車が停留所に着いた、中からまばらに人が降りてきて、乗務員が車内を掃除している。
あれがオルト先輩がいつも乗っている便らしい。
「出発まで、あと二十分ですわね。皆さん、行きますわよ」
残りのお茶を一気に飲み干したオブディティに、わたしとライゼスも続いた。
本年は『ソレイユ』をご愛読いただき、本当にありがとうございました!
ありがたいことに、書籍化もさせていただき、アクリルアートまで作っていただけて、作者、感無量でございました。
年明け2日の更新で、とうとうオルト先輩との再会が待っております。
果たして、オブディティ嬢は薄情なオルト先輩に鉄槌を下すことができるのか!?
来年もお付き合いの程、どうぞよろしくお願いいたします(≧∇≦)ノシ
2025.12.31 こる.




