11.納品
流石、領の文官のトップである補佐官たちだ、三人も余計な人員が増えたのに一切の遅延なく、予定ぴったりに王都にある領主様のお屋敷に着いた。
領都の屋敷を出るときに、ライゼスの護衛であるトリスタンとロウエンが一緒に来ようとしたけど、流石にそれはライゼスが止めていた。珍しくロウエンが食い下がっていたけれど、保護者同伴というのは流石に嫌だよ。
「皆さんのお陰で、予定通りに着くことができました」
見た目も中身も厳格でちょっと苦手なハーレフォード補佐官長が、ニコリともせずにお礼を言ってくれた。
十日の旅の中で、途中の道がぬかるみで危うく立ち往生しそうになって、反重力の魔法で浮かせて難を逃れたところでタイミング悪く盗賊が出てきて、護衛の兵士やわたしたちで応戦して無事に切り抜けることができたことを言っているのだろう。てんやわんやだったからねえ。
ぬかるみは盗賊が作った罠だと予想した上で、盗賊にしてはいい武器を持っていることを訝しんだライゼスが近くの町へ盗賊たちを引き渡す際に、わたしとオブディティには内緒で事情聴取に参加していた。
事後報告で聞いたところによると、彼らは雇われて盗賊のフリをしてわたしたちを襲っていた、雇い主についてはいくら探っても出てこず、「アレで口を割らないのだから、実行犯たちは本当に知らないのだろう」ということだった。……アレってどれなんだろうとは思ったが、わたしもオブディティも突っ込まなかった。
「こちらこそ、同乗させていただいて大変助かりました、ありがとうございます」
ライゼスに続いて、わたしとオブディティもお礼を伝えてから、わたしたちは領主様の家から小さな馬車に乗り換えて、町の中央にあるという冒険者ギルドに向かう。
実は、甘えついでに、領主様のお宅に宿泊させていただくことになったんだよね。
本当に……わたしの感覚では、冒険者らしくない行動だと思うんだけれど、「コネでもなんでも、あるものを使うのはいいのではないかしら?」とオブディティも全面的に賛成したし、貴族派のことを考えると宿に泊まるのは危険だというライゼスの耳打ちに、納得するしかなかった。
いつか、冒険者らしい冒険もしたいなあ。
時価百万のシリリシリリ草の粉は、オブディティの収納に入れてもらって、しっかり安全を確保してある。
そして、馬車で王都を走ったんだけど、人が多かった……っ!
町行く人がみんな、お洒落に見える。貴族ではない人たちも、綺麗な服を着て町を歩いている。
町の中もゴミが落ちていないし、昼間っから酔っぱらって路上で寝ているおっちゃんなんかもいない。
騎乗して警邏している人たちもビシッとしていて、とてもかっこいい。
広い通路は馬車がすれ違えるし、歩道もちゃんとある。
街並みも整然としていて、古くからあるような年季の入った建物がたくさんあって、大事に使っているのがわかる。
感じるのは、ここに住む人たちは、この町を大事にしているのだろうなということだった。だから、町が綺麗に維持されて、こんなにも活気に溢れているのだろう。
そして、王都の中心部近くにある冒険者ギルドで依頼書とシリリシリリ草の粉を提出したんだけれど、受け取ってもらえなかった。
シリリシリリ草の粉の瓶は、ギルドに入る前にライゼスの鞄に移動してあるので、問題ナシだ。
「申し訳ございません、そちらの品物は直接ご依頼主本人の所へお持ちください。依頼が達成となったあかつきには、依頼票へサインを受け取り、ギルドまでお持ちください、精算処理をいたします」
ビシッとした制服姿のかっこいい受付のお兄さんに言われて戸惑う。
依頼主はVIPだからそう簡単には会えないと思うんだけど……。あ、そっか! シリリシリリ草の粉を使ってチーズを作らなきゃならないから、ここで受け渡しをしないのか。
受付のお兄さんから聞いた住所はそう遠い場所ではないとのことで、折角なので町を歩こうということで、馬車には屋敷に帰ってもらい三人でカミルの私邸へと向かった。
ここは王都の中心部なので、観光するにはうってつけの場所で、ついキョロキョロしてしまう。
中心を目立たせるためなのか、中央に高い塔が立つ円形の公園の周囲を馬車の道路がぐるりと回る巨大なロータリーがあり、そこから放射状に建物が並んでいる。
そして、ロータリーを東から西へ走る一番立派な道路の西のはるか先には王様の住む宮殿があった。
ここからでも、その一部が見えるんだから、どれだけ大きいのだろう。
「朝日が当たる王宮は、とても美しいんだよ」
ライゼスが教えてくれたけれど、王宮の周辺は貴族街なので、迂闊に近づきたくない。領主様のお屋敷は貴族街でも庶民の住む区画に近い場所なので、貴族派は近くにいないらしい。
主要道路から外れ、しばらく歩いた先にあった案外スッキリとしたコンパクトなお屋敷。
密集して家々が立ち並ぶ庶民街の端にあって、庭があり塀と木々に囲まれてはいるものの、王弟殿下が住むにしてはシンプルだ。
「冒険者ギルドから近いから、きっと、冒険者としての拠点だと思うよ」
ライゼスの説明で納得した。
門扉には門番がいて、ライゼスが冒険者証を見せて用件を伝えると、すんなりと中に通された。
「思ったよりも、庶民的で安心いたしましたわ……」
特攻服姿のオブディティが、ホッとしたように言う。
TPO的に服装が気になっていたようだ。
オブディティが気後れするのはわかるけれど、外見でどうのこうのいう人じゃないと思うんだよね。
たどり着いた玄関は広めで、なんだかお洒落な匂いがした。
「よお! 早かったな!」
出迎えてくれたのは、なんとカミル本人だった。
ラフな服装で、無茶苦茶フレンドリー。
僅かにあった緊張が解けてしまった。
「カミル様、ご依頼の品をお持ちしました」
ライゼスがそう言って、彼が持っていた鞄からシリリシリリ草の粉が入った小さな瓶を一本取り出して、カミルに渡した。
「この瓶が十個あります」
「へえ、これが噂の粉末か。チーズも作ってもらえるんだよな?」
興味津々といった感じで粉を見て、チーズの作成についてはわたしに話を振ってきた。
「はい、生乳があれば、お作りいたします」
「今日着くことは聞いていたから、ちゃんと用意してある。できれば、作り方をウチの料理人にも教えてもらいたいんだが、駄目だろうか」
その願いにはライゼスが答える。
「基本的な作り方はごく一般的なものですが。時間を短縮するために魔法を使って作っているので、ソレイユがやり方を見せるということでよろしいですか?」
「チーズを魔法で! それは俺も見てもいいか?」
好奇心が止まらないカミルも同席することになりました。
カミルの案内で調理室に通され、わたしの前に生乳とチーズを作る時に必要なレモン汁が運ばれてきた。
見慣れたミルク缶でホッとする。
それが三つ並べられ、料理人の人たちも勢ぞろいする。
「とりあえず、部屋中に綺麗にする魔法をかけていいですか? 料理を始める前のお約束なので、これは絶対に外せないんですが」
「かまわんよ」
カミルの了解を得たので、心置きなく部屋全体に「綺麗にな~あれっ」しゃらんら~と綺麗になる魔法をキラキラさせた。
カミルと料理人たちにはウケたけれど、ライゼスとオブディティは慣れてしまって無反応だ。
「面白い!」
「ありがとうございます! では、チーズを作りますね――」
ぽかんとする料理人たち、腕組みをして感心しきりで見ているカミル。オブディティも見るのははじめてだったけれど、彼女はすぐに順応したのか、最後まで見ることはせずに、キッチンの端で椅子に座り出されたお茶をのんびり飲んでいた。
「――ここまでできましたら、シリリシリリ草の粉末を入れます。入れすぎると勿体ないので、ほんの少しで大丈夫です」
ティースプーンの四分の一くらいを取り、浮かせているチーズの固まりに入れて混ぜる。
「はい完成です! 本来は冷蔵庫で一晩寝かせてから食べます」
つるんとしたフレッシュチーズの固まりを、大きなお皿の上に載せてカミルに渡した。
「今日は、折角なのですぐ食べてみよう」
カミルの勧めで、部屋にいる全員で試食することになった。料理人たちも一緒に試食する。
一口サイズのチーズを口に含んだ料理人たちの背後に稲妻が見えた。
粉……入れ過ぎたわけじゃないはずだけど。
「うまい……っ! うますぎる、これが、シリリシリリ草の粉の効果なのか」
「最初から最後まで、手を使わずに魔法だけで作り上げるのも、うまさの秘訣なのかもしれない、手の熱が伝わらない方が美味くなるのかっ」
「先程の魔法はやっぱり秘匿されてるんでしょうか、あれは応用が利きそうです」
料理人たちが興奮しきりだ。
うんうん、こんなに喜んでもらえると作った甲斐があるってものだねえ。
「因みにこの粉末ですが、どの料理にでも使うことができます。不思議と旨味が増すので、少量入れるといいですよ」
わたしの言葉に、料理人たちの活気が更に湧いて、活発に意見が飛び交う。
うん、いい仕事したなあ。
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多分、わたしが一番乗りで購入しました✧ド(*,,ÒㅅÓ,,)ャ✧




