10.父からの注意
説明が終わり盗聴防止の魔道具が解除されて、解散となったが、ライゼスとわたしだけ父に呼び止められた。
「ソレイユ、ライゼス様から離れずに、ちゃんと付いて歩くんだよ。先方の思惑がどこにあるのかはわからないけれど、それはこちらにとって悪いものではないはずです。ライゼス様、どうか王都ではソレイユのことを、よろしくお願いいたします」
「はい、命に代えても、ソレイユを守ります」
さらっと父の言葉に応じてくれたけれども、命に代えてもっていうのは、さすがに大袈裟過ぎやしないかな? え、いいの? 父もそれで納得してるの?
まあ二人が納得してるならいいのか?
ライゼスはわたしが守ればいいわけだし。
「ソレイユ、本当に、ちゃんとライゼス様の言いつけを守るんだよ、勝手に歩き回ったら駄目だからね。王都は道は単調に出来ているけれど、単調が故に迷いやすくなっているから、一人歩きをしたら迷子になるかもしれないからね」
子どもにするような注意が続いてさすがのわたしもムッとする。
「そんなに心配しなくても、迷子にもならないし、誰かからお菓子をもらったとしても付いて行ったりしないから大丈夫だよ。それに、王都には荷物を届けて、チーズを作ってくるだけだよ? 学園が始まるまでに帰ってこなきゃならないから、とんぼ返りだよ」
「わかってはいるんだ、わかっては……だけど、ソレイユだからなあ。君はいつも、突拍子もないから、心配が尽きないんだよ」
眉を八の字にする父に、むうっと唇が尖ってしまう。
「お父さんは心配なだけよ? ほら、そんな顔をしないの、かわいい顔が台無しよ?」
カップを片付けていた母に、両頬を手の平でむにむにと解される。
「……ちゃんとライゼスの言うことを聞いて行動するから、心配しないで。寮に戻ったら、手紙を書くね」
「うん、ありがとう。気をつけていっておいで。王都は見応えのある場所だから、きっと君にいい刺激をくれるはずだよ」
父とハグをして、和解した。
わだかまりを残したまま出立しないで済んで本当によかった。
翌日、三男のディーゴからシリリシリリ草の粉を受け取る。
量の指定はなくて、この依頼を受けたときにギルドから渡された前金から、予め指定されている金額をライゼスが父に渡すんだけど――。
「さて……市場に出していない商品の値付けだね。どうする、ディーゴ」
「ぼくとしては、この瓶一本十五万は欲しい」
日本でいうところのテーブル胡椒くらいの小さな瓶一本で十五万! 確かにスパイス系は高いけれども、思い切りのいい金額を出してきたね。
二十グラムくらいで十五万か……。
「それには、希少性は上乗せしているのかい?」
「してないよ、だから最低価格として、十五万」
最低価格が十五万なんだ……。
父と三男のやり取りを固唾を呑んで見守る。
「じゃあ、一本二十万にしよう。これを五本用意してくれるかい」
……流通してないし、万能調味料だから、希少性は高いけれど、そんなに高い金額で大丈夫なのかな。
「妥当なところだから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
ライゼスがわたしの眉間の皺を指で解す。
「妥当?」
「ぼったくってもいいと僕は思うけど、心証を悪くするのも面倒だから、とても妥当な金額だと思うよ」
説明されて、そうなのかと納得する。
百万で百グラム……一グラム一万。日本でもお高いサフランが一グラム四千円前後だったし、まあ、あり得る値段ではあるの? わからない。
まって、そのグラム一万を、わたしバカスカ使っていましたね!
一番最初に作ったバターなんて、三十グラムとか入れていたかもしれない。だって、加減がわからなかったし!
超高級バターだったんだね、あれ。
シリリシリリ草の粉の値段も決まり、しっかりと梱包する。百万の調味料か……緊張しちゃうなあ。
家族との別れの挨拶を済ませて、早々に領都に向けて出発した。
途中にあるアザリアの遺跡に後ろ髪を引かれながら、行きと同じようにこっそり馬たちを回復させつつ領都に急ぎ、領都で準備万端のオブディティと合流した。
そこでわたしたちに、ライゼスから衝撃のお知らせがあった。
「王都に向かう方法なんだけど、今回は丁度、領の納税や申告に関する打ち合わせの為に、補佐官が何人か書類を持って王都に行くから、一緒の馬車に乗れるように手配したから」
冒険が潰えた。
領主夫妻は毎年王都で行われる、新年参賀や社交行事に参加しなくてはならないので、既に王都入りしており、補佐官はすこし遅れて王都に入るのだそうだ。
はじめての指名依頼、はじめての王都、道中にも浪漫を感じてわくわくしていたのに!
「二人とも、そんな顔をしても駄目だからね。そもそも、道中に時間を使うよりも、王都での時間を増やした方がいいとは思わないかい?」
「なるほど?」
でも、わたしは父絡みで、あまり王都にいない方がいいのではないでしょうかと、視線でライゼスに聞く。
「王都には巨大なダンジョンが数カ所あるから、時間を作って、そこに潜るのもいいと思ったんだけど」
なるほど、王都内に居なければ問題なしってことですね!
貴族主義の貴族はプライドが高く、冒険者にはならないっていうのは聞いたから、安心してダンジョンに行けるよね。
「いいと思います!」
「そうですわね、あちらでの滞在時間が長い方が、あの人にばったり会う確率が上がりますものね」
オブディティは微笑んでいるのに、背後に怒りマークが浮いて見える。
未だに怒りが冷めていないみたいだ……。
オブディティだけ卒業式にも会えず別れの言葉もなくて、王都に行ったオルト先輩に文句を言いたいという気持ちはわからなくもない。
かくしてわたしたちは、ライゼスの手配で領の補佐官たちの馬車に便乗させていただき、王都に向かった。
やっと王都に向かうぞー!
王都編なのに出発までに10話かかったー!




